インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国中銀、景気下支えへ利下げ再開も「悩みの種」は尽きない

~市場の「期待先行」でウォンは底入れもボラティリティ高く、不動産市況や家計債務の動きにも懸念~

西濵 徹

要旨
  • 韓国銀行(中銀)は、29日の定例会合で政策金利を25bp引き下げ2.50%とする決定を行った。これは昨年以降の利下げ局面で通算4回目となり、政策金利も2年8ヶ月ぶりの水準となる。背景には、トランプ関税の影響で景気に著しい下振れリスクが高まっていることがある。1-3月の実質GDP成長率はすでにマイナス成長に陥り、外需依存度の高さを勘案すれば、直接・間接的にその影響を受けることは避けられない。
  • 韓国政府は米韓FTAを軸に米国との協議を進めてきた。しかし、米中電撃合意による米国の交渉姿勢への影響が懸念される。さらに、協議を主導した韓悳洙氏は来月の大統領選への出馬が取り沙汰されたが、最終的に辞退した。金融市場では、米韓協議で為替が主要テーマの一つになるとの観測が強まり、ウォン相場は底入れしてきたが、あくまで「観測」の域を出ておらず、状況が一変する可能性に要注意と言える。
  • 足元のインフレは中銀目標付近で推移するなか、最近のドル安に伴うウォン相場の底入れが利下げを後押ししたとみられる。その上で、中銀は景気を巡る不透明感の高さを理由に今年の経済成長率見通しを+0.8%に下方修正し、追加利下げに含みを持たせた。会合後に記者会見に臨んだ李総裁も、年内に最低2回の利下げを見込む考えをみせている。ただし、ウォン相場の行方のほか、家計債務やその背後にある不動産価格などリスク要因が山積するなか、政策運営は引き続き外部環境に左右される展開が続くであろう。

韓国銀行(中銀)は、29日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を25bp引き下げて2.50%とする決定を行った。同行の利下げ決定は2会合ぶりであり、昨年来の利下げ局面において通算4回目となるほか、金利も2年8ヶ月ぶりの水準となるなど、一段の金融緩和に動いた格好である。

足元の世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。なかでも、米国はすべての国に一律で10%、一部の国や地域に対して非関税障壁を理由に税率を上乗せする相互関税を課す方針を示し、韓国への税率を25%とした。米国は4月初めに相互関税を発動させたが、直後に上乗せ分(15%)の発動を90日間延期するなど右往左往している。そして、米国は延期した90日間に個別に協議を行うとした。なお、韓国の対米輸出額は名目GDP比で約7%であり、ここ数年の米中摩擦激化の背後で韓国は対米輸出を拡大させており、相互関税の発動は同国経済に深刻な悪影響を与えると懸念される。こうしたなか、4月の輸出額は相互関税の上乗せ分延期を受けて底堅さがみられたものの、5月は上中旬ベースで前年を下回る伸びに転じるなど、先行きの輸出を取り巻く環境は厳しさを増す動きが確認されている。

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さらに、1-3月の実質GDP成長率(改定値)は前期比年率▲0.98%と3四半期ぶりのマイナス成長となり、トランプ関税の本格発動を前に景気はすでに『躓いている』様子がうかがえる。韓国経済は構造的に外需依存度が相対的に高く、トランプ関税による直接的な影響に加え、米中摩擦の激化による世界貿易の萎縮や世界経済の減速による間接的な影響を受けやすい特徴がある。よって、韓国政府は米国との協議を積極化させるとともに、両国は米韓FTA(自由貿易協定)をベースに協議を進めてきた。さらに、先月まで大統領代行を務めた韓悳洙(ハン・ドクス)前総理は、かつて総理代行や総理として米韓FTA交渉に関与した経緯があり、そうした事情も協議が円滑に進む一因とみられてきた。しかし、先月の米中電撃合意を受けて、米国は他国との間で早期合意を急ぐ必要性は低下しているとみられる(注1)。また、韓氏は与党候補として、来月3日に実施予定の次期大統領選への出馬が取り沙汰されたものの、紆余曲折を経て最終的に出馬辞退に追い込まれた(注2)。金融市場では、米韓協議において為替がテーマになるとの見方を反映してウォン相場は底入れしているが、あくまで『観測』の域を出ておらず、状況が一変する可能性に留意する必要性がある。

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昨年後半以降のインフレは中銀目標(2%)の近傍で推移するなど落ち着いた動きをみせるも、過去数年は国際金融市場での米ドル高がウォン安による輸入物価の上昇がインフレ圧力を増幅させることを警戒して利下げに躊躇する場面がみられた。なお、中銀は4月の前回会合で金利を据え置く一方、先行きの利下げに含みを持たせており(注3)、足元では米ドル安も追い風にウォン相場が底入れしたことも追加利下げを後押ししたとみられる。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「家計債務の拡大や外為市場のボラティリティの高さへの懸念はくすぶるが、物価が安定するなかで景気が著しく下振れするリスクがあるなか、経済への下押し軽減の観点から利下げが適切と判断した」としている。そして、世界経済について「貿易摩擦の懸念は幾分後退しているが、関税引き上げによる景気減速に直面している上、物価に対する不確実性も高まっている」とした上で、先行きは「米国と各国の貿易協議の動向、主要国の金融政策や地政学リスクの影響を受ける」との見方を示している。一方、同国経済は「内需の回復の遅れや輸出の鈍化を受けて下振れしている」とした上で、先行きは「内需は緩やかな回復に、トランプ関税の余波を受ける形で輸出も一段と緩やかなものとなる」として「今年通年の経済成長率は+0.8%に留まる」と2月時点(+1.5%)から大幅に下方修正している。そして、物価動向について「安定している」とした上で、先行きは「食料インフレやサービス物価の上昇を国際原油価格の低迷や需要の弱さが相殺する」として「今年通年のインフレ率は+1.9%、コアインフレ率は+1.9%になる」と2月時点(各々+1.9%、+1.8%)並みに留まるとした。

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なお、金融市場を巡っては「米国の貿易交渉など外的要因に揺さぶられている」とした上で、ウォン相場について「貿易摩擦懸念の後退を受けたアジア通貨の上昇も追い風に底入れしたが、ボラティリティは依然として高い」との認識を示している。そして、不動産価格についても「国全体としては下落基調が続いているにもかかわらず、ソウルのみ上昇が続いている」とした上で、家計債務について「不動産取引の増加を反映して拡大基調を強めている」として、その動向を注視している様子がうかがえる。先行きの政策運営についても「金融市場の安定に留意しつつ、景気安定と中期的な物価安定を目指す」と従来からの考えを示した上で、「景気の著しい減速が見込まれる一方で不確実性は高く、金融市場の安定の観点では、金融緩和の継続による家計債務の拡大や外為市場のボラティリティを注視する必要がある」との見方を示している。そして、「国内外の政策変更による物価や金融市場への影響を注視しつつ、景気下振れリスクの軽減に向けて利下げスタンスを維持して追加利下げのタイミングとペースを決定する」と引き続き追加利下げに含みを持たせた。

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また、会合後に記者会見に臨んだ同行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、今回の決定について「全会一致であった」とした上で、「景気の下振れリスクを勘案すればさらなる利下げ余地がある」と追加利下げに動く可能性に言及した。そして、「+0.8%とした経済成長率見通しは大統領選後に予定される補正予算を加味したものではない」との見方を示した。また、「韓国と米国との為替を巡る協議を行ったことが、結果としてアジア通貨の上昇を招いた」として、金融市場におけるウォン高を招く要因となっている為替協議を暗に認めた。ただし、足元のウォン相場について「周辺国通貨に比べて上昇幅が大きいのは、国内における政治的不透明感が後退したことによるものと理解している」として、ウォン高誘導を求められているとの観測については否定している。その上で、先行きの政策金利について「現時点では2%を下回ると見込まれる」と述べるなど、年内にも最低2回(50bp)以上の利下げを見込んでいる模様である。とはいえ、ウォン相場を巡る動きや家計債務とその背後にある不動産市況の動向などを勘案すれば、先行きの政策運営も引き続き外部環境次第の展開が続くことは避けられないと予想される。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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