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2025.09.12
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ブラジル最高裁、ボルソナロ前大統領に有罪判決、米国との関係は?
~米国は追加制裁を示唆もブラジルは徹底抗戦の構え、政治的分断によるリスクにも要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- ブラジル最高裁は11日、クーデター計画などの容疑で起訴されたボルソナロ前大統領に禁固27年3ヶ月の有罪判決を下した。判決は全会一致ではなく、異議申し立ての余地があり、裁判の終結は次期大統領選近くまで長引く可能性がある。ボルソナロ氏自身は2030年までの公職就任が禁じられており、来年に実施される次期大統領選への出馬は困難であるが、本人は繰り返し出馬への意欲を示し続けている。
- 一方、トランプ米政権はボルソナロ氏に対する裁判を「魔女狩り」と批判しており、関税引き上げや制裁により圧力を強めてきた。今回の判決を受けて早速反発を強めており、さらなる制裁を科すことも予想される。これに対してブラジル政府は内政干渉として反発しており、両国関係は緊張の度合いを増すと予想される。
- 足元のレアル相場を巡っては、FRBの利下げ観測による米ドル安や高金利政策の継続が下支え役となっている。実体経済へのトランプ関税による直接的な影響は限定的とみられるが、関税の対象拡大の懸念はある。また、政治的分断の深刻化がリスク要因となることにこれまで以上に注意が必要となっている。
ブラジルの最高裁判所は11日、クーデターを計画した容疑などで起訴されているボルソナロ前大統領に有罪判決を下し、禁固27年3ヶ月の刑を言い渡した。ブラジルの大統領経験者に対する有罪判決としては、過去にコロル元大統領が収賄容疑で受けた例はあるが、民主主義に対する攻撃を理由とした判決は同氏が初めてとなる。今回の判断では、5人の判事のうち4人が、武装犯罪組織への参加、民主主義を暴力的に破壊しようとしたこと、クーデターを組織したこと、政府の財産や保護された文化財を破壊したことを理由に有罪とした。その一方、1人(フックス判事)はボルソナロ氏に対するすべての罪状を無罪とした上で、裁判所の管轄権に疑問を呈する判断を下している。判断が全会一致でなかったため、ボルソナロ氏には異議申し立ての余地があり、仮に受理されれば、裁判の終結が来年10月に実施予定の次期大統領選に近付く可能性がある。よって、事態が完全に収束するには、なお時間を要する可能性が見込まれる。
なお、ボルソナロ氏は2022年に実施された前回大統領選での権力濫用を理由とする選挙法違反が認定され、2030年まで公職に就くことが禁じられている。よって、ボルソナロ氏は次期大統領選への出馬が事実上不可能であるものの、同氏は繰り返し立候補する意向を表明してきた。ボルソナロ氏は現在70歳であり、今回の判決が確定すれば残りの生涯を刑務所で過ごす可能性が高まっている。その一方、ブラジル国内においては、一昨年1月のボルソナロ氏の支持者らによる連邦議会などへの襲撃事件を巡って、ボルソナロ氏や襲撃に関与した支持者らに恩赦を与えようとする動きがみられる。さらに、ボルソナロ氏自身は2018年の大統領選の運動中に傷害事件に直面し、その際にできた刺し傷を理由とする健康上の問題を抱えており、刑期満了前に早期釈放される可能性も指摘されている。しかし、上述のようにボルソナロ氏は次期大統領選への出馬の意向を繰り返し表明するも、現実的ではないと言える。
一方、ボルソナロ氏に対する裁判を巡っては、トランプ米大統領が自身のSNSで『魔女狩り』と批判するなど、干渉する動きをみせてきた。さらに、ブラジルは米国にとって貿易黒字国であるにもかかわらず、不公正な貿易慣行のほか、自由選挙や言論の自由への攻撃という政治的な理由により、同国に対する相互関税の税率を10%から50%に大幅に引き上げている(注1)。その上、トランプ米政権は裁判を担当する最高裁判事に対するビザ(査証)の発給を制限する旨の制裁を科すなど、裁判に対する圧力を強めてきた。最高裁の判決を受けて、ルビオ米国務長官がSNSで「不当な判決を下した。魔女狩りに米国は相応の対応を取る」と発信して制裁などの措置を示唆しているほか、トランプ氏も「恐ろしいことだ。ブラジルにとって非常に悪いことだと思う」と述べるなど反発している。
トランプ米政権の反応に対して、ブラジル外務省は「ブラジルの権威を攻撃し、事実と証拠を無視する脅迫」と非難するとともに、ブラジルの民主主義が米国によって脅かされることはないとの考えを表明している。さらに、ルラ大統領も米国によるさらなる制裁を恐れていないとの考えを示しており、両国関係は一段と厳しさを増す可能性は高まっている。こうした状況ながら、足元のブラジルの通貨レアル相場を巡っては、トランプ米政権の政策運営の不透明感に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ観測が米ドル安を招くなかで堅調な動きをみせている。また、ブラジルではインフレが高止まりするなか、中銀は7月の定例会合で利上げを停止させる一方、高金利政策を非常に長期にわたって維持する方針を示しており(注2)、実質金利(政策金利-インフレ率)のプラス幅が拡大するなど投資妙味の高さもレアル相場を下支えしている。なお、トランプ関税によるブラジル経済への直接的な影響を巡っては、現時点においては航空機やエネルギー、オレンジジュースなどが対象から除外されていることを勘案すれば、限定的なものに留まると見込まれる。しかし、今後対象が拡大されれば影響が広がるとともに、金融政策の行方を通じてレアル相場を左右する可能性もある。それ以上に、ブラジル社会が一段と分断の様相を強めるとともに、政治的混乱が続く可能性も考えられる。


注1 7月10日付レポート「ブラジルが突如トランプ関税の「標的」に!?」
注2 7月31日付レポート「ブラジル中銀利上げ停止も長期据え置き示唆、トランプ関税も警戒」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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