いよいよトルコリラの潮目が変わったか

~金融市場からの評価は確実に変化の模様、あとはエルドアン大統領の「変節」がないことを祈るのみ~

西濵 徹

要旨
  • ここ数年のトルコリラ相場は調整の動きを強めてきた。しかし、昨年の大統領選と総選挙後に行われた内閣改造で経済チームに正統的な政策運営を志向する陣容を固め、中銀は大幅利上げに動き、政府も保護預金制度を解除するなどの対応に動いた。主要格付機関が格上げに動くなど金融市場の評価は向上するなか、今月にも中銀と政府は物価抑制に向けて政策協調を図る姿勢をみせた。結果、過去数年に亘って調整が続いたリラ相場は底打ちするなど潮目に変化の兆しが出ている。中銀は23日の定例会合で政策金利を50%に据え置くとともに、インフレリスクを注視しつつ引き締め姿勢を維持する考えを示した。先行きはインフレ鈍化が期待される一方、引き続きエルドアン大統領の「変節」がないことを祈る展開が続くことになろう。

ここ数年のトルコリラ相場を巡っては、『金利の敵』を自任するエルドアン大統領による「高金利が高インフレを招く」とする因果が倒錯した理論の下、中銀はインフレにも拘らず度々利下げを迫られるとともに、中銀の独立性が脅かされる動きが相次いだことも重なり調整の動きを強めてきた。しかし、昨年の大統領選、及び総選挙後に行った内閣改造において、経済チームに正統的な政策運営を志向する陣容を固めるなどそれまでの政策方針から大幅な転換を図る動きをみせた。事実、昨年来の中銀は大幅利上げ(累計4150bp)を実施するとともに、政府もリラ安阻止を目的に導入した保護預金制度の解除に動くなど、着実に正統的な政策運営に舵を切る動きをみせてきた。結果、政府や中銀によるこうした動きを追い風に主要格付機関が相次いで同国の外貨建長期信用格付の格上げを行うなど、国際金融市場の同国に対する見方が変化しつつある様子がうかがえる。また、中銀は今月公表した最新のインフレ報告書でインフレ見通しを上方修正するとともに、カラハン総裁は先行きの金融政策を巡って追加利上げの可能性に言及するなど『タカ派』姿勢を示したほか、政府も包括的な財政緊縮策を公表するなどインフレ抑制に向けて財政、金融政策が協調する考えをみせている(注1)。上述のようにリラ相場は過去数年に亘って調整の動きに歯止めが掛からない展開が続いてきたものの、こうした政策転換も追い風に足下では底打ちする動きが確認されている。なお、このところの国際金融市場においては米ドル高の動きに一服感が出ており、そうした動きも影響を与えている可能性はあるものの、リラ相場の『潮目』にいよいよ変化の兆しが出ている様子がうかがえる。こうしたなか、中銀は23日の定例会合で政策金利(1週間物レポ金利)を2会合連続で50%に据え置く決定を行い、会合後に公表した声明文では今回の決定について前回会合同様に「利上げの効果発現に時間を要する点を考慮して現状維持を決定した」上で、先行きの政策運営について「インフレリスクに細心の注意を払いつつインフレ基調が大幅かつ持続的な低下が確認されてインフレ期待が予想通り収束するまで引き締め姿勢を維持する」との考えをあらためて強調している。足下のインフレ率は前年に頭打ちの動きを強めた反動で上振れしやすい上、年明け以降の最低賃金引き上げやリラ安による輸入インフレ、異常気象による食料インフレ、中東情勢の不透明感を受けた原油価格の底入れなど、物価上昇圧力に繋がる材料が山積するなかで一段と加速している。ただし、年明け以降の前月比のインフレ動向は頭打ちの動きを強めており、上述したようにリラ相場の潮目が変わることにより輸入インフレ圧力の後退が促されれば向こう数ヶ月でインフレが頭打ちに転じると見込まれる。中銀が引き締め姿勢を維持することに加え、ウクライナ戦争以降の同国経済を支えてきたロシアからの移民に対する政策転換を受けて3分の1程度が減少する動きが確認されており、先行きは需要が抑えられることもインフレ抑制を促すことが期待される。あとは、エルドアン大統領が再び変節することがないことを祈るのみということであろう。

図1 リラ相場(対ドル)の推移
図1 リラ相場(対ドル)の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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