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2025.06.04
アジア経済
米中関係
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オーストラリア経済
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トランプ関税
オーストラリア景気は再び頭打ちを確認、豪ドル相場の行方は
~政府やRBAは景気刺激姿勢を強める可能性、日本円には金融政策の方向性が影響するか~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済や国際金融市場は米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。米国は、安全保障を理由に、自動車や鉄鋼、アルミ製品に追加関税を課し、貿易縮小を目的とする相互関税を導入した。米中は貿易戦争に突入するも、その後は報復関税の撤廃や協議を行うことで合意したが、足元では対立再燃の兆しが残る。さらに、米国は鉄鋼やアルミ製品への追加関税を大幅に引き上げるなど、関税政策も不透明な状況が続く。
- オーストラリアは米国にとって貿易黒字国であり、米国は相互関税の税率を10%とした。また、対米輸出額は名目GDP比1%未満であり、直接的な影響は限定的とみられる。他方、中国向けの輸出依存が高く、米中摩擦の悪化は間接的に悪影響が伝播する。こうした状況ながら、米国の関税政策の不透明感が米ドル安を招くなか、足元の豪ドルや株式市場には米中関係の改善期待も追い風に資金流入が活発化している。
- オーストラリアでは物価高と金利高、対中輸出の減速などが景気の重石となってきた。しかし、インフレはRBAが定める目標域に収まる上、利下げ効果や雇用環境に底堅さがうかがえる。こうした状況ながら、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+0.85%と頭打ちの動きが確認された。家計消費は底堅いが、輸出や設備投資の低迷に加え、政府消費の鈍化も景気の足を引っ張っている。先行きはトランプ関税の影響に加え、世界経済の不透明感が外需の重石となるなか、政府やRBAは景気刺激の動きを強めると期待される。
- 為替市場では米ドル安を背景に豪ドルが底入れしてきたものの、先行きは引き続き米ドル相場の動向がカギを握る。日本円に対しては金融政策の違いが重石となるほか、米ドル/円相場の動向に要注意である。
このところの世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。米トランプ政権は、安全保障上の脅威を理由に、通商拡大法232条に基づき自動車や鉄鋼製品、アルミ製品に対して追加関税を課している。さらに、貿易赤字の縮小を目的に、すべての国に一律10%、一部の国や地域には非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を課す方針を示した。4月には相互関税を一旦発動させるも、直後に中国以外の国や地域への上乗せ分を90日間延期し、その間に各国や地域と個別に協議を行うとした。他方、中国は報復措置に動いたため、その後に米中は報復を応酬し、双方が高関税を課す貿易戦争に発展した。しかし、先月の米中協議を経て、米中両国は報復関税の撤廃に加え、米国は相互関税の上乗せ分を90日間停止し、中国も報復関税の上乗せ分を同期間停止して追加協議を行うことで合意した。よって、トランプ政権の発足以降に米中関係は悪化の度合いを強めたものの、一転して改善に向かうことが期待された。ただし、このところは米国のベッセント財務長官が中国との協議の行き詰まりを示唆し、トランプ氏も自身のSNSに中国の合意違反を批判する内容を書き込んでいる。一方の中国も、商務部がトランプ氏の主張を否定した上で、米国の動きに対応して断固とした措置を取る旨を明らかにするなど、事態がこう着する可能性が懸念されている。そして、米トランプ政権は本日(4日)付で鉄鋼製品やアルミ製品に対する追加関税を倍増(25%→50%)させるなど、関税政策の行方も見通せない状況が続いている。
こうしたなか、オーストラリアは米国にとって貿易黒字国であり、米国は同国に対する相互関税の税率を一律分と同じ10%とした。さらに、オーストラリア経済における対米輸出額は名目GDP比で1%未満に留まり、トランプ関税によるマクロ面での直接的な影響は限定的と捉えられる。また、オーストラリアは世界有数のアルミ生産国ながら、アルミ製品輸出に占める対米比率は1~2%程度に留まる。他方、オーストラリアは中国が最大の輸出相手である上、鉄鉱石輸出の8割以上を中国向けが占めており、米中摩擦の激化やトランプ関税の行方は間接的に同国の輸出に悪影響を与えると懸念される。さらに、米トランプ政権は鉄鋼製品やアルミ製品に対する追加関税を大幅に引き上げるなど、関連産業における悪影響は一段と深刻化することも予想される。国際金融市場においては、米トランプ政権の政策運営を巡る不透明感を嫌気して米ドル相場は調整しており、多くの新興国や資源国などで資金流入が活発化している。オーストラリア市場でも、豪ドルの対米ドル相場は底入れしており、主要株式指数(ASX200)も底入れの動きを強めて足元では今年2月に記録した最高値をうかがうなど、資金流入が活発化している。これは、トランプ関税をきっかけに米中摩擦が急速に激化することを嫌気して調整するも、4月の米中協議を経た米中関係の改善期待が追い風になっているとみられる。さらに、中銀(RBA)は2月にコロナ禍一巡後初の利下げに動き、先月にも2回目の利下げに動いたことも株式市場を下支えしているとみられる(注1)。しかし、上述したように足元では米中関係の行方や世界経済の動向に不透明感が高まっていることを勘案すれば、先行きの行方は見通しにくい状況にある。

ここ数年のオーストラリア経済は、物価高と金利高の共存状態が長期化してきたほか、最大の輸出相手である中国の景気減速も重なり、内・外需双方に下押し要因が山積するなかで景気は頭打ちの様相をみせてきた。しかし、商品高の一巡に加え、アルバニージー政権による物価抑制策の効果も重なり、昨年後半以降のインフレはRBAが定める目標(2~3%)の域内で推移している。よって、実質購買力への下押し圧力も後退している。また、RBAは2月にコロナ禍一巡後初の利下げに動き、頭打ちの兆しがうかがえた不動産価格は再び上昇に転じるなど資産効果が期待される動きもみられる。そして、足元の雇用環境についても、大都市部や正規雇用を中心に底堅い動きが確認されるなど、家計を取り巻く環境に改善の兆しがうかがえる。他方、中国景気はかつての勢いを失うとともに、トランプ関税や米中摩擦の激化は外需の足かせとなり得るなど、足元の景気には好悪双方の材料が混在している。こうしたなか、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+0.85%と前期(同+2.30%)から鈍化し、昨年末にかけては景気が底打ちする動きがみられるも(注2)、再び頭打ちに転じている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.3%と前期(同+1.3%)と同じ伸びで推移している。需要項目別の動きでは、トランプ関税の発動を前に輸出は下振れしており、外需を巡る不透明感の高まりが企業部門の設備投資を下押ししている。さらに、昨年後半は年度初めの進捗を反映して政府消費が押し上げられるも、足元ではその反動も影響して減少に転じている。その一方、インフレ鈍化や利下げに加え、堅調な雇用環境なども追い風に家計消費は底堅い動きが続いており、足元の景気を下支えする様子がうかがえる。ただし、在庫が積み上がる動きが確認されるなど、足元の景気実態は数字以上に頭打ちの動きを強めている。

先行きの景気を巡っては、トランプ関税による直接、間接的な影響が懸念される一方、足元のインフレ指標はすべてRBAが定める目標域で推移するなど落ち着いた動きをみせるなか、景気の頭打ちが確認されたことも追い風に、RBAは景気下支えに向けて一段の利下げに動く可能性は高まっていると判断できる。さらに、先月の総選挙を経てアルバニージー政権は2期目入りを果たしており(注3)、追加的な景気刺激策に舵を切る可能性も見込まれる。他方、足元の国際金融市場では米ドル安の動きが強まっていることを受けて、豪ドルの対米ドル相場は底入れするとともに、年初来高値を更新する動きをみせている。RBAの利下げが見込まれることで上値が抑えられる一方、米ドル安が意識される局面が続けば下値が支えられることも見込まれるなど、引き続き米ドル相場の動向がカギを握る展開が続くと見込まれる。他方、日本円に対しては金融政策の方向性の違いが意識されて上値が抑えられるとともに、米ドル/円相場の動向に引っ張られることにも引き続き留意する必要がある。


注1 5月20日付レポート「RBAの追加利下げで金利は2年ぶりの水準に、豪ドル相場の行方は」
注2 3月5日付レポート「オーストラリア総選挙、与党・労働党勝利でアルバニージー政権継続」
注3 5月7日付レポート「韓国中銀、景気下支えへ利下げ再開も「悩みの種」は尽きない」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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