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2025.07.29
アジア経済
中国経済
中国政府が育児給付金実施へ、少子化対策の切り札となるか
~効果は期待薄も課題認識の一歩目であり、社会の変革を含めた取り組みに繋げられるかに注目~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国では、長年の一人っ子政策などの影響で急速な少子高齢化が進行している。近年の都市化や生活様式の変化も追い風に出生数は減少を続け、2012年に生産年齢人口は減少に転じた。中国政府は出生制限の転換を図ったが、都市部での生活コスト高騰や晩婚化、教育費高騰などが出生抑制要因となったほかコロナ禍も拍車を掛けた。政府は教育負担軽減へ「双減政策」に動くも、実際は教育格差が拡大している。若年層の雇用不安や将来不安も根強く、結婚や出産への意欲が低下している。また、ここ数年の不動産市況の悪化をきっかけに、かつての経済成長の循環が崩れていることも幅広い経済活動に影響を与えている。
- こうしたなか、中国政府は28日に満3歳までの子供に年3,600元を支給する全国統一の育児給付金制度を導入する方針を示した。しかし、少子化が進む都市部では給付額が不十分で、その効果は限定的とみられる上、実質的には若年子持ち世帯の消費喚起に留まるものと予想される。さらに、中国では儒教的価値観も重なり出生数における性比が不均衡となるなど、社会構造も結婚・出産の障壁となっている可能性がある。少子化対策には、経済支援に留まらず、社会制度や価値観の変革を含む包括的なポリシーミックスが不可欠になろう。日本も同様に深刻な少子化に直面するなか、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の重要性が高まっている。複雑な問題に対して短絡的な対応を避けつつ、粘り強く取り組む姿勢が求められる。
中国では、長年にわたるいわゆる『一人っ子政策』による出生制限で少子化が進んできた。さらに、近年の高い経済成長やそれに伴う生活様式の変化も重なる形で平均寿命が延びており、人口構成は大きく変化するなど少子高齢化が急速に進んでいる。このような状況ながら、高い経済成長やそれに伴う賃金上昇も追い風に農村部から都市部への労働移動が進むことにより、中国全体としての労働力は確保が可能であった。しかし、急速な少子化により中国の生産年齢人口は2011年をピークに減少に転じている。よって、中国政府は2016年から1組の夫婦に対して子供を2名まで認めるなど一人っ子政策を撤廃し、いわゆる『二人っ子政策』に舵を切るなど政策転換を図った。にもかかわらず、その後も生活様式の変化や都市部での生活コストの上昇、女性の社会進出が進むことによる晩婚化なども重なり、出生数は減少が続いた。そして、2020年からのコロナ禍が追い打ちを掛ける形で出生数は一段と減少したため、中国政府は2021年に改正人口・計画出産法を施行して3人目の出産を認め、出産制限を事実上撤廃した。とはいえ、コロナ禍の余波が大きく影響する形で2022年に総人口も減少局面に転じるなど、人口動態が大きく変化している。なお、昨年(2024年)は結婚と出産に縁起が良いとされる辰年であったため、出生数は954万人と前年(902万人)から増加したものの、総人口は3年連続で減少している。、改革開放路線への転換が始まった1980年頃の都市化率(総人口に占める都市人口比率)は20%に満たなかったものの、その後の人口移動を受けて2010年には50%を上回り、足下では66%に達するなど労働力の移転余地は縮小している。よって、豊富で低廉な労働力を背景に経済成長を実現してきた状況は転換が避けられない状況にある。

なお、足下において急速な少子化が進んでいる背景には、長年にわたる一人っ子政策の下で激烈な受験競争などを経験した世代が親となるなか、都市部を中心に育児や教育への熱が高まった結果、関連費用が高騰していることも一因とされている。こうした事態を受けて、中国政府は2021年に『双減政策(義務教育における宿題負担と塾など校外補修負担の軽減)』に動き、塾など教育費が高騰する一因となっている分野に対する規制強化を図っている。しかし、現実には富裕層などを中心に学習以外の分野への教育投資が活発化する動きがみられ、反って教育格差が広がっているとされる。さらに、コロナ禍に際して中国経済は深刻な減速に直面したほか、その後の景気回復にもかかわらず若年層を中心とする雇用回復が遅れており、将来に対する不透明感が根強いとされる。また、中国政府は景気下支えに向けて企業部門に対する設備投資支援を強化しているが、結果として省力化・省人化投資が活発化しており、幅広い分野で若年層の雇用機会そのものが縮小している模様である。そして、近年における中国経済が高成長を実現してきた背後には、不動産投資の拡大がその一助になってきたことに加え、不動産市況の上昇による資産効果が家計消費を押し上げる好循環が続いたことがある。しかし、コロナ禍を経てそうした循環は行き詰まりをみせているほか、昨年末時点における不動産在庫は昨年の販売面積の6年分を上回る水準に達するなど、バランスシート調整圧力が幅広い経済活動の足かせとなる状況に直面している。こうした事情も影響して、若年層の間では結婚して家庭を持つことそのものへの消極姿勢が強まっているとされる。

少子化対策としてはこれまで、上述した出産抑制の撤廃に加え、過去2年ほどは多くの地方政府レベルで出産奨励を目的とする育児給付金制度が実施される動きがみられた。しかし、給付水準を巡っては、地域ごとに子供1人当たり1,000元から10万元まで大きくばらつきがあることから、国家としての取り組みが取り沙汰される動きがみられた。こうしたなか、中国政府は28日に満3歳までのすべての子供を対象に1人当たり年3,600元の育児給付金制度を導入することを明らかにした。新華社に拠れば、当該補助金は今年1月以降に生まれた子供から適用されるとともに、2022年1月から昨年末までに生まれた子供に対しても補助対象月数に応じて一部支給されるとしている。その結果、乳幼児を育てる2,000万以上の世帯に裨益するとの見通しを示している。さらに、当該施策に対する予算措置は中央政府が行うとしており、全土で統一的な施策とするとともに、財政に対する懸念がくすぶる地方政府の負担軽減を目指しているとされる。ただし、年3,600元という水準は、省別の昨年の1人当たりGDPが22.8万元(北京市)から5.3万元(甘粛省)とばらつきが大きく、より深刻な少子化に直面する都市部においては効果がほぼ期待できないのが実情であろう。よって、今回の施策はその目的に少子化対策を掲げているものの、現実には将来不安を理由に貯蓄性向が高止まりする若年子持ち世帯の消費を幾分下支えする可能性はあるが、それ以上のものではないと捉えられる。なお、中国においては、長年にわたる一人っ子政策の影響に加え、子供が親世代の面倒をみるという儒教的な思想も影響して、出生数に占める男児の割合が女児を上回り、20代以下では男性人口が女性人口を1割以上も上回る。その意味では、中国国内における結婚や出産に対する意識が変化している背景には、伝統的な男性観、女性観といった社会・文化的な問題と現状の中国社会との乖離が影響している可能性にも注意する必要がある。今回は育児給付金という経済的支援が少子化対策のツールとされたものの、その効果を高めるためには、経済的支援以外の社会政策や社会の在り様の変化を含めたポリシーミックスが不可欠となる。日本においても、中国以上に少子高齢化が進展しており、政府は様々な対策を講じているものの、諸外国の政策や日本独自の社会・文化的背景を加味したEBPM(証拠に基づく政策立案)の重要性が高まっている。単純な議論に陥ることなく、複雑な問題に粘り強く取り組む姿勢が求められよう。
西濵 徹
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- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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