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2025.06.10
アジア経済
その他アジア経済
バングラデシュ、総選挙を来年4月前半に実施、民政移管へ一歩
~足元では政情不安の動きがみられる一方、円滑な民政移管が進められるかが注目される~
西濵 徹
- 要旨
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- バングラデシュでは、昨年8月に学生デモの激化をきっかけにハシナ前首相が辞任し、インドに逃亡する事態に追い込まれるなど政権が崩壊した。同氏の辞任後に国軍主導で暫定政権の樹立が模索され、最終的にノーベル平和賞受賞者の経済学者のユヌス氏が首席顧問に就任した。暫定政権は今年末から来年前半までの総選挙実施による民政移管を目指し、選挙制度や汚職防止など諸改革を進めてきた。一方、国軍や最大野党のBNPは早期の総選挙実施を求めるなど、暫定政権と対立する動きがみられた。
- さらに、行政機構改革や改正公務員法を巡って公務員の反発やデモが相次ぐ動きがみられ、足元では政情の不安定化が顕著になっている。こうしたなか、ユヌス氏は来年4月前半の総選挙実施を表明したが、国軍は年内実施を要求するなど、今後も紆余曲折が予想される。なお、BNP党首のジア元首相はかつての汚職事件を巡って無罪判決を受けて総選挙に出馬可能であり、選挙に向けたカウントダウンが始まっている。
- 一方、ハシナ氏は「人道に対する罪」で起訴され、与党ALは裁判期間中の政治活動を禁止されるなど、選挙への参加は困難な状況にある。インド政府はハシナ氏の身柄引き渡しに応じず、裁判の長期化も予想される。また、今月に中銀は新姿勢を発行し、ハシナ氏の父であるムジブル・ラーマン元大統領の肖像を外すなどハシナ色の排除を進めている。国内外の協力を得て円滑な民政移管が実現できるかが注目される。
南アジアのバングラデシュでは、昨年8月に当時のシェイク・ハシナ首相が辞任し、隣国のインドに逃亡したことで政権が崩壊した。ハシナ氏が辞任に追い込まれた背景には、公務員採用の優遇策を巡る学生デモの激化がきっかけとされる。政府はデモ鎮静化のため強硬策を実施したが、その結果、弾圧による多数の死傷者が発生した。これをきっかけにデモはさらに激化するとともに、ハシナ氏の辞任要求へと目的が変化した。そして、その後もデモは一層激化し、一部が首相府や公邸に乱入するなど混乱が深刻化したことを受けて、最終的にハシナ氏は辞任を発表し、国軍のヘリコプターでインドに逃れる事態に追い込まれた(注1)。
ハシナ氏の辞任直後から国軍が主導する形での暫定政権の樹立が模索された。しかし、その人事を巡っては、デモを主導した学生団体のほか、野党との間で意見の隔たりが懸念された。こうしたなか、学生団体の要請を受ける形でムハマド・ユヌス氏が暫定政権トップの首席顧問を務めることに同意し、病気療養中のフランスから帰国した上で首席顧問に就任し、暫定政権が発足した。ユヌス氏を巡っては、経済学者であるとともに、貧困層に無担保少額融資を行うマイクロクレジット(グラミン銀行)の設立者として知られるほか、その功績によりノーベル平和賞を受賞している。一方、かつて政権進出を目指す動きをみせたことをきっかけにハシナ氏と対立するとともに、グラミン銀行の総裁職を解任された経緯がある。こうした経緯も、学生団体などが同氏を暫定政権のトップに推す一因になったとみられる。
ユヌス氏の下、暫定政権は今年末から来年前半までに総選挙を通じた民政移管を実現するとした上で、選挙制度や汚職防止をはじめとする諸改革を進めてきた。しかし、一連の改革を巡って、ユヌス氏はすべての政党による合意と実現後の総選挙の実施を目指す一方、国軍や最大野党のバングラデシュ民族主義者党(BNP)などは今年12月までの早期の総選挙実施を求めるなど、対立が表面化する動きがみられた。暫定政権が進める行政機構改革を巡っても、国家歳入庁の廃止案は職員による抗議を受けて撤回に追い込まれるとともに、財務省傘下に再配置する譲歩を迫られている。また、先月には不正に関与した公務員に対して、審査手続きを介さず解雇可能とする改正公務員法の成立を目指すも、多数の公務員が反発して撤回を求めるデモを展開する動きがみられた。さらに、教職員が賃上げを要求する動きをみせるなかで暫定政権への抗議行動に参加するなど、政情が不安定化する動きも顕在化している。
こうしたなか、ユヌス氏は6日に行ったテレビ演説において、次期総選挙を来年4月前半にも実施することを明らかにした。今後は、選挙管理委員会が総選挙実施に向けた詳細なロードマップを発表する見通しとなっている。なお、ユヌス氏が突如総選挙の実施時期を公表した背景には、BNPが総選挙の実施時期を早期に明示することを求めていたとされるほか、こうした事情が先月末にかけてユヌス氏が首席顧問の辞任を検討している旨の現地報道が出る一因になったとされる。これを受けて、総選挙まで残すところ10ヶ月ほどと事実上の『カウントダウン』が始まる一方、上述したように国軍は年内の総選挙実施を要求していることに鑑みれば、引き続き紆余曲折も予想される。なお、BNP党首のカレタ・ジア元首相を巡っては、2008年の汚職事件を巡って今年1月に無罪判決を受けており、次期総選挙に出馬することが可能となっている。
一方、ハシナ前政権を支えた与党のアワミ連盟(AL)については、今月に検察当局がハシナ氏をデモへの弾圧に伴う多数の死傷者発生に関して「人道に対する罪」を理由に起訴したことを受け、裁判終結まですべての政治活動を禁じる措置が採られており、総選挙への参加は事実上阻止されている。また、ハシナ氏と良好な関係を維持してきたインド政府は同氏の身柄引き渡しに応じておらず、裁判が長期化する事態も予想される。他方、今月から中銀は新たな紙幣の発行を始めており、旧紙幣には『建国の父』とされるムジブル・ラーマン元大統領の肖像が印刷されていたものの、これらが国会議事堂や独立記念碑、宮殿、寺院に変更されている。この背景には、ラーマン氏がハシナ氏の父であり、暫定政権がハシナ氏の排除を進める一環と捉えることが出来る。今後は、国内の関係者のみならず、周辺国や国際社会の協力を得つつ円滑な民政移管に向けた道筋を付けられるかが注目される。
注1 2024年8月6日付レポート「バングラデシュ・ハシナ前首相辞任、軍の介入で暫定政権樹立へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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