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- オーストリアでも極右が第一党に
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- 29日に行われたオーストリアの国民議会選挙で極右政党・自由党が第一党となったが、主要政党が自由党との連立に否定的で、政権発足は困難な状況にある。中道右派の国民党と中道左派の社会民主党の二大政党が連立政権を発足する公算が高まっている。同国史上初の極右主導の政権が誕生すれば、EUとの関係悪化が不安視される。オーストリアは景気低迷、ロシア産ガスの打ち切り懸念、財政悪化、移民流入などの問題に直面する。二大政党が極右排除で団結した場合も、有権者の不信感を高め、現状不満票がさらに極右に流れる恐れがある。
9月29日に行われたオーストリアの国民議会(下院)選挙は、極右政党・自由党(FPÖ)が29.2%の票を獲得し、議会第一党の座を初めて手にした(図表1)。現政権を率いる中道右派の国民党(ÖVP)が26.5%、中道左派の最大野党・社会民主党(SPÖ)が21.0%の票を獲得したほか、リベラル政党・新オーストリア自由フォーラム(NEOS)が9.0%、環境政党・緑の党(Grüne)が8.0%が議席を獲得した。自由党の獲得議席は56と、定数183の国民議会の過半数(92)に届かない。国民党(52議席)と社会民主党(41議席)の二大政党の議席を合わせると、辛うじて過半数に達する。

自由党はナチス関係者などが第二次世界大戦後の1950年代に結党した政党で、反移民、反イスラム、欧州懐疑主義、親ロシア、反ウクライナ支援の立場を取る。自由党は6月の欧州議会選挙後、ハンガリーのオルバン首相が旗揚げした欧州議会内の右派会派「欧州の愛国者」に加わった。自由党を率いるキックル党首は、今回の選挙戦で自らを「国民の首相」と呼び、オーストリアの自由、安全、繁栄、平和を取り戻すと訴え、有権者の支持を集めた。キックル氏は政権発足に意欲をみせるが、自由党の議席が過半数に届かないうえ、主要政党が自由党との連立に否定的で、政権発足は難航しそうだ。首相の任命権を持つファン・デア・ベレン大統領は、2016年の大統領選挙で自由党のホーファー候補を破って選出された緑の党出身の政治家で、キックル氏のEU批判やロシア擁護姿勢を問題視し、首相任命に難色を示しているとされる。
選挙結果が示唆する次期政権の組み合わせとしては、①自由党が率いる政権に国民党が連立パートナーとして加わるか、閣外協力する政権、②国民党と社会民主党の二大政党が極右政権の誕生阻止で協力する大連立政権が考えられる。自由党は過去に国民党や社会民主党が率いる政権に連立パートナーとして加わったことがあるが、極右政党が政権を率いることになれば第二次世界大戦後の同国(第二共和国)史上で初となる。国民党を率いるネーハマー現首相は、キックル氏が自由党を率いる限り、同党と連立を組むことはないとしており、今回の選挙結果を受けて、改めて自由党との連立協議を開始しない旨の発言をした。そのため、極右政権の誕生を阻止することを目的に、二大政党が連立政権を発足する可能性が高まっている。事前の世論調査では、二大政党の合計議席が過半数に届かず、リベラル政党や環境政党も交えた、より複雑な連立交渉が必要とみられていた。連立協議から排除された形のキックル氏は、主要政党が議会第一党が政権を率いる慣例と有権者の意向を無視していると批判している。1980年代以降の総選挙では、投開票日から政権発足までに最短51日、最長124日、平均81日を要している(図表2)。今回も政権の枠組みが固まるまでに数ヶ月単位の時間が掛かる可能性がある。

次期政権を待ち受ける政策課題としては、①経済の立て直し、②ロシア産ガス依存脱却、③財政再建、④移民問題などが挙げられよう。
最大の貿易相手国で、経済的な結びつきが強い隣国ドイツの経済低迷の余波が及び、オーストリアの景気は停滞している(図表3)。

ロシアによるウクライナ侵攻後、ドイツやイタリアなど多くの欧州諸国はロシア産ガスの輸入を停止したが、代替調達手段が限られたオーストリアやスロバキアなどは、ウクライナのパイプライン経由でロシア産ガスの輸入を継続してきた。ロシアとウクライナ間の欧州向けガス輸送契約の期限が12月に控えるなか、両国が輸送契約の延長で合意できない場合、冬場の需要期にオーストリア向けガス供給が停止される。オーストリア政府はウクライナ経由のガス供給が停止した場合の予防措置を検討しているとされるが、長期的な代替調達先の確保が必要となる。
単一通貨を採用するユーロ圏内の安全資産とされるドイツ国債と同国債の利回り格差は、ロシアによるウクライナ侵攻後にそれまでの2倍程度に拡大し、その後も高止まりしている(図表4)。欧州委員会は6月にフランスやイタリアなど7ヵ国に対して、財政規律違反の是正を求める過剰赤字手続き(EDP)を開始した。オーストリアは対象の7ヵ国に入っていなかったが、独立した財政評価機関は今後同国が規律違反を問われる恐れがあると警笛を発している。

オーストリアへの移民流入数は2023年に19.5万人に上り、2015年の難民危機時を上回った2022年の26.2万人から減少したが、高水準の流入が続いている(図表5)。移民問題は今回の選挙戦でも最大の争点の1つで、自由党は移民の流入を制限し、治安を回復することを公約に掲げていた。

田中 理
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