インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中南米で展開される米中競争は「トランプ関税砲」で一段と激化へ

~関税による脅しは成功も、中国との関係深化が一段と進む可能性、米中摩擦の新たな舞台となるか~

西濵 徹

要旨
  • 米トランプ大統領は「タリフマン」を自称し、政権公約実現へ関税賦課を材料に相手国にディールを仕掛ける動きをみせる。不法移民対策を理由に、トランプ氏は26日に南米コロンビアへの追加関税や制裁に動く方針を示し、直後にはコロンビアのペトロ大統領が報復を示唆する動きをみせた。しかし、経済への深刻な悪影響が懸念されるなか、ペトロ氏が不法移民の輸送受け入れに同意し、米政府は関税と制裁の発動を見送った。結果、トランプ氏による関税を用いた脅しは成功したと捉えられる。他方、一連の対応は「米国の裏庭」と称されるも、ここ数年反米左派政権が広がりをみせる中南米諸国で米国からのさらなる離反を招く可能性がある。また、ここ数年は中国が中南米諸国での影響力を拡大させており、米国からの離反も追い風に関係深化が進むことも考えられる。中南米が米中摩擦の新たな舞台となる可能性に要注意と言える。

米トランプ大統領は、自身を「タリフマン(関税男)」と称するとともに、政権公約の実現に向けて外交戦略では関税賦課を材料にして相手国に『ディール(取引)』を持ち掛けるなどけん制を仕掛ける動きをみせてきた。こうしたなか、トランプ氏は今月の就任直後から多数の大統領令に署名するとともに、政権公約実現の『一丁目一番地』に不法移民対策を掲げ、南部の国境地帯に国家非常事態宣言を発令するとともに、拘束した不法移民の強制退去に軍用機を用いて国外に移送するなど対応を強化させている。こうしたなか、移民発生国のひとつである南米コロンビアのペトロ大統領が移民輸送を巡る米国の対応を批判した上で、輸送機の着陸を拒否する対応をみせたことを受け、トランプ氏は26日に国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠にコロンビアからのすべての輸入品に25%の追加関税を課すほか、政府当局者に対する渡航禁止やビザ(査証)取り消し、緊急金融制裁、同国民や同国からの貨物への国境検査強化を指示する大統領令に署名するなど『圧力』を強める方針を示した(注1)。さらに、トランプ氏は追加関税の税率を1週間後には25%から50%に引き上げるとするなど、関税賦課を材料に早期のディールを仕掛ける姿勢をみせた。この動きを受けて、ペトロ氏は直後に米国からのすべての輸入品に25%の報復関税を課す方針を示すなど、報復合戦に発展することが懸念された。追加関税の賦課を巡っては、具体的な納税は輸出業者ではなく輸入業者が負うため、仮に米国が輸入関税を引き上げれば結果的に米国民が納税負担を強いられる格好となる。しかし、経済面で対米輸出への依存度が高い国にとっては追加関税に伴う対米輸出の減少が経済に深刻な打撃を与えることが懸念されるなか、直後にペトロ氏が米国からの不法移民輸送の受け入れに同意したため、これを受けて米国政府も追加関税と制裁の発動を見送る方針を明らかにするなど、トランプ氏が仕掛けたディールは成功したと捉えられる。よって、一連の動きは米トランプ政権が米国経済に対する依存度が高い国々に対して、関税賦課が『脅し』に使えるとの事実上の『お墨付き』を与える先例となる可能性に留意する必要がある。他方、今回は『米国の裏庭』と称される中南米、とりわけ伝統的に親米国とされるコロンビアがその対象となったものの、背景には2022年に行われた大統領選を経て同国初となる左派政権(ペトロ政権)が発足しており、ここ数年の中南米で反米左派政権がドミノ的に広がりをみせる『ピンクの潮流』が影響した可能性に留意する必要がある。さらに、中南米において反米左派政権が誕生している背後では、中国が展開する一帯一路をはじめとする外交戦略を追い風に世界的な影響力拡大を目指していることを追い風に、中国との経済関係が深化する動きがみられる。こうした動きを反映して、中南米諸国と米国、中国との間の貿易の動きをみると、両者の間には依然として開きがあるものの、2000年代以降の中国による高い経済成長の動きに加えて、近年の中国企業による海外進出の動きも追い風に乖離が急速に縮小している。さらに、近年の中国企業による進出の動きを反映して中国から中南米向けの対内直接投資も拡大しているほか、一帯一路を通じたインフラ投資支援の動きも中国からの中南米諸国向け輸出を押し上げている。結果、昨年(9月迄の累計)時点における米中の中南米向け輸出額の差は2倍弱に縮小するなど、中南米諸国にとって中国との関係は切っても切れない状況にある。他方、近年の中国の高成長を受けた需要拡大は中南米からの輸入を押し上げているほか、中南米諸国は穀物や鉱物資源などが豊富であることから、ここ数年の米中摩擦の背後で中国が米国に代わる調達先の多様化を図る動きを活発化させていることも重なり、中国は中南米からの輸入を活発化させている。とはいえ、中南米諸国からの米国と中国向け輸出額には依然として2倍強の開きがあり、上述のように米トランプ政権が関税賦課を材料に脅しを掛けたことへの対抗を目指しても、中国が米国に代わる存在とはなり切れていないことを示唆している。しかし、米トランプ政権による一連の対応は国際的な反発を招く可能性があるほか、伝統的な親米国のみならず、上述のように反米左派政権が広がりをみせる中南米諸国においてはそうした動きが加速化するとともに、中国との経済関係の深化を図る誘因となることも考えられる。仮に中南米諸国がそうした動きのほか、中国やロシアが新興国への影響力拡大の『舞台』としての利用を目指すBRICSへの加盟申請に動くとともに、『脱米ドル』を目指す姿勢を鮮明にすれば、米トランプ政権が関税を用いた圧力を強めることも見込まれる。そして、米トランプ政権のそうした姿勢は中南米諸国が米国との距離を置く動きを後押しし、結果的に中国の存在感向上を招くとともに、中南米諸国が米中摩擦の新たな舞台となる可能性を孕んでいると捉えることができる。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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