インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国の輸出に「トランプ関税」を前にした駆け込みの動きが顕在化

~輸入からは米中摩擦の激化による「持久戦」を念頭にした動きがうかがえる~

西濵 徹

要旨
  • 足元の世界経済や国際金融市場は、トランプ米大統領の関税政策に揺さぶられる展開が続いている。関税政策の矛先は中国に向かうなど貿易摩擦が激化している。米国はすべての国に一律で10%の相互関税を課し、非関税障壁を考慮した上乗せ関税を課す方針を示した。上乗せ関税は一旦発動するも、直後に90日延期されたが、対抗措置に動いた中国には計145%の高関税を課し、中国も報復関税で対抗している。
  • 米中貿易戦争は米中双方に深刻な悪影響を与えることが懸念される。中国経済には輸出面だけで名目GDP比4%強、輸入面で同1%強の影響が出ると試算されるなど、景気に不透明感が高まるとともに、スタグフレーションに陥る可能性もある。3月の輸出はトランプ関税を念頭にした「駆け込み」が押し上げに繋がる一方、輸入は対照的に減少している。しかし、ハイテク関連や設備投資関連の輸入に堅調な動きがみられるなど、中国側は米中摩擦の激化による長期戦を念頭にした準備を進めている可能性が考えられる。
  • 中国当局は成長率目標の実現に向け、内需喚起と米国以外向け輸出を強化する必要があり、追加の財政輸出同や金融緩和が見込まれる。しかし、過度な金融緩和は人民元安を通じてインフレを招くリスクがある。米国に譲歩する可能性も低く、過剰生産による「デフレの輸出」が世界経済に影響を及ぼす懸念もある。日本経済もそうした影響に晒される懸念を念頭に、対応策を講じることが急務になっていると捉えられる。

足元の世界経済や国際金融市場を巡っては、『タリフマン(関税男)』を自称するトランプ米大統領の一挙一動に揺さぶられる展開が続いている。トランプ氏は大統領就任前から、関税を外交手段に用いるとともに、相手国に対してディール(取引)を持ち掛ける動きをみせてきた。なかでも第1次政権から緊張関係が続く中国には、2月にすべての輸入品に10%の追加関税を課す大統領令を発令し、翌3月には税率を10%引き上げて20%とするなど圧力を強めた。その後も、トランプ氏はすべての国を対象に『例外なく』相互関税を課すとし、すべての国に一律で10%の関税を課した上で、個別に付加価値税(VAT)や為替政策、規制といった非関税障壁を勘案した平均関税率を算出し、その水準に基づく税率を上乗せするとした。結果、中国の実質的な関税率は67%に上るとして相互関税率をその半分に当たる34%とするなど、一段と圧力を強めてきた。

一方、中国は米国の追加関税の賦課を受けて対抗措置に動くも、その対象を石炭やLNG(液化天然ガス)、大豆やとうもろこしなど農産品に限定するなど抑制的な対応をみせてきた。また、中国に進出する米国企業への独占禁止法に基づく調査のほか、重要鉱物に対する輸出規制など関税以外での対抗措置に動いてきた。しかし、相互関税の賦課を受けて中国は米国からのすべての輸入に一律で34%の追加関税を課す報復措置に動いたため、トランプ氏は相互関税の税率を50%上乗せ(34%→84%)した。この動きを受けて、中国も報復関税の税率を50%上乗せ(34%→84%)させる対抗措置に動いており、米中間で関税賦課の応酬が繰り広げられるなど、貿易戦争が一段と激化する動きをみせてきた。

なお、トランプ政権は今月9日に相互関税を一旦発動させたものの、直後に報復措置に出た中国を除いて上乗せ分の賦課を90日間先送りするなど、先行きの譲歩に含みを持たせる動きをみせた。しかし、中国に対しては相互関税の上乗せ分にさらに41%追加(84%→125%)しており、追加関税を併せた関税率は145%に達するなど異常事態となっている。貿易戦争の動きは米中双方の経済に深刻な悪影響を与えることが懸念されるなか、中国経済に対する直接的な影響は輸出だけで名目GDP比4%強に達するとともに、輸入面でも名目GDP比1%強となると試算される。このところの中国経済を巡っては、コロナ禍を経て深刻化している不動産不況に加え、若年層を中心とする雇用回復の遅れも相俟って個人消費や不動産投資など内需が勢いを欠くなど景気の足かせとなるとともに、根強いディスインフレ圧力に直面する状況が続いている。一方、中国は飼料用穀物の大宗を米国からの輸入に依存しており、先行きは報復関税によるコストプッシュインフレ圧力が強まるなど、景気の不透明感が強まるなかで物価上昇に直面するスタグフレーションに陥る可能性もあるなど中国経済を巡る状況は厳しさが増すことが懸念される。

図表
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上述のように米中間の貿易戦争が激化する動きをみせるなか、3月の輸出は相互関税の賦課を前にした『駆け込み』の動きが活発化している様子がうかがえる。3月の輸出額は前年同月比+12.4%と1-2月(同+2.3%)から伸びが加速しており、当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も3月は大きく拡大するなど底入れの動きが確認されている。対米輸出額も3月は前年同月比+9.1%と1-2月(同+2.9%)から大幅に伸びが加速するとともに、前月比も大幅に拡大する動きをみせており、相互関税賦課を前にした駆け込みの動きが活発化していると捉えられる。さらに、米中摩擦の激化により先行きは対米輸出のハードルが高まるなか、米国以外の国・地域向け輸出を活発化させることが見込まれる。こうしたなか、3月の輸出はASEAN(前年比+11.6%)やインド(同+27.3%)、中南米(同+23.5%)、アフリカ(同+37.0%)といった新興国向けが軒並み大幅な伸びをみせるとともに、EU(同+10.3%)や英国(同+16.3%)、カナダ(同+12.9%)、日本(同+6.7%)など先進国向けも伸びが加速している。よって、足元の景気は外需の駆け込みの動きが下支え役になっていると捉えられる。種類別でも、加工組立関連(前年比+2.6%)で伸びが鈍化する一方、一般的な中国製品である一般輸出(同+13.0%)の伸びが加速していることも、駆け込みの動きが活発化していることを示唆している。

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一方の輸入額は前年同月比▲4.3%と1-2月(同▲8.4%)からマイナス幅は縮小するも前年を下回る伸びが続いており、上述のように輸出が底入れの動きを強めているのと対照的な状況にある。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も3月は減少しており、中期的な基調も減少傾向で推移するなど頭打ちの動きを強めていると捉えられる。財別では、ハイテク関連(前年比+13.1%)や半導体関連(同+8.4%)、電気機械関連(同+7.5%)で軒並み堅調な動きがみられるほか、自動データ処理装置関連(同+129.9%)の輸入が大きく拡大する動きがみられる。こうした背景には、習近平指導部が製造業強国の実現に向けて製造業の内製化を目指す動きをみせており、先行きの米中摩擦の激化を警戒した動きを反映したものと捉えられる。さらに、習近平指導部は内需喚起を目的に企業部門に大規模設備投資の更新促進の取り組みを強化しており、設備投資の動きが下支えされていることも機械関連の輸入を押し上げている可能性がある。そして、半導体をはじめとする電子部品の生産に必要となる原材料である銅鉱石(前年比+12.1%)や銅製品(同+8.7%)も堅調な推移をみせており、当局の政策支援の動きが輸入を下支えしている様子がうかがえる。その一方、米中摩擦の激化による追加関税の報復対象となっている大豆(前年比▲46.5%)は大きく下振れしているほか、鉄鉱石(同▲27.0%)、石炭(同▲30.3%)など鉱物資源関連で大きく下振れするとともに、原油(同▲3.7%)や石油製品(同▲27.3%)も鈍化しており、商品市況の低迷も輸入額の重石となっている。なお、原油輸入量(前年比+4.8%)は4ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じるなど底打ちしており、これはイラン産原油の輸入が急拡大するとともに、ロシア産原油の輸入が回復していることが影響している。こうした動きも、中国が米中摩擦のさらなる激化による『持久戦』を念頭にした準備を進めていることを示唆している。

図表
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先行きの中国経済を巡っては、米中摩擦の激化を受けて、先月の全人代(第14期全国人民代表大会第3回全体会議)で示した成長率目標(5%前後)実現のハードルが高まるなか、当局は内需の更なる喚起に加え、米国以外向けの輸出下支えに向けた取り組みを強化する必要に迫られている。当局はさらなる財政出動による内需喚起に加え、金融市場においては追加金融緩和観測が強まることが予想される。しかし、上述したように飼料用穀物を中心に米国からの輸入への依存が高いことに鑑みれば、金融緩和が招く人民元安は輸入物価を通じてコストプッシュインフレ圧力を増幅させると見込まれる(注1)。その意味では、金融政策の動きは金融市場の期待に比べて小幅に留まると予想されるほか、昨年後半以降実施されている内需喚起策のさらなる増強を通じて景気下支えを図る展開が続くとみている。一方、貿易戦争を巡って中国側は持久戦を念頭にした動きをみせていることに鑑みれば、中国側から米国に対して譲歩を迫る動きをみせる可能性は極めて低いと捉えられる。結果、中国国内における過剰生産による『デフレの輸出』の動きがアジア新興国をはじめ、日本やEUなど全世界的に影響を与えることが考えられる。そうした事態を念頭にした対応策を早期に構築することが不可欠になっている。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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