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猛暑で減る消費、増える消費

~地球温暖化の弊害~

熊野 英生

要旨

暑い夏は、私たちの消費にマイナスの効果をもたらす側面もある。筆者は、総務省「家計調査」を使って、猛暑で減る消費品目と増える品目を調べてみた。猛暑の影響は、地球温暖化に伴う国際的な農産物の高騰や、電気代の支出増に伴う節約指向の強まりといった間接的な作用も生み出すと考えられる。

目次

猛暑日の多さ

日中の最高気温が35℃以上になる日を猛暑日と呼ぶ。猛暑日が連続する動きは、全国的な傾向だが、東京都でも2025年は、年初来の猛暑日が15日間(8月19日時点)を数えている。もしかすると、このままのペースで行けば、2025年は過去最高の日数になる可能性がある。年間の猛暑日は、2022~2024年にかけて3年連続して過去対比多くなっており、それぞれ16日間、22日間、20日間と高水準で推移している(図表1)。2015~2021年にかけての猛暑日年間平均は7.8日間なので、2022年以降の4年間は暑さが猛烈だと言える。

図表1
図表1

昔は、「暑い夏は消費にプラス」と言われたが、本当に今もそうなのだろうか。7・8月の平均気温と、実質消費支出の伸び率の関連性を計算してみると、僅かに正の相関が出てくる。しかし、直感的に最高気温が35℃を超えてくると、消費にマイナス効果も表れるのではないかと思ってしまう。もちろん、マクロの消費動向は、気温だけではなく、物価・所得・株価などの影響も受けるので、夏が暑いだけでマクロ消費の変化を評価するのは言い過ぎかもしれない。しかし、一方で個別の消費品目では、明確に「酷暑によって減る消費と増える消費」が表れてくる。

そこで、まずはAI(人工知能)に対して質問を投げかけてみた。「暑すぎる夏に減る消費内容は何か?」と質問すると、①外出・レジャーの中で外出に関連した項目が減るとか、②熱い飲食、例えばホット・ドリンクの消費が減る、などといった回答が返ってきた。この回答は、確かにおおむね正鵠を射ている。

筆者は、自分自身の手でデータ分析をしてみると、次のような結果が導かれた。総務省「家計調査」(2人以上世帯)の実質消費の増減率と、7・8月の最高気温の平均値(東京都、気象庁データ)を使って、相関係数を弾いたところ、7・8月の最高気温が高いときに減少率(または増加率)が大きい品目がわかった。ここでは調査対象を食料品と食料品以外の項目に分けて計算している(図表2)。

図表2
図表2

まず、ここで多くのデータをみたときの印象は、特に食料品には顕著な影響が表れるというものだ。特に、調理に火を使うものが敬遠されて、魚介・肉類、卵などの調理が行われなくなる影響が目立つ。調理に使う調味料も減ってしまう。AIが回答していたように、コーヒー・ココアといったホット・ドリンクも減っていた。

逆に、飲料や一般外食が増えていく。スポーツドリンク(他の飲料)や茶類、牛乳、ビールなど酒類の支出が増える。牛乳は熱中症予防によいと言われる。主食系では、パンから麺類へのシフトが進むようだ。

食料品以外では、教養娯楽用耐久財と一般家具の減少が目立つ。教養娯楽用耐久財とは、テレビ、携帯型音楽・映像機器、楽器、PCなどである。この点の解釈は、エアコンの購入が増えると、その反対に教養娯楽用耐久財と一般家具が節約さやすい支出なのだろう。「値がはるエアコンを買ってしまったから、家具やPCの購入は我慢しよう」という代替効果が働きやすいと言えそうだ。

保健医療用・器具は、高齢者の外出抑制によって、病院への通院が減ってしまう作用なのだろう。これも間接的効果だ。ほかにも医薬品、保健サービスの支出も同様の理由で減っている。こうした結果は、家計消費が猛暑に対してかなり敏感に支出を変化させていることを感じさせる。

物価高騰との関係

地球環境の変化が猛暑などの影響を広範囲にもたらしていると考えると、その影響は先に示した作用だけに止まらないはずだ。短期的な気温上昇だけではなく、海外の農作物の不作や漁業資源の減少を通じて、これらの価格高騰を生む。その作用は、半年以上のタイムラグを経てから私たちの生活を脅かすものもある。例えば、2024年のコーヒー豆・カカオ豆の不作は、南半球の異常気象によって引き起こされて、現在も続いている。昨年は、ブラジルのオレンジジュースが猛暑や疫病の関係で日本に入ってこなくなったことも記憶に残っている。国際商品市況は、世界各地での異常のために、数年に亘って高騰しているように思える。

おそらく、現在の消費者物価の中で食料品価格が趨勢的に上がっていることも、地球環境の異変とつながっていると理解できる。一見すれば、現在の個人消費の低迷は、物価上昇により家計の購買力が圧迫された結果として生じていると思いがちだが、その遠因として地球環境問題も影響しているに違いない。経済学の用語を使うと、外部不経済の弊害として地球環境が脅かされて、その累積効果によって農産物などの市況高騰のかたちで間接的に悪影響の内部化が進んでいる。このまま人類がCO2排出を進めていけば、さらなるインフレの弊害が私たちの生活に跳ね返ってくるだろう。

電気代高騰のマイナス効果

猛暑の間接的な効果として、電気代支出の増加が、他の消費品目の抑制につながることも考えられる。電気代の増加と、各種品目(食料品以外)の相関関係を2001年以降で調べると、電気代の増加によって抑えられる支出は以下となった。

 1 ガス代

 2 保健医療サービス

 3 理容美容サービス

 4 贈与金

 5 交際費

 6 設備修繕・維持

 7 設備材料

これらは電気代高騰のあおりを食いやすい品目であろう。個別にみていくと、電気代がかかるとき、それに類似するガス代には節約しようとする圧力がかかる。保健医療サービスの減少は、必需的な電気代の増加によって、高齢者の通院を手控えることで節約されるサービスということになるのだろう。贈与金・交際費も、自由度が高い裁量的支出なので節約の対象になってしまうことを示している。家計の節約圧力が、猛暑によって電気代支出が増えるときには、間接的な効果として生じることがわかる。

災い転じて商機を考える

暑い夏は、将来的にも続いていきそうである。その中で多くの企業に求められるのは、暑い夏を追い風にして、収益機会に変えていくアイデアに知恵を絞ることだろう。猛暑で増える消費品目(食料品以外)の中には、衣料品が上位に目立っていた。汗を吸収しやすいシャツや下着、日光を遮る帽子などの小物である。衣料品業界はすでに市場が成熟したとみられてきたが、最近は変化もある。例えば、扇風機付きベストを着た人を街中でよく見かけるようになった。以前は、こうした服装をした人は工場や建設現場中心に居たのに、最近はそれ以外の場所でも多く見かける。BtoBからBtoCへ展開し、消費者への普及が進んでいるということだ。そう考えると、製造業の作業現場にはビジネスのヒントがありそうだ。工場内や作業場などには、大型送風機・サーキュレーターやスポットクーラーなどが多く設置されている。いずれ、これらは他の場所(店舗や事務所内)にも普及していくのではないだろうか。また、沖縄に行けば、かりゆしウェアがフォーマルな服装になっているが、これも本州などで普及してクールビスに取って代わって、様々な場面で「かりゆしウェアでも可」になっていく可能性はある。海外に目を転じると、東南アジアには各種の暑さ対策グッズがある。それらが先行事例として、日本に持ち込まれて、ヒットする場面もあると思う。海外製の冷却スプレーや冷却タオル、強力な冷感ハンディファンなども流入してくる可能性があるのではないか。

いろいろと思考を巡らせると、この暑さ対策は、日本の社会活動を変化させる展開がありそうだと思える。すでに、高校野球は昼間を避けて行うようになっている。企業の中にも、サマータイム制を導入するところがある。2025年は、政府が熱中症対策の義務化を6月から始めたところだ。それに対応して勤務形態や商慣習を見直す企業も数多く出てくるのではないか。そうした変化は、社会変化に端を発した派生需要を生み出し、大きなビジネスチャンスを創出していく可能性がある。特に、中小企業には、そうした変化を敏感に察知して、新しい商品・サービスの提供が求められる。地球環境問題は、多くの場合、確かにネガティブに語られることが多いが、企業は自身が生き残っていくために、変化に順応してもっとこれに建設的に対処していく心構えを持っておきたい。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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