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資産運用のキホン ~その1:NISA、コロナ禍をきっかけに増加しつつある日本人の資産運用~

嶌峰 義清

要旨
  • 2014年にスタートしたNISA(少額投資非課税制度)は、貯蓄に偏重していた日本の個人金融資産を、成長資金の供給拡大を促しつつ、家計の安定的な資産形成をさらに推し進めていくために、有価証券への投資に向かわせることが目的で、税制優遇措置もあって順調に拡大した。

  • NISAの口座開設数は、2020年度から増加ペースが加速した。これは、コロナ禍により個人の資産運用に対する関心が高まったことが挙げられる。さらに、24年度からスタートした新NISAによって旧NISA制度が拡充されたことで、ここへきてさらに新規の口座開設ペースがアップしている。

  • 2023年にNISA口座を開設した人のうち、約3分の1強がそれまで有価証券を購入したことのない“投資初心者”であった。このことから、コロナ禍以降に初めて資産運用を始めた人は250万人程度になると考えられる。

  • NISAは若い層を中心に新たな投資家を増やすきっかけとなった一方、それ以外の年齢層では老後の不安から資産運用を始める人が多い。

増加傾向を辿る日本の資産運用人口

今年導入された新NISA(少額投資非課税制度)は、日経平均株価が過去最高値を更新したことと相俟って、個人の資産運用への関心を高めている。それまでのNISA制度に比べて、①口座開設期間が無制限化、②非課税保有限度枠の拡大、③年間投資枠の拡大、④非課税保有期間の無制限化など、投資の優位性が大幅に増したことで、新たな投資家を呼び込んでいる。

日本証券業協会が発表した「NISA口座の開設・利用状況」によれば、証券会社10社における新NISA発足後の口座開設件数は1~4月の累計で197万口座となった。これは前年同期(23年1~4月)に比べて2.8倍の規模である。

新NISAによる買付額(24年1~4月累計)については、個別株や投資信託への投資が可能な成長投資枠が4兆6207億円、金融庁の基準を満たした投資信託への積立投資が可能なつみたて成長枠が1兆856億円となった。両者を合わせると5兆7062億円の買付となるが、これは前年同期の3.0倍の規模となる。

ただし、新規口座開設数、買付額共にスタートからは徐々に減少傾向を辿っている。理由としては、①新NISAがスタートしてから時間が経つにつれて、新規口座開設数は減少傾向を辿る、②日経平均株価が史上初の4万円を超え、高値警戒感が出てきた――ことなどが考えられる。

ちなみに、成長投資枠における投資対象は、株式(個別株+ETF・REIT)が60%、投資信託が40%となった。新NISA全体で見れば、国内株式(個別株+ETF・REIT)への投資は全体の45%で、投資信託が51%、外国株が7%となった。この結果、証券会社10社におけるNISAでの買付額のうち、株式については東証での個人の買付額に占める割合が約3%、公募株式投資信託については、設定額に占める割合が約20%と、過去と比較して高くなっており、株式市場への影響度も高まりつつあると考えられる。

2014年に導入されたNISAは、初年度に825万口座を集めた後も順調に拡大傾向を辿った。特に2020年度と翌21年度は2年連続して二桁の伸びを記録する急増となった。これは、コロナ禍で外出が減り、資産運用に関する情報に触れる機会が増えたことや、自身の家計、将来設計を見直すきっかけになったことなどが背景にあるとされている。特に目立ったのがつみたてNISAの口座開設の急増で、20~30歳代の若い世代の投資が牽引した。

NISA口座数の推移(全金融機関)
NISA口座数の推移(全金融機関)

日本証券業協会による「個人投資家の証券投資に関する意識調査【インターネット調査】(23/10/18)」によれば(20歳以上の有価証券保有者が調査対象)、2023年中に一般NISA・つみたてNISA口座を開設した人のうち、34.4%はそれ以前に有価証券を購入したことがないと回答している(22年は31.8%)。コロナ禍の2020年以降、NISA口座は774万口座増加しているが、22年~23年と同様にそのうちの3分の1程度が口座開設前に有価証券の購入をしたことがないとすれば、コロナ禍後の3年間で250万人程度の新たな投資家が生まれたことになる。

コロナ後に、若い世代の資産運用が急増したことは、家計の貯蓄統計(総務省「家計調査報告[貯蓄・負債編]」)からも確認される。同統計によれば、家計貯蓄に占める有価証券の割合を年代別に見ると、60歳以上を除いてどの年齢層も2020年以降上昇傾向にあるが、特に20~29歳と30~39歳の層では貯蓄に占める有価証券の割合がこの時期に目立って上昇している。

家計貯蓄に占める有価証券の割合の年代別推移
家計貯蓄に占める有価証券の割合の年代別推移

積極的な資産運用は老後の不安解消にはやはり必要か

日本証券業協会が2021年度に行った「証券投資に関する全国調査」によれば(3年毎に調査)、何らかの有価証券を保有している人は19.6%となった。米国では、世帯ベースとなるが株式を保有している世帯は52.7%(2019年)、投資信託を保有している世帯は46%(2020年)となっている。日本での世帯別調査は2003年が最後となるが、その時点では有価証券の保有世帯割合は26.1%(株式21.1%、投資信託6.1%)にとどまっている。その後、有価証券の保有世帯割合は高まっていると考えられるものの、個人ベースでの有価証券の保有者割合が2006年の18.3%から2021年の19.6%へと小幅の上昇にとどまったことを勘案すれば、2021年時点でも有価証券の保有世帯割合は30%弱程度と推察される。

証券保有状況の推移
証券保有状況の推移

本調査では、1962年以降で世帯ベースでの保有割合が最も高かったのは29%弱程度だった(82年、88年、91年)ことを勘案すれば、NISA効果もあって資産運用を行っている人は増加傾向にあるものの、これまでの保有割合を超えるほどの証券投資ブームになっているとまでは言い難い。

同調査によれば、証券投資の必要性について「必要だと思う」と回答したのは全体の30.9%だったのに対し、「必要とは思わない」との回答は68.9%となった。ただし、同設問が始まった2015年以降の推移を見ると、証券投資を「必要だと思う」との回答割合は23.7%(15年)→25.1%(18年)→30.9%(21年)と高まる傾向にある。

証券投資の必要性について
証券投資の必要性について

収入別に見ると、年収が高い人ほど「証券投資を必要だと思う」と回答した人の割合が高くなる傾向がある。また、性別・年齢階層別(5歳刻み)に見ると、どの年齢層でも男性の方が「必要だと思う」との回答割合が女性よりも高く、男性では20~69歳では「必要だと思う」との回答割合が31.0%と全体平均を上回っている(最も高いのは35~36歳男性で44.4%)。

証券投資が必要な理由(複数回答)としては、「預貯金だけでは十分な利息を得られない」との回答が最も多く(63.7%)、次いで「将来・老後の生活資金として準備できる」(59.2%)、「現在の保有額では将来の生活の不安」(32.5%)、「将来のインフレに備えることができる」(14.2%)と続いた。

証券投資を必要と思う理由の推移(複数回答)
証券投資を必要と思う理由の推移(複数回答)

一方、証券投資を「必要だとは思わない」理由(複数回答)としては、「損する可能性がある」(43.7%)が最も多く、次いで「金融や投資に関する知識を持っていない」(30.2%)、「ギャンブルのようなもの」(28.2%)、「価格の変動に神経を使うのが嫌」(27.9%)、「特に理由は無い」(25.5%)、「証券投資をするためのまとまった資金がない」(20.6%)と続いた。

金融庁が2021年に発表した「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」によれば、投資経験者が資産運用を始めたきっかけは、「余裕資金が生まれたこと」(34.9%)、「老後の生活資金に関して不安を持ったこと」(33.8%)、「家族や知人から話を聞いたこと」(23.6%)の順に回答が多かった。ただし、年代別にはやや回答が異なり、20歳代では「NISAが始まったこと」と「家族や知人から話を聞いたこと」が最も多い回答となった一方、30歳代、40歳代、50歳代では「老後の生活資金に関して不安を持ったこと」が最も多い回答となった。

資産運用を始めたきっかけは何ですか(複数回答)
資産運用を始めたきっかけは何ですか(複数回答)

このように、株式や投資信託などの有価証券を保有することを通じて、金融資産を増やそうとする理由として多くの人が挙げていることは“老後の不安”である。一方で、NISA制度は若い年齢層を中心に、投資を始める良いきっかけ作りとなった。このため、早い段階から老後の不安へ対応する地盤ができつつあると言える。「資産運用のキホン~その2」では、かつて“2000万円問題”と言われた老後の不足資金について解説したい。

嶌峰 義清


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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