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パウエルFRB議長の解任を巡るQ&A

~トランプ政権がパウエル議長の交代を模索~

前田 和馬

17日、自身のSNSで「パウエル議長はいつも遅く間違っている」と述べ、同氏がECBと比較し利下げに慎重なことを批判したほか、同日には記者団に「私が求めれば、彼はすぐにそこを出ていく」と述べた。4月17日付のWall Street Journalはトランプ政権が2026年5月の任期満了前にパウエル議長を解任し、ケビン・ウォーシュ元FRB理事を後任に起用することを検討していると報じた。

本稿ではパウエル議長の解任の可能性を巡る主要な疑問に関して、Q&A形式で考察する。

Q.パウエル議長の解任は可能なのか?

A. パウエル議長はFRB(連邦準備制度理事会)議長という「組織の長」と、FOMC(連邦公開市場委員会)議長という「意思決定機関の長」の2つの役割を持っている。

FRB議長は大統領の指名と議会上院の承認によって選出される。17日付けのWSJでは「多くの憲法学者が同議長の解任は困難であるとみている」と言及された。とはいえ、連邦準備法はFRB議長の解任に関して具体的に言及してないほか、過去に同様の事例が裁判で争われたこともない。すなわち、現時点でFRB議長の解任に関する法的な見解は確立されていない。 一方、政策金利を決定する上で重要なのはFOMC議長であり、その議長はFOMC参加者の投票によって選出される。仮にパウエル氏がFRB議長を辞任した(或いは解任された)としても、同氏がFRB理事の職に留まり、FOMC参加者も同氏が議長を担い続けることを支持する場合、パウエルFOMC議長の下で金融政策決定に大きな変化は生じない。

他方、トランプ大統領がパウエル氏をFRB議長のみならず、理事からも解任を目指す場合がある。パウエル氏がFRB理事の職からも外れる場合、FOMC参加者から選出されるFOMC議長に留まり続けることはできない。なお、大統領がFRB理事を解任するには「正当な理由(for cause)」が必要であり、これは1935年の最高裁判決(連邦取引委員会の委員であったハンフリー氏の解任を巡る判決)に基づき「非能率、職務怠慢、職務上の不正行為(inefficiency, neglect of duty, or malfeasance in office)」が該当すると考えられている。政策金利の妥当性はこれに含まれず、解任の理由にはならない可能性が高い。

Q.パウエル議長の考えは?

A. パウエル議長は2024年11月FOMC後の記者会見において「(FRB議長の解任は)法律上認められていない」と明言した。また、16日には現トランプ政権において米連邦取引委員会や全米労働関係委員会の幹部が相次いで解任されていることに言及したうえで、こうした事例がFRBには適用されないとの見方を示した。また、「(政策決定は)政治的な圧力に左右されない」と、中央銀行の独立性を堅持することを通じて通貨(米ドル)の信任を守る姿勢を強調した。

Q.トランプ政権の考えは?

A. 必ずしも一様ではない。トランプ大統領は原油安などを理由に現行の金利水準を持続させることに不満を抱いている。金利の高止まりは住宅や自動車を新規購入するうえでの抑制要因となるほか、今後の議会での減税議論を巡る懸念要因ともなりかねない。また、景気後退が懸念されるようなリスクオフの局面では金利が低下するのが一般的だが、4月2日の相互関税発動の直後はドルの信認が揺らいだことを背景に想定外に長期金利が上昇した。

一方、ベッセント財務長官はFRBの独立性を「宝石箱」と評したほか、後任に挙げられたウォーシュ氏もパウエル議長が任期を全うするべきとトランプ大統領へ助言している(17日付けのWSJ)。金融市場出身の政権関係者は、パウエル議長の解任が更なるマーケットの波乱要因になることを警戒しているとみられる。

Q.後任に挙がったウォーシュ氏の政策スタンスは?

A. 2025年2月のWall Street Journalへの寄稿において、「中央銀行は物価を安定させるパワーを持つ」と指摘したうえで、トランプ政権による規制緩和や政府支出の削減はインフレ抑制的であると強調した。また、10%の一律関税による物価上昇はあくまで一時的(one-time effect)で統計的に重要ではないと指摘するなど、FRBが積極的に利下げを実施すべきとのスタンスを示した。一方、FRBの肥大化したバランスシートがインフレに寄与しているとし、2.5兆ドルの過剰準備金を取り崩すことで、その水準をパンデミック以前に戻すべきとの見解を示唆した。

Q.今後のシナリオは?

A.筆者はパウエル議長が現職を続けるのがメインシナリオと考える。ベッセント財務長官や後任とみられるウォーシュ氏がパウエル議長の解任に否定的であるほか、トランプ大統領は金融市場の更なる混乱を望んでいないとみられる。また、法的なハードルが高いことも政権内の慎重論に繋がる。

16日、パウエル議長はトランプ関税が景気減速やインフレ加速に繋がることを指摘した一方、米国経済の底堅さを背景に利下げペースの加速には慎重な見方を示した。一方、金融市場では6月に利下げが再開され、年内に0.75~1.00%の利下げが実施されることが予想されている。政権からの圧力を踏まえる限り、パウエル議長がこうした市場の見方を強力に押し戻すハードルは高いかもしれない。中央銀行の独立性、及び先行きの政策決定がデータ依存であることを強調しながら、5月FOMC(5/6-7開催)で利下げに踏み切る、或いは6月(6/17-18)の利下げを強く示唆する可能性がある。

 一方、リスクシナリオとして、トランプ大統領がパウエル議長の解任を強行することも考えられる。関税政策の強硬なスタンスにみられるように、現政権は一次政権と比べても、政権内の保守強硬派の主張が実行に移されるケースは多い。パウエル議長は中央銀行の独立性を強調し続けているが、実際にトランプ政権と全面的な法廷闘争へと移行するかには不透明感がある。トランプ大統領が解任を強行すると判明した際に、パウエル氏が自らFRB議長などの役職を辞任し、利下げに前向きなウォラー理事が後任となる展開はあるかもしれない。この場合、実質的にはFRBが政治的な圧力に屈したかたちとなるものの、名目上はトランプ大統領がFRB・FOMC議長を強制的に交代させたこととはならない。

【参考文献】

Conti-Brown, Peter(2019), ”What happens if Trump tries to fire Fed chair Jerome Powell?,” Brookings Instittution: Commentary.

FOMC(2016), ”Federal Open Market Committee—Rules of Organization.

Warsh, Kevin (2025), ”The Fed Can’t Pin Inflation on Trump,”Wall Street Journal.

WSJ(2025), ”Can Trump Fire Fed Chair Jerome Powell?

WSJ(2025), ”Trump Has for Months Privately Discussed Firing Fed Chair Powell.

※全てのURLは2025-4-18参照。

以 上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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