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2023.10.03
アジア経済
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オーストラリア中銀、ブロック新総裁下の初会合は「安全運転」で始動
~豪ドルの対米ドル相場は米FRBの見方、米長期金利の動向に左右される展開が続くであろう~
西濵 徹
- 要旨
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- オーストラリアでは、商品高、米ドル高、雇用回復に伴う賃金インフレが重なり、インフレが上振れする展開が続く。中銀は昨年5月以降断続、且つ大幅利上げに舵を切ったが、物価高と金利高の共存が長期化するなかで難しい対応を迫られている。今年4月に利上げ局面を一旦休止するも、その後に再利上げを余儀なくされたが、7月に再休止に動いた。足下では雇用に頭打ちの兆しが出る一方、商品高の再燃を受けてインフレが底打ちに転じるなどインフレ再燃の兆候もうかがえる。他方、先月に中銀のロウ前総裁は事実上更迭され、3日にブロック新総裁の下で初めての定例会合が開催され、政策金利を4会合連続で据え置いた。会合後に公表した声明文は、ほぼ前回会合の内容が踏襲されるなど「安全運転」が志向された模様である。ただし、足下の豪ドル相場は米ドルに対して上値が抑えられており、当面の間については米FRBの政策運営や米長期金利の動向に左右される状況が続くことは避けられないと予想される。
オーストラリアでは一昨年半ば以降、インフレ率が中銀(豪州準備銀行)の定めるインフレ目標を上回る推移が続いている。これは、商品高による生活必需品を中心とする物価上昇、国際金融市場における米ドル高を反映した豪ドル安に伴う輸入インフレ、コロナ禍一巡による経済活動の正常化を受けた雇用回復による賃金インフレが重なったことが影響している。また、中銀はコロナ禍対応を目的に、利下げや量的緩和、YCC(イールド・カーブ・コントロール)導入など異例の金融緩和に舵を切るとともに、当時のロウ総裁は最短でも2024年まで利上げに動く可能性は低いとの可能性を示した。結果、家計部門を中心に資金需要が喚起されるとともに、債務拡大の動きを追い風に不動産市況は急上昇してバブル化が懸念されたため、中銀は一転して金融政策の正常化に舵を切り、昨年5月には利上げに動いた。そして、その後も中銀は物価と為替の安定を目的に、断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。同国では家計債務がGDP比で110%を上回るなど主要国と比較して突出している上、その大宗を住宅ローンが占めるため、断続利上げを受けた不動産市況の頭打ちの動きは逆資産効果を通じて家計消費の足を引っ張ることが懸念される。さらに、物価高と金利高の共存状態が長期化することは幅広い経済活動に悪影響を与えることで景気に冷や水を浴びせることも懸念される。こうしたなか、昨年末以降は商品高や米ドル高の動きに一服感が出るなどインフレ要因が後退するとともに、この動きに呼応してインフレも頭打ちに転じたため、中銀は今年4月に1年に及んだ利上げ局面を一旦休止させた。しかし、断続利上げを受けて頭打ちに転じた不動産市況は、利上げにより供給減が進む一方で国境再開に伴う移民流入などを受けた需要増を受けて底打ちしており、7月からの新年度は最低賃金の大幅引き上げなど新たなインフレ要因となる動きも顕在化している。よって、中銀は5月、6月と連続での再利上げを余儀なくされる難しい対応を迫られた。こうした中銀による積極利上げにも拘らずインフレ抑制が進まないなか、上述した中銀による政策運営を巡る大転換に対して広く国民の間に不満が高まったことを受けて、ロウ前総裁は先月の任期満了を以って退任となる事実上の更迭に追い込まれた(注1)。なお、ロウ前総裁の下で中銀はその後、インフレ鈍化に加え、景気回復をけん引した大都市部を中心とする雇用に頭打ちの兆しが出るなかで賃金の伸びも鈍化しており、先月の定例会合まで3会合連続で政策金利を据え置くとともに、先月18日にブロック新総裁が就任している。なお、足下では主要産油国による自主減産の延長に加え、異常気象の頻発を理由に農産物輸出国の間で禁輸の動きが広がりをみせており、こうした動きを反映して商品市況は底入れの動きを強めるなど、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレが再燃する懸念が高まっている。事実、8月のインフレ率は前年比+5.2%と前月(同+4.9%)から加速しており、前月比も+0.58%と前月(同+0.25%)から上昇ペースが加速しており、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まるなど、昨年末以降頭打ちしてきた流れに変化の兆しが出ている(注2)。一方、中銀が注視する物価変動が大きい財と旅行を除いたコアインフレ率は前年比+5.5%と前月(同+5.8%)から伸びが鈍化しているものの、前月比は+0.59%と前月(同+0.51%)から加速しており、財、サービス双方でインフレ圧力が強まっている。こうしたなか、中銀は3日のブロック新総裁の下で初めて開催する定例会合において政策金利(OCR)を4会合連続で4.10%に据え置いている。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「これまでの利上げの影響と経済見通しを見極める時間を確保するため」とした上で、物価動向について「ピークアウトするも依然高すぎる上、しばらくはこうした状態が続く」とし、「中心的な見通しでは2025年後半に目標域に戻る」との見通しを維持した。一方、経済動向について「今年前半は想定をやや上回ったが、しばらくは潜在成長率を下回る推移が続く」とする一方、「労働環境は幾分緩和するも依然タイトながら、失業率は来年後半にかけて徐々に上昇する」との見通しを維持している。その上で、政策運営について「合理的な期間内にインフレを目標域に回帰させることが優先事項」とした上で、「高いインフレ期待の定着はインフレ抑制に向けた一段の金利や失業率の上昇を招くなど非常に高いコストを払う必要が生じる」、「現時点においては中期的なインフレ期待はインフレ目標と整合的であり、この状態を維持することが重要」との考えを改めて示した。他方、物価と景気見通しについて「海外では驚くほどにサービスインフレが持続し、同様の事態が豪州でも起こる可能性がある」、「企業の価格決定行動や賃金、家計消費の行方、中国経済の先行きに不透明感がある」との見方を示す一方、「合理的な期間内にインフレ率を確実に目標域に回帰させるには金融政策をさらに幾分引き締める必要がある可能性がある」と追加利上げに含みを持たせつつ、「その行方はデータとリスク次第」、「世界経済の動向、家計消費の動向、物価と労働市場の見通しを注視する」としつつ、「インフレを目標に戻す断固とした決意は変わらず、その実現に向けて必要なことを行う」との従来からの考えを改めて強調した。このようにブロック新体制下でも従来からの姿勢を踏襲した背景には、足下の同国景気が頭打ちの動きを強めるなか(注3)、先行きについても最大の輸出相手である中国経済を巡る不透明感が景気の足かせとなることを警戒していることがある。足下の豪ドル相場については、米国経済を巡る不透明感を理由に米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営に対する見方が分かれる一方、米国の長期金利が高止まりするなかで米ドルに対して上値が抑えられる展開が続いており、しばらくは全米自動車労働組合(UAW)によるストライキの長期化、歳出法案の動向に左右される展開が続くであろう。他方、日本円に対しては金融政策の方向性の違いが下値を支える展開が続くことで底堅い推移となる可能性が高いと見込まれる。



注1 7月14日付レポート「豪中銀、ロウ総裁が事実上の更迭、ブロック副総裁が昇格へ」
注2 9月27日付レポート「頭打ちの動きが続いたオーストラリアの物価に底打ちの兆し」
注3 9月6日付レポート「オーストラリア景気は一段と頭打ちの様相を強める展開が続く」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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