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2025.07.07
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ベトナム4-6月成長率は+7.96%、政府目標に近付くなど好調続く
~金融市場は対米合意を好感も、中国の対抗措置に懸念、先行きの景気に不透明感は残る~
西濵 徹
- 要旨
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今月2日にトランプ米大統領はベトナムとの関税交渉に合意したことを明らかにした。相互関税の上乗せ分の停止期限直前での駆け込み合意となったが、その内容は極めて不平等なものとなっている模様である。ベトナムとしては、46%もの相互関税が実施された場合の経済的打撃や投資の不確実性を早期に回避するため、比較的受容可能な関税水準での合意を急いで事態打開を狙ったものと捉えられる。
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ベトナム経済はこれまで米中摩擦の「漁夫の利」を享受し、対米輸出や対内直接投資の受け入れを拡大させたが、結果的に対米貿易黒字の拡大で米国からの圧力が強まった。足元では相互関税の上乗せ分停止の影響もあり、対米輸出の拡大も追い風に経済成長は堅調な推移をみせる。4-6月の実質GDP成長率も前年比+7.96%と11四半期ぶりの高い伸びとなっている。しかし、先行きは対米輸出での駆け込みの反動に加え、関税負担の増大も輸出に下押し圧力が掛かるなど、成長率目標(8%)実現のハードルは高い。
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今後は、ベトナムによる米国との合意事項がASEAN諸国の対米協議を巡る基準となる可能性がある。さらに、対抗措置を示唆する中国の動きも懸念される。金融市場ではドン安圧力が続く一方、株式市場は米国との合意を好感する動きをみせる対照的な状況にあるが、今後の地域情勢や通商政策に要注意である。
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ベトナムと米国は、今月9日に迫っていた相互関税の上乗せ分の停止期限を前に、今月2日に交渉の合意に達したとトランプ米大統領が明らかにした。ただし、その内容については、トランプ氏の発信に拠れば、米国はベトナムからのすべての輸入品に20%、中国からの『迂回輸出』を念頭に第三国からベトナムを経由した輸入品に40%の関税を課す一方、ベトナムは米国からの輸入品への関税をゼロとする、極めて不平等なものとなった模様である(注 )。ベトナムがこうした不平等な条件で合意した背景には、米トランプ政権は同国の相互関税を46%とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のなかでも突出した水準としたことがある。仮にこれが実施されれば対米輸出が名目GDP比2割強に達するなか、実体経済に深刻な悪影響が出ることは避けられない。さらに、関税政策を巡る不確実性が同国への直接投資の阻害要因となるなか、20%と周辺国のなかでも比較的低水準となるとともに、ベトナム側が受忍可能(報道では20~25%程度とされる)な関税賦課を受け入れることで不確実性の軽減を図ることを急いだと考えられる。また、ベトナム政府は今年の経済成長率を「8%」に引き上げており、早期の事態打開によりその実現可能性を高めたいとの狙いもうかがえる。とはいえ、ベトナムによる早期合意を受けて、周辺のASEAN諸国にとってこの結果が対米協議の『ベンチマーク』になるとともに、各国が要求する関税撤廃は事実上困難になったと捉えられるなど、地域情勢に影響を与える可能性は残る。
ベトナム経済はここ数年、米中摩擦による『漁夫の利』を最も受けた国のひとつとされてきた。事実、アジアにおけるサプライチェーン見直しの動きを追い風に対内直接投資の受け入れを活発化させるとともに、対米輸出を大きく拡大させることで高い経済成長を実現してきた。しかし、それに伴い対米貿易黒字が大幅に拡大たため、米国の貿易赤字は国別で中国、メキシコに次ぐ3位となるなど、トランプ政権の『標的』になりやすい状況に置かれたと捉えられる。他方、上述のように米トランプ政権は当初、同国に対する相互関税を46%とするも、直後に上乗せ分(36%)を延期したことにより、足元の対米輸出が大幅に拡大するなど『駆け込み』の動きが活発化している。こうした動きは同国経済をけん引してり、4-6月の実質GDP成長率も前年同期比+7.96%と前期(同+6.93%)から加速して11四半期ぶりの高い伸びとなり、政府目標(8%)に一段と近付いている。なお、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も3四半期ぶりの二桁成長となるなど、足元の景気底入れの動きが鮮明になっている。分野ごとの生産動向を巡っても、輸出の堅調さを反映して製造業など第2次産業の生産が大きく上振れしている。さらに、足元のインフレは底入れする動きをみせるも、依然中銀目標(4.5%)を下回る伸びが続くなかで実質購買力の押し上げを受けて個人消費は堅調に推移しているほか、対内直接投資の底堅い流入も追い風にサービス業をはじめとする第3次産業の生産も旺盛な推移をみせている。そして、昨年末にかけての異常気象の頻発を受けて下振れした農林漁業など第1次産業の生産もその反動も影響して拡大に転じるなど、幅広い分野で生産が拡大する動きが確認された。

上述したように、昨年末以降の輸出を巡っては、トランプ関税の発動を前にした対米輸出の駆け込みに加え、その後も上乗せ分の延期を受けた駆け込みも重なり、堅調な動きが確認されるとともに、足元の景気を押し上げる一助になっていると捉えられる。米国との通商協議の合意に伴い、今後は米国向け輸出に20%、第三国からのベトナムを経由した米国向け輸出に40%の関税が課されるため、これまでの駆け込みの反動も重なり、先行きの輸出に下押し圧力が掛かることは避けられない。一方、周辺のASEAN諸国のなかには対米協議の行き詰まりを懸念する動きがみられるとともに、ベトナムと比較して高い関税が課される可能性が高まるなか、同国がサプライチェーンの一角として存在感を維持することで対内直接投資の受け入れを活発化させる可能性はある。ただし、米国との協議を巡っては、中国が自国に不利な内容と判断することで対抗措置に動く可能性も予想され、仮にそうした動きに出れば米国向けのみならず、中国向け輸出にも何らかの『タガ』がはめられることも考えられる。今年前半の経済成長率は+7.5%となるなど、政府目標(8%)に近付いていることは間違いないものの、足元の勢いを先行きも維持することのハードルは間違いなく高まっていると捉えられる。

また、金融市場においては米トランプ政権の政策運営に対する不透明感を反映して米ドル安圧力が強まる動きがみられるものの、同国の通貨ドンの対ドル相場は相互関税や米国との協議の行方が実体経済に与える悪影響を警戒して調整する局面が続いてきた。米国との通商協議が合意に至ったことを受けて、足元ではドン安の動きに一服感が出る兆しは出ているものの、先行きについては実体経済に対する不透明感の根強さが相場の重石となる可能性はくすぶる。一方、米トランプ政権による相互関税の発表、発動を受けて主要株式指数は大きく調整したが、その後は一転して急上昇するなどドン相場と対照的な動きをみせる。金融市場は米国との合意を好意的に受け取った可能性が考えられるものの、先行きについては米国と周辺国の協議の行方に左右される可能性のほか、米国との合意を巡る中国の対応にも注意を払う必要性は高まっている。

注 7月3日付レポート「ベトナムが米国との通商協議で合意」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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