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2025.05.07
アジア経済
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インドネシアは「自滅」で景気にブレーキ、成長目標のハードルは高い
~金融市場に財政運営への不信感がくすぶるなか、バランスの取れた運営への転換は必至か~
西濵 徹
- 要旨
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最近の世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策の不透明感に翻弄されている。トランプ関税を巡る方針は二転三転する一方、中国との間では貿易戦争に発展している。しかし、足元では米中間での協議の可能性がうかがわれるなど状況に変化の兆しが出ているが、先行きには不透明感がくすぶる。
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インドネシアではプラボウォ政権の財政運営が景気に懸念を与えている。政権は財政悪化への対応として予算削減を進めるが、公共投資の進捗遅延が実体経済に悪影響を与える懸念が高まっている。1-3月の実質GDP成長率は前年比+4.87%に鈍化しており、個人消費は堅調な一方、外需と投資の低迷が顕著になっている。輸入減少が成長率を下支えしており、景気の実態は数字以上に厳しいと捉えられる。
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中銀は追加利下げに言及する一方、財政政策への不信感がルピア安の一因となっている。今後も公共投資の停滞に加え、インフレ鈍化の一巡の動きも景気の足かせとなることが懸念される。プラボウォ大統領は任期中の経済成長率の大幅引き上げを目指すが、そのハードルは極めて高いのが実情であろう。その意味では、プラボウォ政権には今からでもバランスの取れた財政運営への転換を図ることが求められる。
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最近の世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権による関税政策を巡る不透明感に翻弄されている。米トランプ政権は、すべての国に一律で10%の関税を課した上で、一部の国に対して非関税障壁を元に関税を上乗せする相互関税を課す方針を示した。先月には一律部分に加え、上乗せ分も一旦発動するも、直後に中国以外の国々への発動を90日延長させるなど政策は二転三転している。他方、中国は対抗措置に動き、これを受けて米国は上乗せ分を大きく拡大させたため、米中の関税は米国が145%、中国も125%となる貿易戦争に突入している。なお、足元では米トランプ政権の対中政策に軟化の兆しがみえており、中国も表面的に強硬姿勢を維持するも、一部の米国からの輸入品への関税を引き下げるなど、変化の兆しがうかがえる。こうしたなか、米トランプ政権はインドネシアに対する相互関税を32%としたが、これは他のASEAN(東南アジア諸国連合)主要国に比べて低水準の上、経済構造も外需依存度が相対的に低く、直接的なマクロ面での影響は限定的と見込まれる。しかし、ここ数年の同国では対中輸出が頭打ちするなかで対米輸出の拡大が外需を下支えしてきたほか、中国経済の動向が商品市況を通じて輸出額に影響を与えるなか、外需を巡る環境悪化が景気の足を引っ張るリスクはくすぶる。

一方、足元のインドネシアにおいては昨年の大統領選を経て誕生したプラボウォ政権による財政運営が景気の足かせとなる懸念が高まっている。プラボウォ政権を巡っては、発足当初から大連立の維持を目的とした論功行賞による閣僚数の大幅増を受けて国内外で『肥満内閣』と揶揄されてきた。さらに、プラボウォ氏は自身の任期中に経済成長率を大幅に引き上げる野心的な目標を掲げる一方、公約実現に向けた様々なバラ撒き政策による歳出増加が財政悪化を招くと懸念された。よって、プラボウォ氏はこうした金融市場の懸念払しょくを目的に歳出の見直しに動き、歳出規模を当初予算(3,613兆ルピア)の約1割に当たる306兆ルピア相当を削減する方針を示した。しかし、その内容を巡っては、選挙公約に掲げた学校給食の無償化をはじめ貧困層や低所得者層に受けの良い政策は重点化される一方、インフラ整備をはじめとする公共投資関連が軒並み削減対象とされるなど、バランスを欠いている。結果、道路整備や維持管理などが滞るとともに、新規建設計画の延期、ジョコ前政権肝煎りの新首都(ヌサンタラ)建設関連も遅延が生じているとされる。また、公務員給与の遅配のほか、公的部門における非正規雇用を中心する解雇に加え、政府関連事業の停滞が幅広い経済活動の足かせとなる動きも顕在化している。一連の歳出削減については、アジア通貨危機以降、財政赤字のGDP比を▲3%以下としてきた財政規律に沿った動きである一方、政権によるバラ撒きを優先した財政運営を巡って金融市場では通貨ルピア安が進むとともに、主要株式指数も上値が抑えられるなど『失望』にも似た反応をみせてきた(注1)。

こうした状況を反映して、1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+4.87%となり、前期(同+5.02%)から鈍化し、3年半ぶりの伸びとなるなど頭打ちの動きが確認されている。なお、一部のアジア新興国ではトランプ関税の発動を前にした対米輸出の駆け込みの動きが輸出を押し上げる動きがみられるものの、同国では昨年末にかけて輸出が大きく拡大してきた反動で頭打ちするなど景気の重石となっている。他方、上述したようにプラボウォ政権は大幅な歳出削減に動いているものの、足元では学校給食の無償化や低所得者層向けの現金給付、無償での健康診断実施や学校改築といった公約の実現にまい進しており、結果的に政府消費は大幅に拡大している。そして、プラボウォ政権の政策支援に加え、1~2月に実施された電力料金の割引措置によるインフレ下振れが実質購買力を押し上げたことに加え、中銀も昨年末以降に計2回の利下げに動いたことも重なり、個人消費は堅調に推移するなど引き続き内需が経済成長をけん引する展開をみせている。他方、歳出削減による公共投資の進捗遅延のほか、トランプ関税により外部環境に不透明感が高まっていることを反映して企業部門による設備投資意欲も減退しており、幅広く固定資本投資は下振れする動きが確認されている。さらに、固定資本投資の減少や外需の不透明感の高まりを反映して輸入に幅広く下押し圧力が掛かる動きがみられ、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースでプラス幅が大幅に拡大したと試算されるなど、景気の実態は数字以上に厳しいと捉えられる。

分野ごとの生産動向についても、政府消費の堅調さを反映して公的サービスの生産が大きく押し上げられるとともに、政策支援の対象となっている教育関連サービスの生産も大幅に拡大するなど、政策の動きを素直に反応した動きがみられる。さらに、個人消費が堅調な動きをみせていることを受けて小売関連サービスの生産も拡大の動きが続いているほか、金融市場が活況をみせていることも関連サービスの生産を押し上げている。また、異常気象の頻発を理由に力強さを欠く推移をみせてきた農林漁業関連の生産も久々に高い伸びをみせるなど、足元の景気を下支えしている様子がうかがえる。一方、個人消費の堅調さにもかかわらず、外需を巡る環境に不透明感が高まっていることが重石となる形で製造業の生産は鈍化しているほか、鉱業部門の生産は下振れするなど、足元の景気はバランスを欠く動きをみせている。そして、公共投資や企業部門による設備投資意欲の後退を反映して建設業の生産も下振れしており、政権の政策運営が足元の景気の足を引っ張っていると捉えられる。
なお、中銀は先月の定例会合でも追加利下げ余地に言及しており、外需に不透明感が強まるなかで景気下支えに向けた内需喚起の必要性を強調しているものの(注2)、上述したように政府の財政運営に対する不信感がルピア相場の足かせとなるなかで政策の舵取りは困難さを増している。足元の金融市場においては、米中による貿易協議の進展を期待する向きを反映して『楽観ムード』が広がりをみせており、ルピア相場や主要株式指数も底入れの動きを強めるなど調整局面からの変化の兆しがうかがえる。しかし、足元では政策支援に伴うインフレ下振れの動きは一巡している上、先行きも公共投資の進捗遅延が景気の足を引っ張る展開が続くことは避けられない。さらに、公共投資の停滞は生産性向上の取り組みの足を引っ張ることで中長期的な観点で経済成長の可能性を狭めることも考えられる。そうなれば、プラボウォ氏が目指す任期中の経済成長率の大幅な引き上げのハードルが高まるとともに、そのことがさらなる財政運営に対する不透明感を高める事態も懸念される。プラボウォ政権には、今からでもバランスの取れた財政運営への転換が望まれることは間違いない。

注1 3月14日付レポート「市場が抱くインドネシア・プラボウォ政権への「違う、そうじゃない」感」
注2 4月23日付レポート「インドネシア中銀、景気に不透明感もルピア安が政策の手足を縛る」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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