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2024.07.09
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インドネシアルピア相場の底入れは本格化するか
~米ドル高一服以外の材料なし、プラボウォ次期政権の財政運営や次期財務相人事など懸念は山積~
西濵 徹
- 要旨
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- 国際金融市場での米ドル高やプラボウォ次期政権の財政運営に対する懸念を理由にインドネシアの通貨ルピア相場は調整したが、米ドル高一服を受けて底打ちしている。インドネシア中銀は通貨防衛を理由に利上げを迫られたが、そうした状況は変化しつつあるようにみえる。しかし、プラボウォ次期政権の財政運営への懸念は山積する上、ジョコ現政権の財政運営を担ったスリ=ムルヤニ財務相の処遇や後任の財務相人事の行方もルピア安を揺すぶる懸念がある。中銀のペリー総裁はルピア安の一服を受けて年内利下げの可能性に言及する動きをみせるが、当面は為替の安定に留意せざるを得ない状況は変わらない。足下のインフレは中銀目標の域内で推移しているが、先行きはラニーニャ現象など異常気象を理由とする食料インフレ再燃の懸念もくすぶり、現時点でルピア相場の行方を楽観視するのは些か早計と捉えられる。
国際金融市場における米ドル高の動きに加え、今年2月に実施された大統領選において勝利したプラボウォ氏(現国防相)が率いる次期政権による財政運営に対する懸念も相俟ってインドネシアの通貨ルピア相場は調整の動きを強めてきたものの(注1)、その後は米ドル高の動きが後退していることを反映して底打ちに転じている。ここ数年のインドネシアでは、商品高やコロナ禍一巡による経済活動の正常化の動きに加え、ルピア安による輸入インフレも重なりインフレ率が大きく上振れする事態に直面し、中銀は物価と為替の安定を目的とする断続利上げに動いてきた。一昨年末以降はインフレが頭打ちに転じるとともに、昨年半ば以降のインフレ率は中銀目標の域内で推移するなど落ち着きを取り戻しているが、米ドル高の再燃によるルピア安が輸入インフレ懸念を理由に中銀は昨年10月や今年4月にも通貨防衛を目的とする再利上げに追い込まれるなど難しい対応を迫られた(注2)。しかし、上述したように足下では米ドル高の動きが後退していることを反映してルピア相場は底打ちしているものの、このところのルピア相場が周辺のアジア通貨と比較しても調整の動きをつよめてきた状況が大きく好転している訳ではない。プラボウォ氏は大統領選で8項目の政権公約を掲げており、そのなかには学校給食の無償化、妊婦や幼児を対象とする食料支援や社会福祉の拡充、公務員給与の引き上げ、低所得者を対象とする現金給付や住宅建設など、歳出拡大に繋がる内容が多く盛り込まれている。その上、プラボウォ氏はジョコ現政権が推進する新首都(ヌサンタラ)の開発のほか、インフラ投資拡充の方針を継続するとしており、これらの動きも歳出を押し上げることが予想される。さらに、ここ数年の同国経済は平均で5%程度の経済成長を実現してきたものの、プラボウォ氏は次期政権の下ではこの水準を8%程度まで3pt程度押し上げるとの考えを示しており、目標実現に向けて財政支出が大幅に拡大する可能性も懸念される。なお、プラボウォ次期政権を支える与党連合のうち第1党となるゴルカル党党首として重要閣僚での登用が見込まれるハルタルト氏(現経済担当調整相)は、学校給食無償化に伴う予算措置が来年度予算で71兆ルピア(GDP比0.3%)に留まるとの見方を示すとともに、経済成長の実現も重なる形で財政規律(国家財政法で財政赤字はGDP比▲3%以内に規定)の維持を図るとの見方を示している。しかし、上述のように歳出拡大に繋がる動きが山積するとともに、新首都移転を巡ってはジョコ現政権内でも意見の不一致が露呈する動きがみられるほか、ジョコ現政権において財政運営の舵取りを担ってきたスリ=ムルヤニ氏(現財務相)の処遇が見通せないことも次期政権による財政運営を巡る不透明感に繋がっている。こうしたなか、スリ=ムルヤニ財務相は今年度の財政運営を巡って、商品市況の低迷による鉱業部門からの税収減に加え、ルピア安による燃料補助金や食糧支援の増加などに伴う歳出増も重なり財政赤字がGDP比▲2.7%(当初予定は同▲2.29%)に拡大する見通しを示している。なお、昨年度の財政赤字がGDP比▲1.65%と大幅に縮小したため、先行きの予算管理は昨年度の余剰分を取り崩すことで今年度分の債務増大を抑える考えを示しているものの、現政権内でプラボウォ氏とスリ=ムルヤニ氏は国防費を巡って対立してきたことを勘案すれば次期政権で留任する可能性は低いと見込まれる。こうしたなか、中銀は先月の定例会合においてルピア安にも拘らず静観する構えをみせるとともに、同行のペリー総裁は先行きの利下げの可能性に言及したものの(注3)、ペリー氏は8日の議会証言において足下のルピア相場の安定を理由に今年10-12月にも利下げ余地が生じる可能性があるとしつつ、当面は通貨安定を重視するとの発言を行っている。年明け以降のルピア安にも拘らずインフレ率は引き続き中銀目標の範囲内で推移するとともに、足下では食料品など生活必需品の物価下落の動きが確認される一方、先行きはラニーニャ現象による異常気象の頻発が農作物の生育に悪影響を与えるなど食料インフレの動きが再燃する可能性はくすぶる。そうしたなかで財政運営を巡るリスクが意識されることでルピア安圧力が強まる懸念に加え、米ドル高の動きが再燃すれば状況が一変する可能性にも引き続き注意を払う必要性があることは間違いないと言えよう。


注1 6月26日付レポート「なぜ足下のインドネシアルピアは調整の動きを強めているのか」
注2 4月24日付レポート「インドネシア中銀は「安定」を重視して6会合ぶりの利上げを決定」
注3 6月21日付レポート「インドネシア中銀、ルピア安も通貨防衛の利上げに動かず静観を維持」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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