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- 6月に利下げを開始したECBは、7月に利下げを見送った後、9月は追加利下げに踏み切った。先行きの利下げについては、「特定の政策金利のパスを事前に約束せず、理事会毎にデータに基づいて判断する」との従来の方針を維持。足許の成長下振れで利下げの必要性が増しているなどの認識を示すことはなかった。サービス物価や賃金の高止まりが続いており、今後も四半期に25bpの利下げを継続する可能性が高い。なお、資金需給逼迫に伴う金利上昇リスクを抑制するため、3本の政策金利の間のスプレッドを縮小したが、金融緩和姿勢の強化を意味する訳ではない。
6月に約5年振りに利下げを開始した欧州中央銀行(ECB)は、十分なデータが揃っていないことを理由に7月に利下げを見送った。12日に終わった9月の理事会では、「インフレ見通し、基調的なインフレ動態、金融政策の波及経路の強さに関する最新の評価からは、金融引き締め度合いを緩和する新たな一歩を踏み出すことが適切である」とし、追加利下げに踏み切った。ラガルド総裁によれば、利下げ決定は理事会の総意によるもの。下限の政策金利である「預金ファシリティ金利」は3.75%から3.50%に25bp引き下げられた。なお、後述する金融政策の運営枠組み変更の一環で、中心レートである「主要リファイナンス金利」を4.25%から3.65%に、上限の政策金利である「限界貸出ファシリティ金利」を4.5%から3.9%に各々60bp引き下げた。預金ファシリティ金利を上回る利下げ幅だが、これは3本の政策金利間のスプレッドを縮小するための措置で、金融緩和姿勢が強化された訳ではない。
声明文での景気判断は、「実質所得の増加により家計の消費意欲が高まり、時間の経過とともに景気回復が強まることが予想される」、「引き締め的な金融政策の影響が徐々に薄れていくことも消費と投資を下支えする」、「世界的な需要の高まりとともに、輸出も回復に寄与するだろう」との認識を示した。
声明文での物価判断は、「最近のインフレ・データが概ね予想通りとなっている」としたうえで、「エネルギー価格の押し上げ剥落が一巡するため、今年後半のインフレ率が再び加速すると予想されるが、その後は来年後半にかけて目標に向かって低下する」との認識を示した(図表1)。また、「賃金が依然として高いペースで上昇しており、国内インフレが高止まりしているものの、労働コストの上昇圧力が緩やかになりつつあるとともに、賃金上昇がインフレに与える影響を利益上昇が部分的に吸収している」と説明した。

こうした景気・物価認識の下、「インフレ率が2%の中期的な物価目標にタイムリーに復帰することを確実にするため、政策金利を十分に引き締め的な水準に維持する」との慎重な政策の舵取りを続ける方針を示唆した。ラガルド総裁も理事会後の記者会見で、「金融政策の効果が経済に浸透するまでには時間の経過が非常に重要となり、ディス・インフレのプロセスが軌道に乗っているとの理事会メンバーの自信を高めることが重要である」と説明した。今後の利下げについては、「特定の政策金利経路を事前に約束せず、経済・金融、インフレ動態、金融政策の波及経路などのデータに基づいて理事会毎に判断する」との従来からの指針(フォワード・ガイダンス)を維持した。
購買担当者指数(PMI)の改善鈍化など、7~9月期入り後の景気指標の弱さもあり、成長下振れに対応する形での利下げペースの加速や、中期的な物価安定の達成に自信を深め、先行きの利下げペースの加速を匂わすとの見方も一部で浮上していたが、結局、従来通りのガイダンスを維持した。ラガルド総裁は「9月と10月の理事会までの期間が、通常の6週間よりも短い5週間である」ことにも言及、10月の追加利下げが見送られる可能性が高いことを暗に示唆した。データに基づいて慎重に追加利下げを判断する方針を維持したことからは、今後も四半期に1回のスタッフ見通し発表月に合わせて25bpの利下げを行う可能性が示唆される。その場合、預金ファシリティ金利は2024年末に3.25%、2025年末に2.25%に達する展開を想定する。
同時に発表されたECBスタッフによるユーロ圏の経済・物価見通しは、2024~26年の経済成長率がやや上方修正された一方、賃金やサービス物価の高止まりを背景に、2024~25年の米国型コア物価が僅かに上方修正された(図表2)。四半期毎のヘッドラインの物価見通しは、前回同様に2025年10~12月期に中期的な物価安定と定義される2%に上昇率が鈍化するが、2024年10~12月期から2025年7~9月期にかけては前回見通し対比でやや上方修正された(前掲図表1)。

なお、3月13日に発表した通り、ECBは9月18日から金融政策の運営枠組みを一部変更する。ECBの金融調整は従来、資金不足の市中銀行が中銀から借り入れる限界貸出ファシリティ金利を上限に、市中銀行が余剰資金を中銀預金に預け入れる預金ファシリティ金利を下限に、1週間物の定例オペの適用金利である主要リファイナンス金利を中心レートとし、その間に短期金利(かつてはEONIA、最近は€STR)を誘導する形で行われてきた(図表3)。2010年代に固定金利・全額供給方式の資金供給オペを開始して以降は、短期金利が預金ファシリティ金利に張り付く状況が続き、預金ファシリティ金利が主たる政策金利の役割を果たしてきた。2014年に預金ファシリティ金利をマイナス圏に引き下げ、その後マイナス金利の深掘りをした際も、主要リファイナンス金利をゼロ%に、限界貸出ファシリティ金利をプラス圏に維持した。その結果、それまで50bpだった下限金利と上限金利のスプレッド(コリドー)が75bpに拡大した。2022年7月に利上げを開始して以降、3本の政策金利を同じ幅で引き上げた結果、コリドーは75bpのまま維持されてきた。

今回の見直しでは、3本の政策金利とコリドーを維持したうえで、主要リファイナンス金利と預金ファシリティ金利のスプレッドを従来の50bpから15bpに縮小する。限界貸出ファシリティ金利と主要リファイナンス金利のスプレッドは25bpに維持することから、コリドーは従来の75bpから40bpに縮小する。欧州債務危機以降のECBは、度重なる危機対応や量的緩和を強化する過程で、大量の余剰流動性を供給してきた。その後、債務危機時の市場安定化を目的とした国債購入措置が終了、様々な流動性供給オペが打ち切られ、新規の資産買い入れが終了し、満期を迎えた保有資産の再投資も年内には完全に停止される。余剰流動性の縮小が本格化するのを前に、資金需要が逼迫し、金利が急騰するリスクを防ぐため、主要リファイナンス金利の水準を引き下げ、市中銀行が必要な資金を確保しやすくする狙いがある。
田中 理
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