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ロサンゼルス近郊の山火事を巡るQ&A

~1月の雇用者数が2万人下押しされる可能性~

前田 和馬

2025年1月7日(現地時間)にカリフォルニア州のロサンゼルス近郊で発生した複数の山火事は、鎮静化の兆しが立っていない。約20万人の住人に避難命令・勧告が発令されており、経済損失は2,500億ドル(55兆円)に達するとの試算がある。本稿では山火事を巡る原因や被害額に関してQ&A形式で概観する。なお、本稿の記載は1月14日時点の情報に基づいている。

Q.山火事の現状は?
A.カリフォルニア州の森林保護防火局(Cal Fire)はロサンゼルス近郊で4つの山火事が発生中と報告しており、このうちパリセーズ火災(Palisades Fire)では96平方キロメートル、イートン火災(Eaton Fire)は57平方キロメートルが焼失した。一方、鎮火した各火災の割合はそれぞれ18%と35%に留まっており、今後の強風などにより被害がより一層拡大する懸念がある。ちなみに、2015年以降の同州における建物被害が1,000軒を超えた山火事を対象とすると、完全な鎮火に至る日数の平均値は54日(中央値:39日)であり、事態の鎮静化には一定の期間を要する可能性がある。

山火事の原因は未だ特定されていない。Balch et al.(2017)は1992~2012年のデータに基づき、山火事の84%はキャンプファイヤーやたばこ、放火、送電線からの火の粉など、人為的な原因によるものと指摘する(それ以外の原因は落雷などの自然発生)。とはいえ、2023年における山火事の発生件数は全米規模で56,580件、うちカリフォルニア州では7,386件と、その発生自体は珍しいものではない。なお、同州の大規模な山火事は乾季にあたる夏頃に集中しており、今回のように冬場に大規模な被害をもたらすことは少ない。2024年10月以降のロサンゼルスの降雨量は僅か0.16インチ(0.4cm)と、例年対比で異様に少なく、こうした干ばつと強風の組み合わせが山火事被害を拡大させたとみられる。


Q.被害状況は?
A.山火事による死者数は少なくとも25人に及んでいる。また、現時点で約1.2万軒以上の建物に被害が出ており、これは2018年11月に同州で発生した過去最大の山火事被害(Camp Fire:建物被害1.9万軒)の次に多い。米気象会社AccuWeatherは経済損失が2,500億ドル(約40兆円;カリフォルニア州のGDPの6.5%)に達すると試算しており、これは2023年8月に発生したマウイ島(ハワイ)の山火事の被害額である130億ドル、2024年9月に米南部に上陸したハリケーン・へリーンの同2,250憶ドルを上回る。なお、同試算は建物やインフラへの被害のみならず、経済活動が困難なことによる機会損失(労働所得の減少など)を含んでいる。

図表
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Q.連邦政府や地方政府の取り組みは?
A.バイデン大統領は180日間の災害対策費用の全額を連邦政府が負担すると表明した。これには瓦礫除去、仮設住宅の設置、消防士の給与などが含まれる。また、被災者一人当たり770ドルの一時金を支給するほか、更なる被害を食い止めるための消防用ヘリコプターの提供や国防総省からの人員派遣も決定している。一方、1月20日に就任予定のトランプ新大統領は、カリフォルニア州のニューサム知事(民主党)が環境保護を優先し消防用水への備えを怠ったことが被害を拡大させたと批判した(ニューサム知事はこうした見解を強く否定)。これに同調するジョンソン下院議長も連邦政府から被災地への支援を検討するに際して、詳細は明かさなかったものの、何らかの条件を付す考えを示している。連邦議会は上下院共に共和党が第一党であり、連邦政府による復興支援を巡っても両党の政治的対立が混乱を招く懸念がある。なお、政府による山火事の消火コストは気温上昇、及び発生する季節の広範化などを背景に増加傾向にあるほか、損害保険会社が高リスク地域における住宅保険から撤退する動きが目立つなど、社会問題の一つとなりつつある。

Q.今後の経済指標に与える影響は?
A.カリフォルニア州は全米GDPの14.3%、被災地であるロサンゼルス郡は3.5%をそれぞれ占める(2023年時点)。また、ロサンゼルス経済圏(ロサンゼルス・ロングビーチ・アナハイム)の合計雇用者数は631万人に達する(24年11月時点)。Luo(2023)は2003~21年における同州な大規模な山火事とその前後の雇用動向を分析し、山火事発生月に被災地域の雇用が-0.4%pt押し下げられると試算している。これを前提にすると、2月7日公表の1月雇用統計における非農業部門雇用者数は2.2万人下押しされる(注1)。また、雇用が短期的に減少した後は、建設業などで復興需要を背景に雇用が拡大する傾向にあり、こうした影響は1~1.5年間持続する可能性がある。

物価・インフレへの影響を巡っては、住宅損害保険の価格上昇が見込まれるものの、物価統計への影響は抑制される可能性が高い。例えば、建物等への損害保険料(企業向け)は気候変動による自然災害の増加を背景に足下で1割強の上昇を示すものの、住宅保有者の損害保険料はCPI統計の算出に含まれない。CPIの算出に反映されるのは賃貸向けの家財保険(CPIに占めるウェイト:0.4%)であり、直近24年11月の同保険料は前年比+2.0%の上昇に留まっている。

図表
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【注釈】

  1. 1月雇用統計の調査期間は12~18日であり、事業所調査における非農業部門雇用者数は同期間に給与を受け取った人数が集計される。このため、現時点で就業が困難な被災者の一定数がこの期間に給料を受け取る場合、1月の雇用者数への影響は同試算よりも抑制される可能性がある。また、失業率の算出に用いる家計調査は悪天候で一時的に就業していない人々を失業と定義しないため、失業率への影響はより限定的に留まる可能性がある。一方、Luo(2023)は大規模な山火事を被害建物が300軒以上などで定義しており、今回の山火事がこうした分類のなかでも上位に位置する災害規模であることを踏まえると、悪影響がより大きい可能性も否定できないなど、同試算は幅をもってみる必要がある。

【参考文献】

Balch, Jennifer, Bethany Bradley, John Abatzoglou, Chelsea Nagy, Emilly Fusco, and Adam Mahood (2017), “Human-started wildfires expand the fire niche across the United States.” Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS), 114(11) p2496-2951.

Luo, Tian (2023), “Labor market impacts of destructive California wildfires,” BLS Monthly Labor Review.

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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