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2025.07.03
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米ドル安が進む背後で新興国の「次の一手」はどうなる?
~米国が不平等な合意をゴリ押しすれば、通貨安競争の動きが再燃する可能性に要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- 米トランプ政権の政策運営は、世界経済や国際金融市場に大きな影響を与えている。米中関係を巡っては、関税を巡る応酬により貿易戦争に発展したが、スイスや英国での協議を経て関係改善が進みつつある。しかし、中国が強みを持つレアアースなどの扱いが交渉の焦点であり、今後も難航が予想される。
- こうしたなか、米中関係悪化の一服に加え、トランプ政権の政策運営への不透明感を理由に米ドル安が進むとともに、リスク資産への選好が高まり、新興国通貨は上昇している。足元ではMSCI新興国通貨指数は過去最高を更新するなど、新興国への資金流入が加速する動きがみられる。しかし、この動きは短期資金に拠るところが大きく、米中関係の行方次第で市場環境が変化して流れが一変するリスクは残っている。
- また、ベトナムが米国との通商協議で合意したが、その内容は米国に有利な不平等なものである。今後、米国は他の新興国にも同様の圧力を掛ける可能性は高い。その一方、足元ではインフレ沈静化により多くの新興国が金融緩和に動き始めており、今後は通貨安競争が激化することも懸念される。全世界的な緩和競争により「カネ余り」が再燃することになれば、国際金融市場を巡るリスクが高まる可能性に要注意である。
このところの世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の政策運営に翻弄される展開が続いている。米トランプ政権は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の縮小を目的に関税を賦課する一方、相手国との協議による『ディール(取引)』を通して自国に有利な環境の構築を目指す姿勢をみせる。他方、トランプ関税に対して中国は報復措置に出た結果、その後の米中は報復を応酬させて互いに高関税を課し合う貿易戦争へと発展した。その後、5月にスイス・ジュネーブで行われた米中の閣僚協議を経て、両国は互いに報復関税を撤廃した上で、相互関税の上乗せ分を90日間停止し追加協議を行うことで合意した。その後に実務者協議が行われたものの、米トランプ政権内では交渉の行き詰まりが示唆されたほか、米国は中国への半導体輸出制限のほか、留学生へのビザ(査証)取り消しなどの対抗措置に動いた。しかし、先月に米中首脳による電話協議が行われたほか、直後に英国での閣僚級協議を経て、ジュネーブ協議での合意事項の履行が確認された。さらに、英国での閣僚級協議では追加的な了解事項で合意したことが明らかにされるなど、米中関係は最悪期を過ぎつつあるとみられている。他方、一連の米中協議では、中国が世界の精製量の大半を独占しているレアアース(希土類)や永久磁石の扱いが『切り札』になっていることがあらためて浮き彫りになっている。米中関係の行方は引き続きレアアースや永久磁石など、中国にとっての切り札の扱いが焦点となる展開が見込まれるが、中国が容易に譲歩するとは見通しにくく、今後も紆余曲折が続く可能性は高いと考えられる。
こうした状況にもかかわらず、足元の国際金融市場においては、米中関係の悪化が避けられていることが好感され、リスク資産に対する選好が強まっている様子がうかがえる。さらに、米トランプ政権の政策運営に対する不透明感の高まりは、こうした動きを後押ししている可能性がある。なお、米トランプ政権は景気下支えを目的とする所得税減税や、国境対策の強化など、昨年の大統領選において掲げた『看板政策』を推進する動きをみせており、財政状況の悪化が懸念される状況にある。さらに、米FRB(連邦準備制度理事会)の議長人事を巡っては、現職のパウエル氏の議長任期は2026年5月、理事としての任期も2028年1月末までとなっている。こうした状況にもかかわらず、トランプ氏はパウエル氏の任期満了を前に後任人事を指名する可能性や早期の辞任に言及するなど、米FRBの独立性に懸念を与える動きをみせる。こうしたトランプ氏やその周辺の動きも理由に、トランプ政権発足以降の金融市場では米ドル安の動きが加速しており、足元の米ドルインデックスは2022年2月末以来の低水準となるなど調整が進んでいる。なお、ここ数年は米国における物価抑制を目的に、米FRBがタカ派姿勢を強めたほか、その結果として米ドル高局面が続いてきたため、トランプ氏の下でそうした姿勢が一変するとの見方が広がっていることも、米ドル安が進む一因になっていると考えられる。

なお、金融市場において米ドル安が進んでいる背後では、ユーロや英ポンド、日本円、スイスフランといった主要通貨が米ドルに対して上昇する動きがみられる。さらに、金融市場においてリスク資産に対する選好が強まっていることも追い風に、多くの新興国通貨も米ドルに対して上昇し、足元のMSCI新興国通貨指数は過去最高値を更新する展開が続く。上述したように、ここ数年の金融市場における米FRBのタカ派姿勢を反映した米ドル高局面では、全世界的なインフレを受けて新興国の投資妙味が相対的に低下したため、多くの新興国通貨は調整圧力に晒された。しかし、足元では全世界的なインフレの動きが一巡しており、多くの新興国でインフレが低下して実質金利のプラス幅が拡大するなど投資妙味が向上している。また、足元では上述したように米中関係が最悪期を過ぎて事態改善が進むとの期待を追い風に、リスク資産への選好が高まっていることも新興国への資金流入を後押ししている。トランプ氏や米トランプ政権による動きをみれば、先行きも米ドルに下押し圧力が掛かる地合いが続く可能性は高く、新興国にとっては資金流入が活発化しやすい展開が見込まれる。ただし、足元の新興国への資金流入は短期資金がけん引役である可能性に加え、金融市場のリスク選好は環境に左右されやすく、米中関係にも不透明感がくすぶるなかで一変するリスクは残る。

他方、ベトナムが新興国の間で初めて米トランプ政権との通商協議で合意に至ったことが明らかにされた(注1)。しかし、トランプ氏の発表に基づけば、両国合意では、ベトナムは関税を課されるものの、米国は関税が免除されるという、極めて不平等な内容となっている。今後、ベトナムとの合意を前提に米国は他の新興国との協議を前進させると予想されるが、ベトナムとの合意が『ベンチマーク』になることに鑑みれば、同様に不平等な内容を押し付ける可能性は高まっている。しかし、高関税により対米輸出に制約が掛かるとともに、上述したように米ドル安を追い風にした自国通貨高によって輸出競争力の低下を余儀なくされる状況にある。こうしたなか、足元では多くの新興国でインフレが沈静化しており、各国においては景気下支えや自国通貨安を目的とする金融緩和に舵を切る動く余地が広がっている。よって、今後は通貨安競争の動きが激化していくことも考えられる。ここ数年は全世界的な金融引き締めを通じて、世界的な『カネ余り』の揺り戻しが図られる動きがみられたものの、再びカネ余りの世界に転じることにより、国際金融市場を巡るリスクが高まる可能性に注意を払う必要性が高まっている。
注1 7月3日付レポート「ベトナムが米国との通商協議で合意」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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