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オーストラリア総選挙、与党・労働党勝利でアルバニージー政権継続

~保守連合の「トランプ流」への反発も追い風、経済や安全保障で政策継続もエネルギー政策に課題~

西濵 徹

要旨
  • オーストラリアでは3日に総選挙が行われ、アルバニージー政権を支える与党・労働党が勝利を収めた。今回の総選挙では、物価高や住宅価格の高騰など経済政策が争点となるなか、当初は労働党の苦戦が予想されていた。しかし、最大野党の保守連合は当初米トランプ政権と類似した公約を掲げるも撤回を余儀なくされ、その後も「トランプ流」が反発を招くなど逆風に晒された。結果、保守連合は最終盤で支持を大きく落とし、総選挙で議席を減らすとともに、連合を率いる保守党のダットン党首も落選するなど惨敗を喫した。アルバニージー政権は経済政策の継続や安全保障面ではAUKUSやQuadの取り組みを維持すると見込まれる。他方、エネルギー政策面では課題も浮上しており、政権2期目には克服が求められる。豪ドル相場は米ドル相場の影響を受ける展開が続くほか、日本円に対しては米ドル/円相場の行方に注意が必要と言える。

オーストラリアでは3日、連邦議会下院(代議院:総議席数150)総選挙が行われた。今回の総選挙は、2022年の前回総選挙で与党の座を奪取した労働党、及びアルバニージー政権にとって信任投票の意味合いがある。他方、前回総選挙で下野した最大野党の保守連合は3年ぶりの政権奪取を目指すなか、その行方が注目された。ここ数年の同国においては、長期化する物価高や住宅価格の高騰が幅広く国民生活に悪影響を与えており、一昨年後半以降の世論調査では保守連合が労働党を支持率で上回る展開が続いたため、アルバニージー政権や労働党は苦戦が予想された。さらに、同国では義務投票制が採られるなかで投票率は90%近くで推移し、3年に一度実施される総選挙で政権は成果を示せず、結果的に無党派層の動向に左右されるなかで与党が苦戦を強いられる傾向がある。

こうしたなか、足元の住宅価格は引き続き最高値を更新する展開をみせるも、アルバニージー政権は住宅価格高騰の一因である移民抑制のほか、先月からは外国人投資家による中古住宅の購入禁止に動くなど対策を強化してきた。さらに、商品高の一巡に加え、アルバニージー政権は今年度(2024-25年度)から電力料金への補助金政策を実施し、RBA(中銀)によるタカ派姿勢も追い風に足元のインフレ率は目標域に収束するなど、落ち着きを取り戻しつつある(注1)。また、労働党は減税や医療費の自己負担の削減、若年層を対象とする住宅購入支援の強化といった選挙公約を掲げた。こうしたこともあり、選挙戦の終盤にかけての世論調査では、労働党に対する支持率が上昇する動きが確認されるなど、逆風が続いた状況が転換する兆しがうかがわれた。

図表1
図表1

一方、最大野党の保守連合には長らく追い風が吹く展開が続いたものの、選挙戦の最終版にかけて支持率を大きく落とす動きがみられるなど一転して逆風が吹く事態に直面してきた。保守連合は当初、公務員の削減や在宅勤務の禁止のほか、政府内のDEI(多様性、公平性、包摂性)関連色の廃止といった米トランプ政権に類似した公約を打ち出すも、こうした政策に対する批判が強まり、最終的に撤回を余儀なくされる事態に発展した。さらに、公約に掲げた原発解禁を巡っても、労働党による巨額の建設費が医療や教育関連予算の削減により賄われるとの批判が奏功し、主張の後退を余儀なくされた。また、過去に保守連合は伝統的に中国に対して批判的な姿勢をみせることが少なくなかったものの、足元では中国系有権者が総人口の5%強を占め、その動向は選挙の趨勢を左右するなか、中国に対して『曖昧な』戦略を取らざるを得なくなっている。こうした事情に加え、保守連合を率いる最大野党・保守党のダットン党首(元国防相)は米トランプ大統領の政治的な手法や主張を真似る動きをみせてきたが、結果的に失言が相次ぐとともに、上述したような公約を巡る不手際も重なり、保守連合の支持率低下の動きを加速させたとされる。

選挙管理委員会の発表に基づけば、与党の労働党は改選前(77議席)から議席を積み増して単独で半数を上回る議席を獲得した模様であり、アルバニージー氏は首相続投を宣言するなど勝利を収めた。オーストラリアにおいて総選挙後により誕生した政権が総選挙を経て政権を維持したのはハワード政権(1996~2007年)下での2004年総選挙以来であり、21年ぶりである。一方、保守連合は改選前(53議席)から議席を大幅に減らすとともに、ダットン氏も自身の選挙区で落選するなど惨敗を喫した。アルバニージー政権は『敵失』によって政権維持に成功したとも捉えられる。他方、政権に対する信認が確認されたことを受けて、経済政策の継続に加え、安全保障政策面でも太平洋島しょ国での影響力向上を目指す中国への対抗を目的とする米英との軍事同盟のAUKUS(オーカス)、日米豪印4ヶ国による枠組みのQuad(クアッド)を重視した取り組みの継続が見込まれる。他方、エネルギー政策面では、政権1期目の肝煎り政策であった水素などグリーン産業振興策は再生可能エネルギーのコスト高が企業による投資活動の足かせとなるとともに、冬場における電力不足懸念を招くなどの弊害も顕在化している。足元の豪ドルを巡っては、米ドル安が意識される動きを反映して底入れしており、先行きも米ドル相場の動向に左右される展開が続くと見込まれる。日本円に対しては米ドル/円相場を巡って円安が意識される動きがみられるなか、当面は底堅い動きをみせる可能性に留意する必要がある。

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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