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崩れるポルトガルの政治安定

~二大政党の求心力低下と極右台頭で、安定政権の樹立が困難に~

田中 理

要旨
  • 過去3年で3回目となるポルトガルの総選挙では、現政権を率いる中道右派会派が勝利したが、単独での過半数に届かなかった。前回同様に非多数派政権が誕生する可能性が高い。二大政党の求心力低下と極右の台頭により、安定政権の樹立が困難となっている。来年度の予算審議の行方や改革の遂行能力が不安材料となるが、今のところ良好な経済パフォーマンスを脅かす事態に発展するリスクは限定的と考える。

18日に行われたポルトガルの前倒し総選挙は、現政権を率いる「社会民主党(PSD)」と「人民民衆党(CDS-PP)」による中道右派の統一会派「民主アライアンス(AD)」が32.7%で最多の支持を集めたが(開票率99.23%の中間集計)、改選前と同様に単独での過半数には届かなかった(図表1)。かつての政権与党で中道左派の「社会党(PS)」が23.4%でこれを追うが、前回選挙から大きく支持を落とした。移民規制の強化や反汚職を掲げる極右政党「シェーガ」が22.6%と前回から一段と支持を伸ばし、議会第二党の座に肉薄した(図表2)。

図表
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謙虚でおおらかな国民性で知られるポルトガルは、欧州債務危機の最中も目立ったデモやストライキが発生しなかったことで知られ、数年前までポピュリスト政党の台頭も限定的で、二大政党を中心に比較的安定した政治環境が続いてきた(図表3)。だが、2022年の総選挙でシェーガが躍進した頃から政治安定が崩れ始め、側近の汚職疑惑で社会党のコスタ首相(当時、現在は欧州理事会の常任議長に転身)が辞任に追い込まれ、2024年3月に前倒しで総選挙が行われたのに続き、今回は社会民主党のモンテネグロ首相(現在は暫定首相)の親族が所有する企業の利益相反行為が疑われ、首相の不信任投票が可決されたことを受け、再び前倒しで総選挙が行われた。

2024年の前回選挙では、極右政党が一段と議席を伸ばし、二大政党に匹敵する政治勢力に台頭するなか、中道右派・中道左派の二大会派は何れも単独では過半数に届かなかった。中道右派が非多数派政権を発足したが、難しい議会運営が続いてきた。政権を率いる民主アライアンスは、2025年予算の成立に向けて、最大野党の社会党に協力を求めたが、法人税率の引き下げや、若者を対象とした所得税の軽減措置などを巡って、両勢力の意見は対立した。最終的には、民主アライアンスが減税措置の一部を見直すことで、社会党が投票を棄権し、予算成立に漕ぎ着けた。

最大勢力の座を死守した民主アライアンスは、極右勢力との連立や閣外協力を否定しており、今回の選挙後も非多数派政権を樹立する公算が大きい。民主アライアンスは前回選挙からやや議席を上積みしたが、引き続き議会の過半数を確保できず、法案成立には野党勢の協力が必要となる。民主アライアンスは、今回の選挙戦で、法人税率の引き下げ、中間所得層の税負担軽減、各種の構造改革などを通じた経済活性化、最低賃金の引き上げや医療制度改革、地域間の不均衡是正、移民規制の厳格化、教育改革などを公約に掲げていた。首相周辺の利益相反疑惑の逆風下での善戦は、最近のポルトガル経済が比較的堅調で、現政権の経済運営が支持されたことに加えて、ウクライナ情勢やトランプ関税を巡る不透明感も与党の支持拡大を後押しした可能性がある。

過去3年間で2度の前倒し総選挙が行われるなど、ポルトガルの政治安定には綻びもみられる。だが、与野党を跨いだ二大会派の合計議席は議会の過半数を上回り、両勢力はともに親EUやウクライナ支援の立場で一致する。ポルトガルは米国向けの輸出割合が比較的小さく、欧州内でトランプ関税の影響を受けにくい国の1つだ。財政再建も計画通りに進んでおり、次期政権が掲げる減税措置も実行に移しやすい。北大西洋条約機構(NATO)の目標達成やトランプ政権からの要請に応じる形で国防費の増額が必要だが、多くの欧州諸国とともにEUの財政規律の適用から国防費を除外する特例の発動を要請している。コロナ後の旺盛な旅行需要や復興基金からの拠出も続いている。秋に向けて本格化する来年度の予算審議の行方や改革の遂行能力が不安材料となるが、良好な経済パフォーマンスを脅かす事態に発展するリスクは限定的だろう。

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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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