- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- RBAの追加利下げで金利は2年ぶりの水準に、豪ドル相場の行方は
- Asia Trends
-
2025.05.20
アジア経済
米中関係
アジア金融政策
オーストラリア経済
為替
トランプ関税
RBAの追加利下げで金利は2年ぶりの水準に、豪ドル相場の行方は
~豪ドルは米ドルに対して動意が乏しい一方、日本円には政策の方向性の違いが意識される可能性も~
西濵 徹
- 要旨
-
-
オーストラリア準備銀行(RBA)は、19~20日に開催した定例会合で政策金利(OCR)を25bp引き下げ3.85%とする決定を行った。OCRの水準は2年ぶりの低水準となり、今次利下げ局面で2回目の利下げとなる。
-
RBAは先月の前回会合でOCRを据え置くも、景気の不透明感を考慮して追加利下げに含みを持たせていた。米トランプ政権の関税政策や米中摩擦が世界経済に悪影響を与える懸念が高まるなか、オーストラリア経済にも不透明感が強まっている。他方、商品市況の一服やアルバニージー政権による物価抑制策の効果もあり、足元のインフレはRBAが定める目標域(2~3%)に収束するなど落ち着きを取り戻している。
-
労働市場は依然堅調な推移をみせるが、トランプ関税の影響などをはじめとする外的要因による景気への悪影響が懸念される。RBAの声明では、インフレは目標域で推移するとしつつ、景気の不確実性の高さを強調するなど、ハト派に傾いている様子がうかがえる。今回の利下げで金融政策はやや緩和的になるとしつつ、今後の政策運営について慎重な姿勢を維持する考えをみせた。他方、RBAのブロック総裁は市場見通しを否定しつつ、追加利下げに含みを持たせる姿勢をみせる。豪ドルの対米ドル相場は上下双方に動意の乏しい展開が見込まれる一方、日本円には政策運営の方向性の違いが上値を抑える可能性があろう。
-
オーストラリア準備銀行(RBA)は、19~20日の日程で開催した定例の金融政策委員会において、政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を25bp引き下げて3.85%とする決定を行った。この決定により、OCRは丸2年ぶりの水準となる。RBAは今年2月にコロナ禍の影響が一巡して以降初の利下げに動いており(注1)、今回の利下げ局面において2度目の利下げとなる。なお、RBAは2月の利下げに際して『タカ派的』な姿勢を示したが、先月の前回会合ではOCRを据え置く一方、国内外で景気への不透明感が高まっていることを受け、先行きの判断については『データ次第』としつつ追加利下げの可能性に含みを持たせる考えを示した。

足元の世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策の翻弄されている。米トランプ政権は、すべての国に一律で10%、一部の国に非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を課す方針を示している。4月には一律部分に加え、上乗せ部分の発動に動くも、その直後に上乗せ部分を90日間延期している。さらに、中国との間で報復措置の応酬に発展するなど貿易戦争状態に突入するも、今月初めの直接協議を経て報復措置の撤廃と、上乗せ部分の90日間停止を決定するなど、関税政策は右往左往している。なお、米国はオーストラリアへの相互関税を10%と一律分と同水準に設定しており、対米輸出額も名目GDP比で1%未満に留まることを勘案すれば、相互関税によるマクロ面での直接的な影響は限定的と見込まれる。他方、オーストラリアにとって最大の輸出相手である中国のほか、近年はアジア新興国との連動性を強めており、相互関税の影響が間接的に及ぶ可能性はくすぶる。
こうしたなか、このところのオーストラリア経済を巡っては、物価高を受けたRBAによる引き締め政策の長期化に加え、世界経済を巡る不透明感の高まりが景気の足かせとなる展開が続いてきた。しかし、商品高の一巡に加え、アルバニージー政権が実施した物価抑制策の効果も重なり、足元のインフレはRBAが定める目標域(2~3%)で推移するなど落ち着いた動きをみせている。こうしたことも、RBAが先月の定例会合でタカ派姿勢を後退させる一因になっていると捉えられる(注2)。

一方、RBAは判断に際してデータ次第とするなか、長期にわたる高金利政策に加え、トランプ関税や米中貿易戦争による景気への悪影響が懸念されるなか、このところの雇用環境は頭打ちの兆しをみせたため、利下げを後押しすることが期待された。しかし、先週公表された4月の失業率(季調済)は4.1%と前月(4.1%)から横這いで推移するも、正規雇用者を中心に雇用拡大が確認されるなど、底堅い動きがみられた。仮に正規雇用者を中心に雇用に底堅い動きが続いた場合、賃金上昇を通じてインフレ圧力を招くと見込まれ、RBAの判断に影響を与えることも考えられた。

こうしたなか、会合後に公表した声明文では、物価動向について「引き続き緩やかに推移している」とした上で、先行きは「インフレは一時的に目標上限付近に加速する可能性があるも、基調インフレは見通し期間を通じて目標中央近傍で推移する」としている。その一方で、景気動向について「先行きは依然不透明である」とした上で、「関税政策を巡る不確実性や地政学的な不確実性が顕著である」との見方を示している。また、労働市場について「需給は依然としてタイトである」とした上で、「労働力の確保が引き続き制約要因となっている」一方、「賃金上昇率はここ1年ほど頭打ちするも、生産性の伸びは回復しておらず、単位労働コストの伸びは高止まりしている」とした。そして、景気と物価の見通しについて「国内外の要因による不確実性がある」として、「足元のデータはこれまでの想定を下回る可能性があり、急激に悪化するリスクがある」としつつ、「先行指標の動きは労働市場が想定以上に強くなる可能性もある」との見方を示している。その上で、政策運営について「インフレの持続的な低位安定が優先事項」とした上で、「インフレを巡るリスクはより均衡しており、上振れリスクは低下した」として「利下げが適切であり、今回の決定によりやや緩和的になる」との見通しを示した。一方で、先行きについて「需給双方の不確実性を勘案して引き続き慎重な姿勢を取る」として、「深刻な下振れリスクを検討して断固とした対応への態勢を整える」としつつ、「データとリスク評価に基づいて判断し、世界経済や金融市場の動向、内需の動向、物価と労働市場の見通しに細心の注意を払う」、「物価安定と完全雇用の実現に向けて必要な措置を講じる」としている。
また、会合後に記者会見に臨んだRBAのブロック総裁は、今回の利下げ決定について「自信を持って利下げを決定し、現時点で正しい判断」とした上で「さらなる調整余地がある」と述べるなど、追加利下げに含みを持たせる考えをみせている。その上で、「今回の決定は全会一致であった」としつつ、「利下げか据え置きで議論を行った」、「25bpと50bpの利下げについて議論を行った」として、大幅利下げを検討した旨を明らかにしている。その上で、先行きの政策運営について「市場見通しは最悪のリスクを反映したものと理解している」とする一方、「利下げが長期化するかは分からない」、「最終的な水準には言及せず、市場価格を支持することもない」とした。そして、「インフレが一段と鈍化すれば、さらなる利上げ余地が生まれる」として、あくまで物価動向如何との見方を示している。今回の決定に際してRBAがハト派に傾いていることが確認されたことを受けて、豪ドルの対米ドル相場については、米ドル安懸念が下値を支えるなかで上値も重くなるなど、動意の乏しい展開が続くと見込まれる。他方、日本円に対しては米ドル/円相場の動向がカギを握ると見込まれるなか、日本銀行の追加利上げが意識されるなかで上値が抑えられる可能性はくすぶるであろう。
注1 2月18日付レポート「RBAが4年3ヶ月ぶりの利下げも、慎重姿勢を崩さず「タカ派的」」
注2 4月1日付レポート「RBAは金利据え置きも、不確実性を意識して「タカ派」姿勢後退」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
中東情勢緊迫化による原油高を受け、アジアではどういう動きが出ているか ~需要抑制、省エネキャンペーン、代替燃料・電化前倒し、脱石油への取り組み加速の動きも~
アジア経済
西濵 徹
-
台湾・3月輸出額は過去最高額を更新(Asia Weekly(4/6~4/10)) ~台湾、タイ、フィリピンで原油高がエネルギー価格を大きく押し上げる動き~
アジア経済
西濵 徹
-
中国、企業はインフレに直面も、家計はデフレ圧力を脱せず ~中東情勢悪化による原油高の一方、家計部門は雇用不安と不動産不況の「呪縛」が続く~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国中銀、李昌鏞総裁最後の定例会合は「様子見」を強調 ~中東情勢は物価や景気にリスク、金融市場の動向をみつつ様子見姿勢が続く~
アジア経済
西濵 徹
-
ベトナムの高成長目標に暗雲、1-3月GDPは前年比+7.83%に鈍化 ~イラン情勢、強権姿勢への懸念はあるが、金融市場は「その後」を見据える動きも~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
韓国中銀、李昌鏞総裁最後の定例会合は「様子見」を強調 ~中東情勢は物価や景気にリスク、金融市場の動向をみつつ様子見姿勢が続く~
アジア経済
西濵 徹
-
ベトナムの高成長目標に暗雲、1-3月GDPは前年比+7.83%に鈍化 ~イラン情勢、強権姿勢への懸念はあるが、金融市場は「その後」を見据える動きも~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀、景気見通しを下方修正も、様子見姿勢を維持 ~様子見姿勢継続も、見通しの再修正の可能性は残り、市場もイラン情勢の動向に左右される~
アジア経済
西濵 徹
-
ニュージーランド中銀は様子見維持も、将来的な利上げに言及 ~「タカ派」姿勢はNZドル相場を下支えする可能性も、引き続き中東情勢次第~
アジア経済
西濵 徹
-
トルコ中銀、2週連続で金を大量売却、金価格の逆風となるか ~新興国中銀に金売却の動き、金価格のボラティリティを高める一因となっている可能性~
アジア経済
西濵 徹

