インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、景気に不透明感もルピア安が政策の手足を縛る

~ペリー総裁は利下げ余地に言及も、市場の財政運営への不信感が政策運営を困難にする展開~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀は22~23日に開催した定例会合で政策金利を3会合連続で5.75%に据え置いた。足元のインフレは目標を下回るなど落ち着いた推移をみせるが、中銀は慎重な金融政策姿勢を維持した。プラボウォ政権は経済成長率を8%に押し上げる目標を掲げるが、足元では米中貿易戦争による外需の不透明さに加え、資金流出の動きや、公共投資の遅延などが経済活動の足かせとなる事態に直面している。
  • ここ数年の米中摩擦の背後で同国は対米輸出を拡大させてきた。しかし、トランプ政権の相互関税は対米輸出の重石となるほか、米中貿易戦争は対中輸出の足かせとなるなど、外需の不透明感が高まっている。ルピア相場も調整が続いており、政権の財政政策に対する不信感が相場の重石になっているとみられる。
  • 中銀はルピア相場や物価安定を重視しつつ、世界経済の不確実性に対応するための内需喚起が必要との見解を示す。声明では、経済成長率見通しの下振れを認識しつつ、為替介入やマクロプルーデンス政策の緩和などを通じて景気下支えを図る姿勢をみせる。同行のペリー総裁は追加利下げの可能性に言及したが、財政運営への不信がルピア相場の重石となるなか、政策運営は困難な展開が続くと見込まれる。

インドネシア銀行(中銀)は、22~23日の日程で開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を3会合連続で5.75%に据え置く決定を行った。足元のインフレ率は、プラボウォ政権が今年1~2月の時限措置として実施した電力料金の割引措置による下振れの動きが一巡したものの、引き続き中銀の定めるインフレ目標(2.5±1%)の下限を下回る推移が続くなど落ち着いた動きをみせている。同国の経済成長率はここ数年5%程度で推移しているが、プラボウォ政権は任期中にこの水準を8%に押し上げる意欲的な目標を掲げている。さらに、経済構造は個人消費をはじめとする内需への依存度が高く、経済成長の押し上げには個人消費の喚起が期待されるものの、中銀は今次会合でも慎重姿勢を維持している。

図1 インフレ率の推移
図1 インフレ率の推移

他方、足元の世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策を巡る不透明感に揺さぶられている。同国経済の外需依存度はASEAN(東南アジア諸国連合)内でも相対的に低いものの、ここ数年の中国の景気減速により中国向け輸出は頭打ちする一方、米中摩擦の激化を受けたサプライチェーン見直しの動きも追い風に対米輸出が拡大してきた。結果、ここ数年は対米貿易黒字が拡大しており、昨年はトランプ1次政権最後の年と比較して1.4倍となるなど、相互関税の矛先が向かうことが懸念された。事実、トランプ政権は同国に対する相互関税率を32%としたほか、相互関税の一律部分(10%)を発動した後、上乗せ分(22%)も発動したが、直後に上乗せ部分を90日間延期するなど、政策は二転三転している。なお、外需依存度の低さに加え、相互関税率もカンボジア(49%)やベトナム(46%)、タイ(36%)などと比べて低水準に留まるため、アジア新興国における相互関税に伴う同国経済への直接的な影響は小幅に留まると試算される。しかし、上述のようにここ数年は対中輸出が頭打ちする一方で対米輸出が拡大してきたため、外需を巡る環境悪化は景気の足を引っ張ることは避けられない。

図2 アジア新興国の対米輸出/GDP比と相互関税の比較
図2 アジア新興国の対米輸出/GDP比と相互関税の比較

こうした状況にもかかわらず、中銀が慎重姿勢を維持する背景には、国際金融市場ではトランプ政権による政策運営の不透明感を理由に米ドル安が意識されやすいものの、同国通貨ルピアの対ドル相場は最安値を更新するなど資金流出に直面していることがある。金融市場がプラボウォ政権の財政運営への警戒感を強めたことを受け、プラボウォ政権は市場の懸念を払しょくすべく歳出削減に動いたが、足元では公共投資が遅延するなど実体経済への悪影響が顕在化している(注 )。さらに、米トランプ政権との協議では、米国産LNG(液化天然ガス)や穀物などの輸入拡大を模索しているとされるが、輸出を巡る環境が厳しくなるなかで輸入が拡大すれば対外収支構造の悪化を招くなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが増すことも考えられる。こうした事情もルピア安の動きに拍車が掛かる一因になっているとみられる。

図3 ルピア相場(対ドル)の推移
図3 ルピア相場(対ドル)の推移

会合後に公表した声明文では、今回の決定について「世界経済の不確実性に直面するなか、ルピア相場の安定を確実にし、物価を目標域に収束させ、景気下支えを図るもの」との考えを示す。その上で、世界経済について「米国の相互関税による不確実性が高まっている」として「今年の経済成長率は+2.9%になる」と従来見通し(+3.2%)から下方修正した上で、「貿易戦争の影響で米国も中国もともに景気減速が見込まれる」としている。また、金融市場について「米中貿易戦争をきっかけにした世界経済の不確実性の高まりは投資家のリスク許容度低下を通じて混乱を招いている」として、「資本移動の動向を注視する必要がある」との認識を示す。他方、同国経済は「世界経済の不確実性にもかかわらず1-3月は堅調さが続いている」ものの、「相互関税や中国の対抗措置の影響は同国経済も無関係でいられない」とした上で「今年の経済成長率は+4.7~5.5%の見通しをわずかに下回るかもしれない」との見方を示す。対外収支について「今年の経常赤字はGDP比▲1.3~▲0.5%に留まる」との従来見通しを維持しつつ、「資金流出圧力は後退している」とした上で「ルピア相場は為替介入を通じて管理可能な状況にあり、足元の状況は周辺国並みの展開が続き先行きは安定が見込まれる」と楽観的な見方を示す。そして、物価動向について「低位で安定して景気の追い風になる」とした上で、「先行きも来年にわたって目標域内での推移が見込まれる」としている。その上で「潜在的な景気減速懸念に対応すべく内需喚起に向けた政策対応が必要」との考えを示しつつ、先行きの政策運営について「マクロプルーデンス政策の緩和を維持する」との考えを示した。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は「ルピア相場や物価、景気動向を勘案しつつ、追加利下げ余地を検討する」と述べるなど、引き続き利下げの可能性に言及している。しかし、プラボウォ政権の政策運営に対して金融市場が不信感を抱いていることを勘案すれば、ペリー総裁の期待にもかかわらず、難しい政策対応を迫られる局面が続くことは避けられないであろう。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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