7月1日の臨時改定でGDP成長率が下方修正か

~建設総合統計の大幅修正により23年後半以降のGDP成長率が下方修正へ~

新家 義貴

要旨
  • 7月1日にGDPの遡及改定が行われることが決まった。これは、GDPの基礎統計である建設総合統計の数値が大幅に遡及改定されたことを受けてのもの。これにより23年後半以降の成長率が下方修正される可能性が高い。また、21年度の成長率は上方修正されるとみられる。
  • 建設総合統計が大幅遡及改定となった理由は、①毎年6月に行われる定例の遡及改定(補正率の更新)、②基礎統計である「建設工事受注動態統計」の大規模訂正の二つ。このうち、①が21年度のGDP成長率上方修正要因、②が23年後半以降の成長率下方修正要因に。なお、①は毎年のことだが、②は異例。「地方公営企業」からの受注において一部の回答者の報告内容に誤りがあったことが影響。23年8月~24年3月までの累計での下方修正額は7,900億円もの大きさに。
  • 建設工事受注動態統計の大幅下方修正を受け、23年後半以降の建設総合統計も下方修正された。その結果、GDP成長率でも下方修正が行われる可能性が高い。これまで公共投資は増加傾向との評価だったが、改定後は減少基調となり、真逆の評価となる可能性大。
  • 現時点では23年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と微増だが、7月1日に実施される臨時改定においてマイナス成長に下方修正される可能性がある。この場合、23年7-9月期~24年1-3月期にかけて3四半期連続のマイナス成長に。また、成長率への影響がもっとも大きいのが24年1-3月期。現時点では24年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲1.8%だが、改定後はマイナス幅がさらに大きなものになる可能性が高い。また、成長率のゲタが低下することで、日銀や政府、民間シンクタンクの24年度の成長率見通しにも影響が出る可能性がある。
  • 臨時改定を決めた内閣府の機動的な対応は高く評価される。一方、国土交通省が建設工事受注動態統計や建設総合統計の大幅改定に関する詳細な説明を行っていないことは問題。情報提供の充実が強く求められる。

7月1日にGDPの改定値が急遽公表に

内閣府は、7月1日にGDPの遡及改定を行うことを発表した。元々予定されていた公表日以外に改定が行われることは極めて異例のことである。この改定により、23年後半以降の成長率が下方修正される可能性が高い(21年度の成長率は上方修正の公算大)。修正の理由は、GDPの基礎統計である建設総合統計の数値が大幅に遡及改定されたことである。以下、できるだけ簡単に解説する。

建設総合統計が大幅に遡及改定された理由は、①毎年6月に行われる定例の遡及改定(補正率の更新)、②基礎統計である「建設工事受注動態統計」の大規模訂正、の二つである。このうち、①が21年度のGDP成長率上方修正要因、②が23年後半以降の成長率下方修正要因である。特に②については、足元の景気判断に与える影響も大きいため注目される。

① 定例の遡及改定(補正率の更新)

このうち①については定例の改定である。建設総合統計は、建設工事受注動態統計などから得られる受注(着工)ベースの金額を、工事の進捗に合わせた月次の出来高に展開して推計されたものである。ただし、推計に際しては、建設工事受注動態統計の値をそのまま用いるのではなく、「補正率」を用いて修正したものが用いられる。決算データ等から得られた実績値と建設工事受注動態調査の乖離を補正率とし、これを用いて修正を行うのである。もっとも、決算データは公表が遅いため、足元の建設総合統計を作成する際に補正率の実績値を用いることができない。そのため、補正率の実績値が確定しない直近3年間においては、もっとも新しい補正率を用いて建設総合統計の推計を行っている。そして、毎年6 月(4月分公表時)に、確定した建設投資額の実績値から算出された最新の補正率を用いて、前年度から3年分を遡及改定することとなっている。毎年6月に、直近3年度分がレベルシフトするイメージである。

今回の①による改定では、建設総合統計の21年度~23年度分の水準が上方修正される形で影響が生じた。伸び率としては21年度の上方修正への影響が大きい(21、22、23年度は同じ補正率を乗じるため、22、23年度の成長率への影響は相対的に小さい)。内閣府は通常、この定例の遡及改定の影響については8月公表の4-6月期GDP(1次速報)で反映させるのだが、後述の②のインパクトが大きいことが予想されることから、合わせて前倒しで①の反映も行う模様である。この①の要因については、設備投資を中心として21年度のGDP成長率の上方修正要因になる可能性が高い。

②基礎統計である「建設工事受注動態統計」の大規模訂正

問題なのは②だ。前述のとおり建設工事受注動態統計は建設総合統計の基礎統計の一つである。だが、6月11日に公表された建設工事受注動態統計では、23年6月以降の数字が大幅に訂正されてしまった。「地方公営企業」からの受注において、一部の回答者の報告内容に誤りがあったことが判明したとのことだが、修正幅は極めて大きい(次項の図1)。23年8月~24年3月までの累計での下方修正額は7,900億円にのぼり、ここまでの訂正はちょっと記憶にない。建設工事受注統計が大幅下方修正されたことで、それを用いて推計されている建設総合統計も下方修正。さらにそれを基礎統計として推計されているGDPにも影響が及ぶという図式である。なお、今回は「地方公営企業」の修正であるため、影響が生じるのは公共投資となる。

この大規模訂正を受けた建設総合統計の修正状況を確認したものが次項の図2、3である。公共投資に相当する「公共」を見ると、23年9月以降に訂正前と訂正後の乖離が急拡大していることが分かる。特に24年1-3月期については、訂正前の値が伸びを急加速させていた一方で、訂正後の数値では大幅減少に転じており、方向からして真逆である。季節調整値(筆者試算)で見ても、訂正前では23年秋以降は上向きで、24年1-3月期に急増していた一方、訂正後には完全に下向きとなっている。これまで、公共投資は補正予算の効果が顕在化していることから増加傾向との評価が多かったが、そうした見方に完全に修正を迫られる内容である。

図1 地方公営企業からの受注工事
図1 地方公営企業からの受注工事

図2 建設総合統計(公共・前年比・%)
図2 建設総合統計(公共・前年比・%)

図3 建設総合統計(公共、季節調整値)
図3 建設総合統計(公共、季節調整値)

図2、図3
図2、図3

GDP速報段階の公共投資は、建設総合統計を主に用いて推計が行われている。そのため、今回の23年後半以降の建設総合統計の大幅下方改定は、同時期のGDP公共投資の下方修正に直結することになる。GDP成長率全体でも影響は免れないだろう。現時点では23年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.4%と微増だが、7月1日に実施される臨時改定においてマイナス成長に下方修正される可能性がある。この場合、23年7-9月期~24年1-3月期にかけて3四半期連続のマイナス成長ということになるだろう。また、成長率への影響がもっとも大きいのが24年1-3月期である。同期の実質公共投資は前期比+3.0%と大幅に増加していたが、これがマイナスへと大幅下方修正されることが予想され、GDP成長率への影響も相応に出る。現時点では24年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲1.8%だが、改定後はよりマイナス幅が大きなものになる可能性が高い。景気の現状認識についても再考を迫られるかもしれない。

なお、この改定で23年度の成長率に影響が出るだけでなく、24年度の経済見通しに影響が生じる可能性がある。仮に23年度後半にかけて成長率が下方修正される場合、24年度への成長率のゲタが低下することで、24年度の成長率見通しも下方修正されやすくなる。日銀展望レポートでの24年度成長率見通しや、政府の経済見通しに影響が及ぶ可能性があるため注意が必要だろう。

求められる情報提供の充実

内閣府は今回、建設総合統計の大幅改定(建設工事受注動態統計の大規模訂正)を受け、急遽臨時の改定を行うことを決めた。8月15日に公表される24年4-6月期の1次速報公表時にまとめて遡及改定するという選択肢もあったと思われるが、その場合、実態と異なる数字が1ヶ月半以上放置されることになり好ましくないという判断だろう。元々予定されていた公表日以外に改定が行われることは極めて異例だが、前倒しで対応を行うことを決めたことは英断と思われる。今回の機動的な対応は高く評価されるべきだろう。

一方、建設総合統計及び建設工事受注動態統計を作成している国土交通省については、情報提供の充実が強く求められる。今回これだけの大幅改定があったにもかかわらず、HP等での情報提供は極めて限られており、筆者も状況を把握することが非常に難しかった。単に数値を修正すればそれで良いというものではない。修正の理由や意味するところ、その影響度合い等について、ユーザーに丁寧に説明することが統計メーカーとしての責務だろう。建設総合統計や建設工事受注動態統計はGDPの推計にも用いられる重要な統計である。今後、情報提供の拡充を強く求めたい。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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