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- 旧東ドイツの州議会選挙で反体制派が躍進
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- 旧東ドイツ2州の州議会選挙は反移民を掲げる極右政党と新興左派政党の反体制派2党が躍進、連邦政府を率いる連立3党の支持が低迷した。主要政党は極右政党との連立に否定的で、来年秋の連邦議会選挙で政権奪還を目指す保守政党が新興左派政党と組んで州政府を運営する可能性が高い。新興左派の政権入りと極右の排除は、極右支持層をさらに勢いづかせる恐れもある。
1日に旧東ドイツのチューリンゲン州とザクセン州で行われた州議会選挙では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と新興左派政党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」の反移民を掲げる2つの反体制派政党が躍進し、連邦政府を率いる中道左派の「社会民主党(SPD)」、環境政党「緑の党(Grüne)」、リベラル政党「自由民主党(FDP)」の得票率が揃って低迷した。来年秋の連邦議会選挙で政権奪還を目指す中道右派政党「キリスト教民主同盟(CDU)」は、2019年の前回選挙並みの得票率を維持。旧東ドイツの支配政党の流れを汲む左派政党「左翼党(Linke)」は、BSWやAfDに支持を奪われる形で苦戦が目立った。
現地メディアの開票速報によれば、AfDはチューリンゲン州で33.2%の票を獲得し、CDUの23.6%を上回った(図表1)。極右政党が州議会の最大勢力となるのは、第二次世界大戦後のドイツで初。BSWが15.8%で三番手につけた。SPDは6.1%で議席獲得に必要な5%を辛うじて上回ったが、緑の党とFDPは5%に届かなかった。これまで州政府を率いてきた左翼党は、BSWやAfDに支持を奪われ、13.1%で四番手に沈んだ。ザクセン州では、CDUが31.9%で辛うじて首位を守ったが、AfDが30.6%の票を獲得、BSWが11.8%で三番手につけた(図表2)。SPDが7.3%、緑の党が5.1%で議席を死守したが、FDPが議席を獲得できなかった。
8月23日にはゾーリンゲンの音楽祭で、難民申請を拒否された26歳のシリアからの庇護希望者がナイフで3人を殺害し、6人に怪我を負わせる事件が発生。容疑者はイスラム過激思想の持ち主とされ、IS(イスラム国)はイスラエルのハマスへの攻撃を支持するドイツへの報復措置であるとの犯行声明を発表した。事件の発生を受け、ショルツ首相が率いる連立政権は29日、①祭り、スポーツイベント、長距離電車、長距離バスなどでナイフを所持することを禁止する、②イスラム過激派のテロ防止を目的に、警察や治安当局が個人の生体認証データにアクセスすること認める、③他の欧州諸国が送還を決めた庇護希望者に対する公的支援を打ち切る、④犯罪を行なった外国人の強制送還を容易にするなど、治安維持や移民・難民規制の強化策を発表した。また、投開票直前の30日にも、ドイツ国籍の32歳がバスの車内で6人を刺す事件や、選挙キャンペーン中のBSW党首がペンキを吹き付けられる事件が発生。これらはテロ事件ではなかったが、治安対策の強化を求める声が広がっている。相次ぐ暴力事件は、ショルツ政権の移民・難民政策の失敗を有権者に印象づけ、移民規制の強化を訴えるAfDやBSWの追い風となった。
旧東ドイツ地域では、東西ドイツ統一から30年以上が経過した現在も、旧西ドイツ地域との格差が残り、ドイツの繁栄から取り残されたと感じる有権者が少なくない。AfDはこうした有権者の不満の声を汲み取り、支持拡大につなげている。BSWは左翼党を代表する政治家で、テレビ露出も多かったワーゲンクネヒト氏が今年1月に結党した新興左派政党で、左翼党の政策メニューの多くを引き継ぎつつ、移民規制の強化を訴える点で異なる。移民規制の強化を求めるが、AfDに投票しない左派層の支持を集めている。両党は、反体制、EU懐疑的、反移民、親ロシア、ウクライナ支援に消極的な点で共通点を持つ。 主要政党はAfDとの連立や閣外協力に否定的で、州政府レベルでのAfDの政権奪取や政権入りは今回も阻まれそうだ。だが、AfDの排除は投票結果が蔑ろにされたと感じる同党の有権者をかえって勢いづかせる可能性もある。チューリンゲン州ではCDUがBSWや左翼党と、ザクセン州ではCDUがBSWやSPDと協力して州政府を運営する可能性が高いが、両州で30%以上の票を獲得したAfDを排除する形での連立協議は困難を極めよう。22日には旧東ドイツのブランデンブルク州でも州議会選挙を控えており、事前の世論調査では、AfDが24%で最多の支持を集め、SPDとCDUが二番手の座を争っている(図表3)。同州を現在率いるSPDが州政府運営の座を明け渡せば、ショルツ首相にとって新たな政治的打撃となる
連邦レベルの世論調査では、CDUとその姉妹政党でバイエルン州で活動するキリスト教社会同盟(CSU)が30%以上の支持を集め、首位を走る(前掲図表3)。チューリンゲン州やザクセン州の州議会運営でのBSWとの連立が機能すれば、連邦レベルでもCDU/CSUとBSWとの連立の可能性が浮上してくる。BSWはAfDに比べて反EU・反体制色がやや薄まるが、左翼党の反米・反NATOのDNAを受け継いでおり、ウクライナ支援への影響も懸念される。BSWが政権に参加する場合、行き場を失った反体制票がAfDに流れるかに注目が集まる。BSWはAfDとの協力の可能性を今のところ否定しているが、CDU/CSUとの連立協議が物別れに終わった場合、両党が接近する可能性もある。イデオロギー上は左右両極に位置する両党だが、幾つかの政策分野では共通項を持つ。ただ、両党が一段と支持を拡大しない限り、政権発足に必要な安定過半数の確保は難しい。



田中 理
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