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トランプ大統領の次の標的はEU

~EUは交渉を優先するも、報復の準備を進める~

田中 理

要旨
  • 米国と中国が高関税の引き下げで合意した直後、トランプ大統領はEUへの攻撃を強めている。EUは米国にとって中国に次ぐ貿易赤字相手先。米国との交渉妥結を目指すが、米国が関税引き下げに応じない場合、報復措置も辞さない姿勢を示唆している。EUの米国向け輸出品目の上位には、トランプ大統領が問題視する医薬品や自動車などが並ぶ。EUが先に合意した英国同様の軽減措置を勝ち取ることは容易でない。

米国と中国が100%を超える高関税を90日間停止することで合意した直後、トランプ大統領は「欧州連合(EU)は中国よりもひどい」と発言し、関税交渉の次なる標的をEUに定めた。欧州の27ヶ国が加盟するEUは、「域内無関税・域外共通関税」の関税同盟を形成するため、貿易相手先としては一体の地域圏と見做すことができる。米国の対EU諸国向けの貿易収支をみると、欧州最大の貿易港を持つオランダ向けが巨額の黒字(最終仕向け地はオランダ以外が多いと推測される)、ベルギー、スペイン、ギリシャなど数ヶ国向けが僅かな黒字だが、アイルランドとドイツ向けが日本を上回る巨額の赤字を抱え、イタリア、フランス、オーストリア、スウェーデン、ハンガリーなどその他の国向けも軒並み赤字となっている。EU全体では、米国にとって中国に次ぐ貿易赤字相手先となる(図)。

EUの米国向け輸出品目の上位には、医薬品、自動車、化学品、航空機、医療機器、エンジンなどが並ぶ。トランプ大統領が自動車とともに問題視するのが医薬品だ。トランプ大統領は12日、米国の医薬品が諸外国と比べて割高であるとして、薬価を最大90%引き下げるための大統領令に署名した。今後30日以内に製薬会社に価格目標を提示し、6ヶ月以内に顕著な進展がみられなければ、追加措置を講じる。国外で製造された薬も対象となり、引き下げに応じない国に対しては追加関税を導入する可能性も示唆している。

報復の可能性を事実上排除している日本と異なり、EUは米国との交渉を優先しつつも、交渉が失敗に終わった場合の報復措置を準備している。相互関税に先駆けて3月に米国が開始した鉄鋼・アルミニウム製品に対する25%関税への対抗措置として、EUは米国からの工業製品や農産品など200億ユーロ超に報復関税を発動する方針を固めていたが、米国が4月9日に相互関税の上乗せ部分の適用を90日間停止したことに歩調を合わせる形で、鉄鋼・アルミに対する報復措置を90日間停止している。相互関税に対する報復措置の検討も進めている。EUの行政執行機関である欧州委員会は8日、米国が相互関税を引き下げなかった場合の対抗措置として、最大950億ユーロの米国製品に関税を課すことを加盟国に提案している。EUが報復措置を事前に検討するのは、米国に交渉を促す意味合いだけでなく、加盟国間での合意形成に時間が掛かることもある。

先に合意した米英間の貿易協定では、米国は英国に対する10%の相互関税を維持したうえで、英国産の自動車輸入の関税をほぼ全量に相当する年間10万台までを10%に引き下げ、医薬品や航空機部品の一部を関税の適用外とし、鉄鋼・アルミニウム関税を0%に引き下げた。EUは米国に対して、工業品に対する相互ゼロ関税を提案したが、米国側の反応は冷ややかだ。EUは米国からの譲歩を引き出そうと、米国産の液化天然ガス(LNG)の輸入拡大や自動車関税の引き下げなどを提案している。英国に対する米国の態度が一貫して友好的で、米国の英国向け貿易収支が黒字であったことを考えると、EUが英国同様の関税引き下げ措置を勝ち取るのは容易でない。トランプ大統領は、英国からの自動車輸入に対する低関税枠は例外措置で、他国に対して自動車分野で譲歩する可能性が低いことを示唆している。英国から米国向けの自動車輸出は高級車が中心で、米国製品と競合関係にない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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