インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国は米中摩擦の再激化リスクへ周到な準備を進めている模様

~米国以外への輸出入双方で多様化を進める動き、トランプ氏の一挙一動には引き続き要注意~

西濵 徹

要旨
  • 世界経済や金融市場はトランプ米政権の政策運営に翻弄される状況が続く。トランプ政権は関税を通じて安全保障上の利益確保や貿易赤字の是正を目指しており、中国との間では一時貿易戦争に発展した。その後の閣僚級協議を経て上乗せ関税や輸出規制の停止と協議継続で合意されている。しかし、足元ではロシア産原油を輸入する国への2次関税を示唆しており、トランプ政権の中国への対応が注目される。
  • 他方、金融市場では米ドル安が進む一方、人民元の通貨バスケットは調整の動きを強めるなど実質的な人民元安により輸出競争力は向上している。こうした動きも追い風に、7月の輸出額は前年比+7.2%に加速しており、アフリカや中南米、ASEAN、EUなど向け輸出の堅調さが米国向けの下振れをカバーしている。一方の輸入額も前年比+4.1%と堅調に推移しており、輸出の堅調さが素材・部材需要を押し上げ、内需喚起策も下支えしている。米国との関係悪化を念頭に調達先を多様化した効果が出る動きもうかがえる。
  • こうしたことから、中国は米中摩擦激化のリスクに備えつつ、輸出入双方で多様化と対応強化を進めている。よって、トランプ氏の動向にこれまで以上に警戒を払う展開が必要になっていると捉えられる。

このところの世界経済や金融市場は、トランプ米政権の動向に左右される展開が続いている。トランプ米政権は、安全保障上への脅威への対応や貿易赤字の是正を目的に関税政策を用いるとともに、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境の構築を目指している。一方、中国はトランプ関税に対して報復に動いた結果、当初は米中が互いに高関税を課し合う貿易戦争に発展した。その後は5月のスイスでの閣僚級協議を経て、米中は互いに報復関税を撤廃し、関税の上乗せ分や輸出規制を90日間停止して追加協議を行うことで合意した。しかし、その後の実務者合意では米中双方の認識の隔たりの大きさや交渉の行き詰まりが示されたものの、6月の英国での閣僚級協議でスイス協議での合意事項が確認され、追加的な了解事項でも合意された。そして、今月12日に90日間の停止期限が迫るなか、先月末のスウェーデンでの閣僚協議では関税の上乗せ分や輸出規制の一時停止措置を90日間延長することで合意している。

よって、足元の米中関係を巡っては、貿易戦争は回避されるなど最悪期を過ぎていると捉えられる。ただし、トランプ氏は先月、ウクライナ戦争の早期終結を目的にロシア産原油を輸入する国に対して追加関税を課す「2次関税」を導入する方針を示している(注1)。これは、ウクライナ戦争以降にロシア産原油の輸入を大幅に拡大させている中国やインドを念頭にしたものと捉えられる。こうしたなか、米国はインドに対する相互関税を25%とした上で、トランプ氏はロシア産原油を輸入していることへのペナルティーとして税率を25%上乗せして計50%とする大統領令に署名するなど、その矛先をインドに向けている(注2)。上述したように、中国もロシア産原油の輸入を拡大させてきたことに鑑みれば、トランプ氏が同様の関税を中国に対して上乗せする可能性は考えられる。仮にトランプ氏がそうした動きに出れば、トランプ関税が発表された当初と同様に中国が報復措置に動くとともに、米中双方が報復を応酬する展開も予想される。その意味では、米中関係の行方については予断を許さない状況にある。

他方、このところの国際金融市場においては、トランプ米政権による政策運営の不透明さに加え、FRB(連邦準備制度理事会)人事への介入を示唆する動きが相次ぐなど、金融政策の独立性への懸念も重なり米ドル安が進む動きがみられた。なお、米ドル安を反映して人民元の対ドル相場は緩やかに上昇する一方、その他の通貨に比べて上昇ペースが抑えられたため、主要貿易相手国の通貨に対する通貨バスケットであるCFETS(中国外為取引センター)人民元指数は大きく調整して先月初めに一時4年半ぶりの安値となるなど、実質的には人民元安が進む動きがみられた(注3)。足元では米ドル安の動きに一服感が出ていることを受けて、人民元指数も底打ちに転じる動きをみせている。しかし、依然として人民元安基調が続いていることに鑑みれば、上述したように米中関係の行方には不透明感がくすぶるものの、人民元安による価格競争力の向上が外需を下支えすることが期待される状況にある。

図表
図表

こうしたなか、7月の輸出額は前年同月比+7.2%となり、前月(同+5.8%)から伸びが加速するなど堅調な動きが続いている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比はわずかながら2ヶ月ぶりに減少に転じるなど一進一退の動きをみせるが、中期的な基調は拡大傾向で推移するなど堅調な動きがうかがえる。今月12日に予定された上乗せ関税の停止期限を前にした『駆け込み』が期待された米国向け(前年比▲21.7%)は4ヶ月連続で前年を大幅に下回るなど、引き続き厳しい状況にある。その一方、中国当局が対米輸出の減少を補うべく関係深化を図っていることに加え、人民元安による価格競争力の向上も重なり、アフリカ向け(前年比+42.4%)、中南米向け(同+7.7%)といった新興国向け輸出は軒並み前年を上回るとともに、中国による迂回輸出の動きが活発とされたASEAN向け(同+16.6%)も引き続き堅調な動きが確認されている。さらに、トランプ関税などをきっかけに米国との関係にすき間が生じているカナダ向け(前年比+6.7%)やEU向け(同+9.2%)もともに前年を上回る伸びが続いている。そして、人民元安による価格競争力の向上も追い風に韓国向け(前年比+4.6%)や日本向け(同+2.5%)も前年を上回る伸びをみせており、対米輸出の低迷を米国以外の輸出でカバーしている様子がうかがえる。財別の輸出額もハイテク関連(前年比+4.2%)のほか、コンピュータなど電気機械関連(同+8.0%)で堅調な動きがみられるほか、鉄鋼製品(同+11.7%)や原薬(同+81.6%)などトランプ関税の影響が及ぶ分野で高い伸びが確認されており、輸出駆け込みの動きが影響した可能性が考えられる。

図表
図表

さらに、足元の輸出が堅調な動きをみせていることに加え、中国国内においては中国当局による内需喚起策を反映して対象となる財の需要が押し上げられていることも重なり、7月の輸入額は前年同月比+4.1%と前月(同+1.1%)から伸びが加速するなど輸出同様に堅調さがうかがえる。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比は2ヶ月連続で拡大している上、中期的な基調も拡大傾向で推移している。国・地域別では、輸出同様にアフリカ(前年比+19.4%)や中南米(同+10.1%)といった新興国からの輸入が軒並み高い伸びをみせており、米中関係が悪化するなかで農産品や鉱物資源などの輸入先の多様化を図ってきたことの効果が現われている。さらに、米国との関係悪化が懸念されるカナダ(前年比+27.0%)からの輸入も大幅に上振れしており、関係深化に向けて秋波を送っている様子もうかがえる。一方、ASEANから(前年比▲5.8%)は2ヶ月ぶりに前年を下回る伸びとなった。シンガポール(同+19.9%)やタイ(同+11.2%)、インドネシア(同+10.8%)からは高い伸びが続く一方、マレーシア(同▲28.8%)やフィリピン(同▲28.4%)、ベトナム(同▲4.9%)からが前年を下回るなど鈍化したことが影響しており、中国との『距離感』が影響している可能性がある。また、日本から(前年比+17.1%)は高い伸びをみせているが、これは水産物の輸入再開の動きが影響したことも考えられる。種類別では、中国国内における需要を前提とする一般輸入(前年比+1.0%)は12ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じているほか、加工組立関連(同+8.1%)や加工組立関連の素材・部材(同+10.1%)は軒並み高い伸びで推移しており、輸出の堅調さが輸入を下支えしている様子がうかがえる。財別でも、ハイテク関連(前年比+7.8%)や半導体関連(同+13.0%)、機械製品関連(同+4.5%)、電気機械関連(同+2.7%)といった生産資材などで堅調な動きがみられる。また、米国が銅に対する追加関税を示唆していることを受けて、銅鉱石(同+26.4%)の輸入は大きく上振れしており、対抗措置を念頭にした動きもうかがえる。

図表
図表

足元の中国の貿易動向からは、中国が米中摩擦のさらなる激化を見据えた周到な準備が進められている様子もうかがえる。よって、仮にトランプ氏が再び強硬策を打ち出した場合、中国は対抗措置に踏み切る可能性は高いと考えられる。その意味では、トランプ氏の一挙一動が世界経済や金融市場を揺さぶる展開が続くことに引き続き留意する必要性は高まっている。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ