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8月の利下げ開始に傾くBOE

~英国紳士は利下げの示唆も回りくどい~

田中 理

要旨
  • BOEは6月のMPCで、前回同様に7対2の賛成多数で政策金利を据え置いた。据え置きを主張した中立派の委員は、5月の消費者物価がBOEの想定対比でやや上振れしたが、インフレ率の低下基調に変化がないとの認識を示した。また、声明文には、8月に利下げの是非を詳細に検討することを示唆する文言が付け加えられた。今回のMPCを最後に退任するブロートベント副総裁の後任となるロンバルデリ氏は、前任者寄りもややタカ派寄りとみられるが、同じ中立派に属すると考えられる。今回利下げを主張したハト派の2名に加えて、中立派の4名のうち3名が利下げに転向すれば、賛成多数で利下げが決まる。8月のMPCで0.25%の利下げが決定される可能性が高い。

英イングランド銀行(BOE)は20日、前日に終わった政策委員会(MPC)の結果を発表し、5月の前回会合同様に政策金利を5.25%に据え置くことを賛成7・反対2の賛成多数で決定した。インフレの持続性や利下げを正当化するために必要なデータの蓄積度合いを巡って、政策委員内の意見が割れている。

据え置きに投票した委員のうち、タカ派寄りのマン委員、ハスケル委員、グリーン委員は、サービス物価と賃金が高止まりし、BOEの想定対比で上振れしており、二次的効果が基調的なインフレ率に持続的な上昇圧力をもたらしていると指摘した模様。また、5月の消費者物価が2%に復帰したことは歓迎すべきことだが、物価目標への持続的な回復を示唆するものではないとの認識を示した。8月のMPCまでに入手可能な物価関連データは1ヶ月分のみで、これらの政策委員にとっては、次回会合の時点でインフレ率の持続的な低下の証拠が得られる可能性は低い。

ベイリー総裁、ブロードベント副総裁、ピル委員、ブリーデン委員とみられる中立的な据え置き派は、5月の物価がBOEの想定対比でやや上振れしたのは、年に1回の価格変更タイミングの費目や月毎の変動が大きい宿泊費などによるもので、最近のディスインフレ軌道を大きく変えるものではないと判断している。また、様々な賃金指標から得られる包括的な賃上げの基調は緩和傾向にあり、ヘッドラインのインフレ率の低下により、労働者の賃上げ要求や期待インフレ率が低下する可能性があるとの認識を示した。こうしたメンバーは、データが許せば8月にも利下げを開始する方針とみられる。

ハト派のディングラ委員とラムスデン委員は、前回同様に、政策変更が波及するまでのタイムラグを考慮し、円滑且つ漸進的な政策スタンスの変更を可能にするためには、今すぐにも利下げを開始する必要があると主張した。需要見通しが弱く、賃金の伸び率も鈍化していることから、インフレ率は2%の目標を中期的に下振れするリスクがあると指摘している。

声明文は「インフレ率を持続的に2%目標に戻すため、経済データによって正当化される場合に金融政策を調整する準備がある」、「労働市場の引き締め度合い、賃金やサービス物価の上昇率など、持続的なインフレ圧力と経済全体の復元力を示す指標を引き続き注意深く観察する」、「こうした点に基づき、現在の政策金利の水準をいつまで維持すべきかを検討する」と前回の内容を踏襲したが、「8月の見通し修正作業(四半期に1回の金融政策レポートの発表月)の一環で、政策委員は入手可能な全ての情報を考慮に入れ、これらがインフレの持続性に対するリスクが後退しているとの評価にどのように影響するかを検討する」との文言が追加された。このことは8月に利下げの是非を詳細に検討することを意味し、中立派の一部が利下げに傾いている様子が窺える。

今回利下げを主張したハト派の2名に加えて、中立派とみられる4名のうち3名が利下げ支持に回れば、賛成多数で利下げが決まる。中立派の発言トーンや声明文の文言追加からは、利下げ開始が近づいていることが示唆される。サービス物価や賃金の持続的な上振れを示唆するデータが発表されない限り、8月のMPCで0.25%の利下げが開始される可能性が高い。今後の経済データや7月4日の総選挙の結果、選挙後に活発化するとみられるBOE高官のコミュニケーションに注目が集まる。サービス物価や賃金の高止まりが続いていることから、利下げ開始後は四半期に1回程度の緩やかな利下げペースが想定される。

なお、中立派とみられるブロートベント副総裁が今回のMPCを最後に退任し、8月のMPCからは、BOE、英財務省、キャメロン首相やスナク財務相(何れも当時)などのアドバイザーを経て、現在OECDのチーフエコノミストを務めるロンバルデリ氏が後任として副総裁に就任する。同氏は最近「でこぼこはあるが、インフレ率が低下方向にある」と発言しており、前任者よりもややタカ派寄りとみられるが、中立派に属するものと考えられる。仮に同氏が利下げを支持しなかった場合も、残り3名の中立派の立ち位置は近く、利下げ開始の障害とはならなそうだ。また、タカ派のハスケル委員が8月のMPCを最後に退任するが、同氏の後任はまだ決まっていない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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