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2023.09.27
アジア経済
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為替
頭打ちの動きが続いたオーストラリアの物価に底打ちの兆し
~中銀が直ちに再々利上げに動く可能性は低く、豪ドルの対米ドル相場は上値の重い展開が続こう~
西濵 徹
- 要旨
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- オーストラリアでは、商品高と米ドル高、経済活動の正常化を受けた雇用回復も追い風にインフレが中銀目標を上回る推移が続いている。他方、中銀は異例の金融緩和に加え、緩和の長期化を示唆したが、不動産バブルやインフレを招く事態となり、昨年5月から断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。昨年末以降の商品高や米ドル高の一服を受けてインフレは頭打ちしたため、中銀は今年5月に利上げ局面を一旦休止したが、不動産市況の底入れなどを受けて再利上げを余儀なくされている。また、政策運営の右往左往ぶりも影響して、中銀のロウ前総裁は事実上更迭されるなど様々な圧力に晒されている。さらに、足下では商品高の動きが再燃しており、8月のインフレ率は前年比+5.2%に加速して頭打ちが続いた流れが底打ちに転じている。中銀が直ちに再々利上げに動く可能性は低いと見込まれるが、豪ドルの対米ドル相場については引き続き上値の重さが意識されやすい一方、日本円に対しては底堅い展開が続くと見込まれる。
オーストラリアでは一昨年半ば以降、インフレ率が中銀(豪州準備銀行)の定めるインフレ目標を上回る推移が続いている。この背景には、商品高に伴う生活必需品を中心とする物価上昇、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨豪ドル安による輸入インフレに加え、コロナ禍一服による経済活動の正常化を追い風に雇用回復が進んで賃金インフレ圧力が強まったことがある。また、中銀はコロナ禍対応を目的に利下げ、量的緩和、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の導入など異例の金融緩和に舵を切るとともに、当時のロウ総裁は最短でも2024年までは利上げに動く可能性は低いとの考えを示したことで家計部門を中心に資金需要が喚起された。結果、家計部門による債務拡大の動きを追い風に不動産市況は急上昇するなどバブル懸念が高まり、中銀は一転して金融政策の正常化に動くとともに、昨年5月には利上げに舵を切り、その後は物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。同国の家計債務はGDP比で110.6%(3月末時点)と主要国の間で突出し、その大宗を住宅ローンが占めており、断続利上げによる不動産市況の頭打ちの動きは逆資産効果を通じて家計消費の足を引っ張ることが懸念されるほか、物価高と金利高の共存も景気に冷や水を浴びせる懸念が高まった。さらに、同国の銀行セクターを巡っても資産の3分の2を住宅ローンが占めており、不動産市況の低迷は貸出態度の悪化を通じて幅広い経済活動に悪影響を与えることも懸念される。そして、昨年末以降は商品高や米ドル高の動きに一服感が出るなどインフレ要因が後退し、この動きに呼応してインフレ率は頭打ちに転じたため、中銀は今年4月に1年に及んだ利上げ局面の休止に動いた。しかし、足下の不動産市況は断続利上げを理由とする供給減の一方、国境再開による移民流入を追い風とする需要拡大を理由に底打ちしており、7月からの新年度は最低賃金が大幅に引き上げられるなどインフレ圧力に繋がる動きもみられ、中銀は5月と6月に再利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られた。なお、インフレ抑制が進まない状況が続いている上、上述のように中銀による政策運営が大転換したことを巡って国民の間に反発が強まったことを受け、ロウ前総裁は先月の任期満了を以って退任に追い込まれるなど事実上更迭される事態に発展した(注1)。ロウ前総裁の下での中銀はその後、インフレが鈍化している上、回復をけん引してきた大都市部を中心とする雇用環境に頭打ちの兆しが出ており、賃金の伸びも鈍化していることを受けて、先月の定例会合まで3会合連続で政策金利を据え置いている(注2)。こうした背景には、足下の同国経済を巡っては好悪双方の材料が混在するも景気は頭打ちの動きを強めている上(注3)、最大の輸出相手である中国経済の減速懸念など世界経済の不透明感が景気の足かせとなることが懸念されることがある。他方、足下では主要産油国による自主減産に加え、農産物の輸出禁止の動きが広がるなかで商品市況は底入れするなど、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレが再燃する動きがみられる。こうした動きを反映して、8月のインフレ率は前年比+5.2%と前月(同+4.9%)から加速に転じており、昨年末を境に頭打ちの動きが続いた流れに変化の兆しが出ている。前月比も+0.58%と前月(同+0.25%)から上昇ペースが加速しており、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まっていることが影響している。中銀が注視する物価変動が大きい財と旅行を除いたコアインフレ率は前年比+5.5%と前月(同+5.8%)から伸びが鈍化しているものの、前月比は+0.59%と前月(同+0.51%)から加速しており、財、サービス双方でインフレ圧力が強まっている様子がうかがえる。インフレ率、コアインフレ率ともに中銀目標を大きく上回る推移が続いているものの、中銀が先月の定例会合で再々利上げに含みをみせるも、景気に配慮した慎重な姿勢をみせたことを勘案すれば、足下の数字を以って即利上げに動くとは見通しにくい。他方、足下の豪ドル相場については、米国経済を巡る不透明要因が山積するなかで米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営に対する見方が分かれるなかで米ドル高の動きに一服感が出ており、頭打ちの動きを強めてきた豪ドルの対米ドル相場に変化の兆しがうかがえる。ただし、上述のように中銀による利上げが意識されにくい状況にあることを勘案すれば、豪ドルが米ドルに対して大きく強含みする動きが進むとは見通しにくく、当面については上値の重い展開が続くことは避けられないであろう。他方、日本円に対しては金融政策の方向性の違いが下値を支える展開が続くことで底堅い推移となる可能性が高いと見込まれる。ただし、豪ドル相場の上値が重い展開が続くことを受けて当面は輸入インフレが意識される状況も予想されるため、中銀にとっては景気と物価の動向をみながらの難しい対応を迫られる展開が続くことになろう。こうした状況も豪ドルの対米ドル相場の上値を抑える展開を促すと見込まれる。



注1 7月14日付レポート「豪中銀、ロウ総裁が事実上の更迭、ブロック副総裁が昇格へ」
注2 9月5日付レポート「オーストラリア中銀、ロウ総裁最後の会合は「様子見」姿勢を維持」
注3 9月6日付レポート「オーストラリア景気は一段と頭打ちの様相を強める展開が続く」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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