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2025.04.17
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韓国中銀、トランプ関税とウォン相場に配慮も、追加利下げに含み
~政治的中立性を強調しつつ、米国との金利差、ウォン相場のボラティリティを注視する対応が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- 韓国では、憲法裁判所が尹錫悦前大統領の罷免を認め、次期大統領選は6月3日に実施される。政界は事実上の政治空白状態となっており、関税を巡る米国との交渉の行方は不透明である。一方、トランプ関税は韓国の対米輸出に打撃を与える懸念は高まっており、足元ではすでに鉄鋼やアルミ、自動車などへの追加関税が重石となる動きがみられる。今後は半導体への追加関税の行方も焦点となる可能性がある。
- こうしたなか、韓国銀行は17日の定例会合で政策金利を2会合ぶりに2.75%に据え置いた。足元の物価は落ち着いた推移をみせる一方、通貨ウォン相場の不透明感や外貨準備高を巡る懸念が金融政策の制約要因となっている可能性がある。会合後に記者会見に臨んだ中銀の李昌鏞総裁は、景気減速リスクや米国との金利差に言及しつつ、追加利下げを示唆するなど難しい対応を迫られている。足元のウォン相場は持ち直しの動きをみせているが、当面については不安定な展開をみせる可能性は高い。
韓国では、今月4日に憲法裁判所が尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領への弾劾訴追について罷免を妥当とする判決を下した(注1)。その結果、尹氏は即日大統領職を失職し、その後に次期大統領選が6月3日に実施されることが決定された。したがって、韓国政界においては次期大統領選に向けた動きが一段と活発化している。
他方、このところの世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策を巡る不透明な動きに揺さぶられる展開が続く。今月初めに発表した相互関税では、韓国に対して25%と高水準の税率が設定され、対米輸出額が名目GDP比で7%弱に及ぶ同国経済に深刻な影響を与えると懸念された(注2)。なお、米トランプ政権は今月9日に一旦上乗せ分(韓国は15%分に相当)を発動するも、直後に90日間の発動延期を発表し、足元では最悪の事態は免れている。韓国政府は、尹氏の職務停止を受けて大統領代行を務める韓悳洙(ハン・ドクス)氏が主導して米国との交渉を進めているが、上述のように政界は次期大統領選に向けて事実上の『政治空白』状態となるなか、交渉の行方は見通せない状況にある。
このところの世界貿易を巡っては、米トランプ政権による相互関税発動を前にした『駆け込み』により押し上げられる動きがみられる。しかし、韓国の3月の輸出額は前年同月比+3.1%と前月(同+0.7%)から伸びが加速するも、昨年末を境に頭打ちが続く。米トランプ政権は相互関税とは別に、鉄鋼やアルミ、自動車を対象とする追加関税を発動しており、これらの輸出が対米輸出の約4割を占めるなかで、その影響を受けている。さらに、米トランプ政権は相互関税に加え、同国の主力の輸出財である半導体など電子部品への追加関税を課す方針を示しており、電子部品関連の輸出は対米輸出の約2割を占めるなか、対米輸出を取り巻く環境に一段と不透明感が高まると懸念される。

このように先行きの景気に対する不透明感が高まる一方、足元のインフレは中銀目標の近傍で推移するなど落ち着いた動きをみせるなか、韓国銀行(中銀)は17日に開催した定例の金融政策委員会で政策金利を2会合ぶりに2.75%に据え置いた。同行は2月の前回会合で昨年来の利下げ局面で3度目の利下げに動くなど、トランプ関税による外需下振れによる景気減速懸念に対応して景気下支えを重視する姿勢に舵を切った(注3)。他方、同行が先月公表した最新の金融政策報告書では、貿易戦争の長期化によるウォン相場のボラティリティ上昇を警戒しており、外貨準備高が国際金融市場の動揺への耐性が十分と言えない水準に留まることが影響している可能性がある(注4)。また、ウォン相場の過度な調整は米財務省による「為替操作国」の認定を誘発する可能性も考えられるなか、景気下支えとウォン相場の安定という難しい対応を迫られているとも判断できる。

会合後に公表した声明文では、世界経済について「貿易摩擦により景気下振れリスクと物価の不確実性に直面している」とした上で、先行きは「米国と主要国の関税協議や主要国の金融政策、地政学リスクの影響を受ける」との見方を示した。また、同国経済についても「長引く政情不安や貿易環境の悪化を受けて内・外需ともに減速し、景気は想定以上に鈍化している」とした上で、「今年通年の経済成長率は2月時点の見通し(+1.5%)を下回ると見込まれ、通商交渉の行方や補正予算の時期・規模など極めて不確実性を孕んでいる」としている。物価動向については「安定している」とした上で、「今年通年のインフレ率やコアインフレ率は2月時点の見通し(各々+1.9%、+1.8%)と整合的」としつつ「国内外の経済動向や為替相場、国際原油価格、政府の物価安定策に左右される」との見方を示す。他方、金融市場については「ボラティリティが大幅に高まっている」とした上で、家計債務について「伸びは抑制されているが、足元の住宅取引の増大を受けて一時的な拡大が見込まれる」など、規制緩和による首都ソウルでの不動産価格上昇が追い風となっている模様である。そして、先行きの政策運営について引き続き「金融市場の安定に留意しつつ、景気安定と中期的な物価安定を目指す」との従来からの考えを示した上で、「国内外の政策変更を注視し、それに伴う物価や家計債務、ウォン相場への影響を睨みつつ、利下げスタンスを維持して追加利下げのタイミングとペースを決定する」と追加利下げに含みを持たせている。

また、会合後に記者会見に臨んだ同行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、足元の景気動向について「1-3月が景気減速に陥った可能性は排除できない」との見方を示している。そして、今回の決定について「全会一致ではなかった」として、「辛星煥(シン・ソンファン)委員が反対票を投じ、経済見通しの悪化をその理由に挙げた」とした上で、「多くの政策委員が3ヶ月先の利下げを見込んでいる」との見方を示した。また、「中国に対するトランプ関税は中銀見通しを上回った」とした上で、「1-3月の景気は政情不安による家計消費の下振れも影響して著しく下振れする見通し」とつつ、「次回の金利決定に際しては米国との金利差を考慮する」として、米FRBの政策動向に左右される可能性に言及した。そして、次回会合について「年末までに政策金利を2.25%まで引き下げる必要性について協議する」とした上で、「中銀がこれまで金融政策を保守的に行ってきたとの指摘には同意できない」、「次回会合では選挙の行方に関係なく、政治情勢を考慮することはない」として政治的中立を重視する考えを示している。足元のウォンの対ドル相場はトランプ関税による混乱一巡に加え、米ドル高一服も下支えしているものの、当面は不安定な値動きが続く可能性は高いと見込まれる。よって、金融政策も外部環境をみながら判断せざるを得ない展開が続くと予想される。

注1 4月4日付レポート「韓国・尹大統領の罷免決定、政治混乱の収束は進むか」
注2 4月3日付レポート「「トランプ関税」の新興国経済への影響は?」
注3 2月25日付レポート「韓国中銀、景気を重視して再利下げも、国内・外に不安要因山積」
注4 3月13日付レポート「韓国中銀、貿易戦争長期化によるウォン相場の混乱を警戒」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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