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2024.09.05
アジア経済
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為替
マレーシア中銀、リンギ相場は大幅上昇も様子見姿勢を維持せざるを得ず
~リンギ高で輸入インフレ懸念後退も、補助金政策や異常気象などインフレ要因は依然くすぶる展開~
西濵 徹
- 要旨
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- マレーシア中銀は5日の定例会合において政策金利を8会合連続で3.00%に据え置いた。コロナ禍後のマレーシアはインフレに直面したため、中銀は累計125bpの利上げを実施した。商品高の一巡を受けて昨年以降のインフレは頭打ちに転じたものの、米ドル高を受けた通貨リンギ安がインフレを招く懸念がくすぶり、中銀は為替介入による時間稼ぎを迫られる展開が続いた。しかし、足下では米FRBの利下げを織り込んだ米ドル安を受けてリンギ相場は底入れの動きを強めている。他方、足下の景気は堅調な推移が続くなか、補助金政策の見直しや異常気象によるインフレ懸念がくすぶり、中銀は引き締め姿勢を維持せざるを得ない状況にある。金融市場ではリンギ相場の底入れで中銀が早晩利下げに動くとの観測が高まるが、当面は様子見姿勢を維持せざるを得ず、リンギ相場も急上昇を受けて方向感の乏しい展開が続くであろう。
マレーシア中銀は、5日に開催した定例の金融政策委員会において政策金利を8会合連続で3.00%に据え置く決定を行った。ここ数年の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)による断続利上げやその後も引き締め姿勢を維持し、こうした動きを反映して米ドル高圧力が強まる展開が続いてきた。マレーシアにおいては、IMF(国際通貨基金)が公表した国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す基準となる外貨準備高のARA(適正水準評価)について、「適正水準(100~150%)」を下回ると試算されるなど耐性が乏しいと判断される状況にある。こうした経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さに加え、マレーシア経済は構造面で外需依存度が極めて高く、中国の景気減速懸念の高まりが景気の足かせとなる度合いが高いなど、景気に対する不透明感が意識されやすい展開が続いてきた。よって、今年2月にはマレーシアの通貨リンギの対ドル相場はアジア通貨危機以来となる安値を更新するなど、自国通貨安による輸入インフレが警戒される事態に直面した(注1)。他方、コロナ禍後のマレーシアでは経済活動の正常化に加え、商品高とリンギ安による輸入インフレも重なりインフレが上振れする事態に見舞われたため、中銀は物価と為替の安定を目的に125bpの利上げを実施してきた。なお、商品高の一巡により昨年以降のインフレは頭打ちに転じたものの、上述のようにリンギ安が進むなかで中銀は引き締め姿勢を維持せざるを得ない状況が続くとともに、年明け以降のインフレ率は再び底打ちするなど再加速が懸念されてきた。さらに、中銀はリンギ安を受けて通貨防衛のための利上げに動くこともできず、為替介入による『時間稼ぎ』に頼らざるを得ない難しい対応を迫られる展開が続いてきた(注2)。しかし、先月以降のリンギ相場は米FRBが利下げに動くとの見方を反映して一転して米ドル安の動きが強まるなかで底入れの動きを強めており、足下においてはリンギ安が懸念される状況は大きく後退している。さらに、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+12.06%と大幅に拡大するなど、足下の景気は堅調な推移をみせていることが確認されている(注3)。他方、アンワル政権は財政健全化を目的として6月に全土で一律に設定するディーゼル燃料(軽油)を対象とする補助金制度の見直しに動いており、先行きはエネルギー価格の上昇が避けられないほか、異常気象を理由とする農業生産の低迷が食料インフレを招くなど、生活必需品を中心にインフレが懸念される状況が続いている。よって、中銀にとっては金融政策を巡る頭痛の種となってきたリンギ安の懸念は大きく後退しているものの、現時点においては引き締め姿勢を維持せざるを得ない状況にあると捉えられる。中銀が会合後に公表した声明文では、同国経済について「堅調な家計消費と輸出がけん引役になっている」との見方を示した上で、先行きについて「輸出は世界的な半導体需要に押し上げられ、外国人観光客の底入れも期待され、雇用改善の動きは家計消費を下支えし、公共投資の進捗は投資を下支えする」との見通しを示している。一方で、「輸出と生産活動を巡る下振れリスクに晒されている」としつつ、「世界的なハイテク製品に対する需要や外国人来訪者数の拡大、公共投資の進捗促進に拠る上振れリスクもある」との認識を示している。また、物価動向については「補助金政策変更に伴う物価への影響は政府が実施した企業部門に対するコスト抑制策により抑えられている」としつつ、「インフレ率が3%を上回る可能性は低いが、インフレ見通しは引き続き政策運営の影響を受ける」として「補助金政策や価格統制の影響や商品市況や金融市場の動向が上振れリスクになる」との見方を示している。そして、足下のリンギ相場を巡って「足下の回復は主要国、とりわけ米国の金融政策とマレーシア経済の好調さが促している」との見方を示した上で、「先行きも景気見通しや構造改革、資金流入促進策を反映して永続的な上昇が見込まれる」と好感している様子がうかがえる。政策運営については「現行の金利水準は引き続き景気を下支えするとともに、物価と景気見通しと整合的」とした上で、「来年に向けて景気とインフレの安定を図るべく足下の動きを注視しつつ、物価安定と持続可能な経済成長を目指す」との従来からの考えをあらためて示している。金融市場においてはリンギ相場の底入れも追い風に中銀が早晩利下げに動くとの見方が広がりをみせているが、同国経済を巡っては外需依存度が極めて高いなかで不透明感が強まる兆しがみられるなか、当面は様子見姿勢を維持せざるを得ない展開が続くものと予想される。さらに、リンギ相場は過去1ヶ月ほどの上昇が急激に進んだこともあり、当面は上下双方に方向感を欠く展開が続くと見込まれる。


注1 2月29日付レポート「なぜマレーシアリンギ相場はアジア通貨危機以来の安値を更新したか」
注2 7月11日付レポート「マレーシア中銀、リンギ安に為替介入による「時間稼ぎ」に頼る展開」
注3 8月16日付レポート「マレーシア、景気とリンギ相場の堅調さを確認も、先行きはどうなる」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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