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2025.02.04
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寸止めされたトランプ関税
~メキシコ・カナダは延期、中国には実施~
熊野 英生
- 要旨
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2月4日に実行されると身構えていたトランプ関税は、メキシコとカナダに対して実行されなかった。協議の上で、1か月間の延期となった。中国に対しては、予定通りに10%の関税が実施されて、対抗措置として2月10日から報復関税が課される見通しである。こうした延期の思惑の背景には何があるのだろうか。
協議して延期
2月4日に、メキシコ、カナダ、中国に対して、トランプ関税が発動される予定であったが、メキシコとカナダについては1か月間の延期となった。中国については4日に実行されて、中国側は10日から米国から輸入する石炭、LNGに15%、原油・農業機械・大型自動車に10%という報復関税実施の内容が伝わっている。
関税延期となったメキシコとカナダについては、発動直前の2月3日に、トランプ大統領との間でメキシコのシェインバウム大統領とカナダのトルドー首相それぞれとの電話協議があったようだ。報道では、合成麻薬フェンタニルの対策や、不法移民対策を講じることが、メキシコ・カナダから提案されたという。まさしくトランプ関税は寸止めされた格好だ。
一応、1か月間の延期ではあるが、ここで合意ができたことは、1か月後も両国にトランプ関税が見送られる公算が高まったことを感じさせる。トランプ大統領がなぜ翻意したのかという理由を考えると、2月3日の米株価がダウで一時▲600ドル以上も下がって、想定以上のマイナス・インパクトを感じさせたことも遠因ではないかと思う。株価が大きく下がると、マーケットの心が自分から離れてしまう。これは不都合だと感じた可能性はある。
また、トランプ大統領にとっては、中国への関税適用は公約を実行しようとした実績を残せる。それとは区別してメキシコ、カナダとは協議をすることで、実行を思い止まった体裁を採る。トランプ大統領にすれば、メキシコとカナダには、関税率引き上げという脅しのカードは温存しておいて、今後、別の要求を検討する可能性がある。交渉術の一手として、今回は引いたというのが筆者の理解だ。中国に対しては行く行くは60%の関税引き上げを表明しているので、まだカードは温存されている。メキシコとカナダには、今後、さらに様々な別の要求を突きつけて、米国にとっての利益を引き出すという選択なのではないか。
2月7日に石破会談
今回の顛末をみてわかったことは、トランプ大統領は強権発動を割と柔軟に修正するということだ。トランプゲームで強い手札をいくつも切ると、手元から強い手札が減ってしまう。それは自分の交渉力を低下させることになるから、自分の利得は強いカードをなくべく多くは切らずに相手にプレッシャーをかけて行こうという判断になる。
また、強権発動は、相手に打撃を与えるとともに、自分にも跳ね返ってくる。株価下落の反応もそうだ。メキシコやカナダに進出した米企業にも打撃が加わり、さらに両国の報復関税が米国の輸出を下押しするデメリットもある。
その一方で、日本やEU各国などは、今後、トランプ関税の実行をちらつかされたとき、その実行を回避するためにどんな恩恵を米国側に与えるべきなのかを考えることになる。各国は、トランプ関税を封じるための交換条件をいくらか時間をかけて練っておく必要に迫られるのだ。トランプ大統領の狙いは、実は各国から米国経済への恩恵を引き出すことにある。その成果を得るために、トランプ大統領は今後の交渉では最大限、合目的的な行動を採ろうするだろう。
日本は、そうしたディールの狙いを先読みしながら有効な対応策を考える必要に迫られる。目先は、2月7日の石破首相の訪米時の日米首脳会談が焦点になる。トランプ大統領から日本に対してどんな要求が来るのかを予想しながら、それをうまくかわすことが望まれる。
為替レートへの影響
トランプ関税の実行が約1か月間延期されたことを、マーケットの視点でどう捉えればよいのだろうか。もしも、トランプ関税が大きく実行されていれば、それが米国の輸入物価を明確に押し上げて、インフレ圧力を高めたという理解ができる。FRBの立場からみれば、1月のFOMCでは利下げを一旦停止して、トランプ政策の様子をみることになった。次のFOMCは3月18・19日になる。メキシコ・カナダへのトランプ関税延期の期限は、3月初めになるから、FRBにはそれまでトランプ関税の実行を見極める時間的な余裕がある。
では、仮に3月18・19日のFOMCまでに、メキシコとカナダへのトランプ関税の実行をしない選択を採ったならば、FRBはどう行動するのだろうか。これは悩ましい問題になる。
1月のFOMCでは、利下げをしなかったFRBに対してトランプ大統領は一旦不満を述べた。トランプ大統領は、FRBにはまだまだ利下げをしてもらいたいのが本音であろう。今後、2026年5月が任期になるパウエル議長に対して、利下げの実行に向けて暗にプレッシャーをかける可能性はある。
米国の実体経済は、2025年1月のISM製造業指数が50.9へと、久々に好不況の分岐点である50超になったことに象徴されるように、徐々に拡大方向への強さを取り戻してきている。FRBの追加利下げが景気浮揚のためにこれ以上に必要かどうかは微妙なところがある。従来は、トランプ関税の発動が引き金になってインフレ圧力を強めるため、これ以上の利下げがいくらか微妙になっていた。仮に、今後、中国以外のトランプ関税がしばらくないとすれば、FRBの運営も微妙になってくると感じられる。
この間、ドル円レートはそれほど動いてはいない。米長期金利もやはり動意に乏しい。方向感がはっきりしないのは、追加的なトランプ関税が不確定な要因になってきて、その見極めがしづらいこともある。
日本の要因からみれば、1月会合で日銀が追加利上げを決めたのに、ドル円レートはその後、ほとんど円高方向に振れないことに不思議さはある。これは、ドル円レートには潜在的にドル高・円安圧力が働いていて、日本の要因で円高には振れにくいのではないかとも理解できる。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

