インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国の激烈な受験競争(SKY)は韓国中銀の利下げを阻むか?

~不動産価格上昇や家計債務増大の背後にある受験競争は政策運営の舵取りを難しいものに~

西濵 徹

要旨
  • 韓国では急速な少子高齢化など構造問題を抱えるなか、内・外需双方に不透明要因が山積するなかで足下の景気は頭打ちの様相を強めている。中銀の悩みの種となってきたインフレは頭打ちするとともに、ウォン安圧力も後退するなど、利下げに向けた環境は整いつつある。中銀は先月の定例会合で将来的な利下げに含みを持たせる一方、足下では首都ソウルを中心とする不動産価格の底入れやそれに伴う家計債務の増大を警戒する姿勢をみせた。中銀は先月末に公表した提言で激烈な受験競争が経済の悪循環を招く元凶になっていると指摘し、入試改革を要求する動きをみせる。足下では首都ソウル、なかでも江南区を中心に不動産価格は底入れの動きを強めており、家計債務も拡大ペースが加速するなど金融リスクが高まる動きもみられる。景気の不透明要因は山積するが、中銀には難しい政策の舵取りを迫られる局面が続く。

韓国では、近年の社会経済格差の拡大に加えてコロナ禍を経た生活様式の変化の動きも重なり、昨年の合計特殊出生率は0.72と8年連続で過去最低を更新する展開が続いており、急速な少子高齢化という構造問題に直面している。さらに、ここ数年は最大の輸出相手である中国との関係のほか、北朝鮮を巡る地政学リスクといった外部環境を巡る不透明さに加え、国内では商品高やコロナ禍一巡による経済活動の正常化、通貨ウォン安による輸入インフレも重なりインフレが大きく上振れしたため、中銀は累計300bpもの利上げに動いており、物価高と金利高の共存が内需の足かせとなる状況が続いている。このように内・外需双方に不透明要因が高まっていることを受けて、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.91%(改定値)と6四半期ぶりのマイナス成長に陥っており、景気の躓きが確認されるなど厳しい状況に見舞われている(注1)。他方、インフレ昂進の一因となった商品高の動きが一巡していることに加え、中銀の引き締め政策が長期化していることも重なり、一昨年半ばに一時23年半ぶりの水準に昂進したインフレはその後に頭打ちに転じている。そして、上述のように足下の景気は頭打ちの動きを強めているほか、金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げを織り込む形で米ドル安が進んでウォン相場が底打ちに転じていることも重なり、先月(8月)のインフレ率は前年比+2.0%と一段と鈍化して3年半弱ぶりに中銀目標(2%)に達するなど落ち着きを取り戻している。なお、中銀は先月に開催した定例会合において政策金利を13会合連続で3.50%に据え置く決定を行っており、将来的な利下げ実施を示唆する一方、足下では高金利が長期化しているにも拘らず首都ソウル周辺を中心に不動産価格が底入れするとともに、そうした動きに呼応する形で家計債務が増大ペースを加速させるなど金融市場を巡るリスクを警戒する姿勢を滲ませる動きをみせた(注2)。金融市場においては、足下の景気が頭打ちの動きを強めるとともに、インフレ鈍化が確認されているほか、中銀にとって悩みの種となってきたウォン安圧力が後退していることも重なり、中銀が早期に利下げに動くとの観測が強まっているものの、そのハードルは決して低くないのが実情と考えられる。こうしたなか、先月末に中銀はある提言を公表しており、そのなかでは韓国特有の激烈な受験競争が急速な少子高齢化や首都ソウルへの一極集中を通じて経済の悪循環を招く元凶になっているとして、入試改革を求める内容となっている。受験競争を巡っては、2018年に韓国で放送された名門大学(ソウル大、高麗大、延世大(これらの大学の頭文字を捩った「SKY」))を目指す熾烈な競争を描いたドラマに示されるように、居住する地域が進学率に影響を与えるとされるなど不動産価格の高騰を招く一因になっているとされる。事実、足下では首都ソウルを中心に不動産価格の底入れの動きが進んでいる上、なかでも高級住宅地が集中する江南区がその動きをけん引する動きが確認されている。さらに、こうした動きを反映して先月末時点における家計債務残高は拡大ペースが加速しており、当局が今月から不動産ローンを対象とする融資規則の厳格化に動いており、駆け込み的な動きが影響している可能性も考えられる。金利高の長期化が内需の足かせとなる展開も予想されるなか、外需にも不透明感が高まっているにも拘らず、中銀にとっては難しい政策の舵取りを迫られる局面が続くことは避けられそうにない。

図1 インフレ率の推移
図1 インフレ率の推移

図2 ウォン相場(対ドル)の推移
図2 ウォン相場(対ドル)の推移

図3 不動産価格の推移
図3 不動産価格の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ