インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国景気は需給双方で不透明感が一段と強まる様相をみせる

~内・外需双方に不透明さ、当局の対応も小出しの動きが続くなど見通しが立ちにくい展開を予想~

西濵 徹

要旨
  • このところの中国経済は内需が力強さを欠くなかで外需への依存を強めるが、「中国包囲網」の動きが外需の足かせとなる懸念が高まっている。足下の外需は駆け込みの動きが確認されるが、7月の鉱工業生産は前年比+5.1%と鈍化し、頭打ちの様相を強めている。当局が支援するハイテク関連の生産は堅調だが、不動産需要の弱さが軒並み関連財の生産を下押しするなど、内需の厳しさを反映する動きがみられる。
  • 家計消費を裏打ちする7月の小売売上高は前年比+2.7%と伸びが加速したが、依然として力強さを欠く推移が続く。夏休みシーズンの影響で娯楽関連やスマホなどの需要が拡大する動きをみせる一方、不動産需要の低迷や家計部門の財布の紐の固さを反映して高額品や日用品など幅広い分野で需要は弱含んでいる。価格競争の動きも激化するなどディスインフレ圧力の根強さを示唆する動きも確認されている。
  • 7月の固定資産投資は年初来前年比+3.6%、前年同月比でも+1.9%と伸びが鈍化するなど頭打ちの動きを強めている。設備投資の動きは国進民退色の動きを強めており、当局が進める中国式現代化の動きを反映している。一方、不動産投資は一段と鈍化している上、当局の支援にも拘らず不動産価格も下落に歯止めが掛からず、不動産市場を巡る環境は一層悪化して幅広い経済活動の足かせとなる状況が続く。
  • 当局による不動産支援や金融緩和にも拘らず資金需要は低迷しており、金融市場では一段の支援を求める声が高まると予想される。しかし、事態の深刻さに対して当局の対応が小出しに留まると見込まれるなか、当面の中国景気は需要サイドのみならず、供給サイドにも不透明感が増す可能性が高まっている。

このところの中国経済を巡っては、若年層を中心とする雇用不安や不動産市況の低迷などを理由に幅広く内需が力強さを欠くなか、外需への依存度を強める動きをみせてきたものの、欧米などは中国の過剰生産能力を受けた供給拡大の動きが世界的な需給環境の混乱を招くことへの警戒感を強めている。米国は通商法301条に基づく対中追加関税を米国経済や安全保障上の観点で重視する分野で強化したほか、EU(欧州連合)も中国製EVへの追加関税を課す動きをみせている。このように外需を取り巻く環境は厳しさを増すなか、足下では欧米のみならず、トルコやインドネシアといった新興国のなかにも中国製品を対象とする関税引き上げをはじめとする貿易障壁の導入を進める動きもみられるなか、7月の貿易統計では世界的な中国製品に対する警戒の動きを掻い潜るべく『駆け込み』を目指した動きが顕在化している様子がうかがえる(注1)。こうした動きにも拘らず、7月の鉱工業生産は前年同月比+5.1%と前月(同+5.3%)から鈍化して4ヶ月ぶりの伸びとなるなど、足下の景気は頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。前月比は+0.35%と前月(同+0.42%)からペースこそ鈍化するも4ヶ月連続で拡大しており、依然として供給サイドをけん引役にした景気底入れの動きが続いていると捉えられる。分野別では、ハイテク関連(前年比+10.0%)をけん引役に製造業(同+5.3%)の生産は底堅く推移しており、鉱業(同+4.6%)の生産も底入れの動きが確認されるなど、幅広く生産活動が堅調さを維持している様子がうかがえる。財別の生産の動きも、欧米が中国の過剰生産を警戒する電気自動車(前年比+27.8%)のほか、発電装置(同+86.0%)も大きく上振れする展開が続いている。さらに、米国の半導体規制強化策を警戒するなかで内製化の動きを活発化させる集積回路(同+26.9%)のほか、これらの生産に必要な産業用ロボット(同+19.7%)の生産も高い伸びが続いている。他方、不動産需要の低迷による需要下振れの動きが重石となる形で粗鋼(前年比▲9.0%)や銑鉄(同▲8.0%)、鋼材(同▲4.0%)の生産は軒並み前年を下回るとともに、セメント(同▲12.4%)や板ガラス(同▲0.7%)の生産も弱含む動きが確認されるなど、関連業界を取り巻く環境は一段と厳しさを増していると捉えられる。

図表
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一方で家計消費の動きを反映する小売売上高(社会消費支出)は鉱工業生産を下回る伸びで推移するなど力強さを欠く動きが続いているものの、7月は前年同月比+2.7%と前月(同+2.0%)から伸びが加速しており、生産の伸びが頭打ちに転じたのと対照的な動きをみせている。前月比も+0.35%と前月(同▲0.10%)から2ヶ月ぶりの拡大に転じるなど底入れの動きが確認されているものの、依然として力強さの乏しい展開が続いている。夏休みシーズンが重なった影響で観光関連をはじめとするサービス需要が押し上げられたことを反映して、スポーツ・娯楽関連(前年比+10.7%)で大幅に伸びが加速する動きがみられるほか、新型スマートフォンの発売の動きも影響して通信機器(同+12.7%)の伸びも底入れの動きを強めている。また、食料品(前年比+9.9%)や飲料品(同+6.1%)といった生活必需品への需要も比較的堅調に推移している。一方、不動産需要の弱さを反映して建材(前年比▲2.1%)や家具(同▲1.1%)に需要が下振れしているほか、耐久消費財に対する需要の弱さに加え、価格競争が激化していることも重なり自動車(同▲4.9%)も一段と下振れする動きをみせており、宝飾品(同▲10.4%)も弱含むなど高額品に対する需要は力強さを欠いている。さらに、6月と8月に大手EC(電子商取引)サイトがセールを実施する端境期に当たることも影響して、化粧品(前年比▲6.1%)や衣類(同▲5.2%)、家電製品(同▲2.4%)などECと親和性が高い財に対する需要も下振れしており、雇用不安を背景とする家計部門の財布の紐の固さを反映している。その意味では、ディスインフレ基調の根強さを映す動きと捉えられる(注2)。

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なお、当局は国営企業を中心とする設備投資需要や公共投資を下支えしている一方、不動産投資の低迷が固定資産投資全体の重石となる動きがみられるなか、7月の固定資産投資は年初来前年比+3.6%と前月(同+3.9%)から一段と伸びが鈍化している。当研究所が試算した単月ベースの前年同月比の伸びも7月は+1.9%と前月(同+3.7%)から大きく鈍化して9ヶ月ぶりの伸びに留まるなど、頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。前月比も▲0.17%と前月(同+0.56%)から2ヶ月ぶりの減少に転じ、一進一退の動きを強めるなど勢いの乏しい動きが続いている。実施主体別では、国有企業(年初来前年比+6.3%)で高い伸びが続く一方、民間投資(同+0.0%)は全体を下回る伸びで推移しており、投資活動を巡っても国進民退が進む流れは変わっていないほか、投資対象も設備投資関連(同+17.0%)で高い伸びが続く一方で建設投資(同+3.6%)と対照的な動きをみせており、習近平指導部が主導する「新質生産力」や「高質量発展」を通じた「中国式現代化」の実現に向けた動きが影響を与えているとみられる。他方、不動産需要の弱さが重石となる形で7月の不動産投資は年初来前年比▲10.2%と前月(同▲10.1%)からマイナス幅が拡大しており、単月ベースの前年同月比でも7月は▲10.6%と前月(同▲10.1%)からマイナス幅が拡大するなど一段と頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。なお、当局が5月に公表した不動産需要喚起策の動きを反映して、不動産景況感も7月は92.22と前月(92.10)から上昇するなど底入れしているものの、7月の主要70都市における新築住宅価格は前月比▲0.7%と13ヶ月連続で下落しており、9割以上に上る66都市において下落が確認されるなど調整の動きに歯止めが掛からない状況が続いている。中古住宅に至っては70都市のうち67都市で前月比が下落する動きが確認されており、地方政府による不動産在庫の買い取りなどをはじめとする市況下支えに向けた取り組みのほか、先月には中銀(中国人民銀行)が金融緩和に舵を切るなどの動きをみせているにも拘らず、不動産市場を取り巻く環境は一段と厳しさを増している。金融市場においては一段の対策を求める動きがみられるものの、事態の深刻さに対して当局は小出しの対応を続けていることを勘案すれば(注3)、状況が大きく好転するとは見通しにくい展開が続くであろう。

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こうした背景には、当局による不動産市場の下支え策や中銀による金融緩和にも拘らず、7月の新規人民元建融資額が2,600億元と前月から約9割減少するとともに、15年ぶりの低水準となるなど資金需要の弱さが明らかになっていることにも現れている。不動産市況の低迷長期化によるバランスシート調整圧力の強まりに加え、若年層を中心とする雇用不安も重なる形で企業、家計ともにマインドが弱含みしやすい状況が続いており、金融緩和にも拘らず資金需要が活発化しにくい状況にあると捉えられる。金融市場では一段の金融緩和を見込む向きが強まっている一方、当局は資金流出による人民元安を警戒して小出しの対応を続けており、今後も慎重な対応を維持する可能性が高いと見込まれる。先行きの中国景気を巡っては、内・外需双方で需要サイドに不透明感がくすぶるとともに、供給サイドについてもそうした動きが足かせとなる可能性が高まっている。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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