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2023.04.26
アジア経済
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ニュージーランド中銀、住宅ローン規制緩和により利上げ余地確保か
~調整が続いた不動産市況は底打ちして利上げの影響に一巡の兆し、政策余地の拡大が生まれるか~
西濵 徹
- 要旨
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- ニュージーランドでは、商品高やNZドル安によるインフレ昂進、不動産市況のバブル的な上昇に直面したため、中銀は一昨年以降に住宅ローン規制の再導入に動き、その後も断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされた。足下のインフレ率は依然高止まりする一方、物価高と金利高の共存を受けて不動産市況は一転調整するなど景気に冷や水を浴びせる懸念がくすぶる。ただし、足下の不動産市況はローン規制再導入前の水準となり、調整局面に底打ち感が出るなど利上げの悪影響が一巡する兆しが窺える。こうしたなか、中銀は6月からローン規制を緩和する提案を公表しており、インフレが高止まりするなかで一段の利上げ余地を生むと期待される。ただし、NZドル相場は利上げ局面の終了が意識される形で上値の重い展開が続こう。
ニュージーランドにおいては、コロナ禍を受けた景気減速の影響克服が進む一方、商品高による生活必需品を中心とするインフレに加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨NZドルによる輸入インフレも重なり、インフレ率は一時32年ぶりとなる高水準に加速する事態に直面した。なお、中銀(NZ準備銀行)はコロナ禍対応を目的に、利下げ実施や量的緩和など異例の金融緩和に動いたほか、住宅ローン規制(資産価値比率(LVR)規制)を撤廃する一方、コロナ禍を受けた生活様式の変化や景気回復も追い風に不動産需要が拡大し、市況が大きく上振れしてバブル化する懸念が高まった。同国政府は当初こそコロナ禍の封じ込めに成功するも、その後は対応に苦慮して景気に悪影響を与える懸念が高まったため、中銀は2021年に一転して住宅ローンに対するLVR規制を復活させるとともに(注1)、その後は規制強化に動いた。また、インフレの顕在化を受けて2021年後半に量的緩和の縮小による正常化に舵を切ったほか、同年10月に7年強ぶりの利上げを実施するとともに、その後も物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされてきた。インフレ率は4-6月を境に頭打ちの動きを強めているものの、直近1-3月時点においても前年比+6.7%と依然として中銀目標(2±1%)の上限を大きく上回る推移が続いているほか、コアインフレ率も同+6.5%と高止まりするなど依然として収束にほど遠い状況にある(注2)。他方、物価高と金利高の共存状態が長期化するなかで昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲2.46%と3四半期ぶりとなるマイナス成長に転じたほか(注3)、年明け以降も記録的豪雨やサイクロン接近による自然被害が頻発するなど景気に一段と下押し圧力が掛かる懸念も高まっている。さらに、中銀による住宅ローン規制強化策や断続的、且つ大幅利上げ実施を受けて、一昨年末にかけて急上昇した不動産市況はその後に頭打ちに転じており、足下では中央値ベースで一昨年末のピークを▲16.2%下回るなど、家計部門にとっては逆資産効果が家計消費の足かせとなることが懸念される状況にある。こうした事態を受けて、中銀は26日に住宅ローンに対するLVR規制を6月に緩和する提案を公表している。なお、その理由について中銀は貸出態度が過度に引き締まったことで住宅購入者のデフォルト(債務不履行)リスクが後退していることに加え、足下の不動産価格が中期的なファンダメンタルズに沿った水準に回帰していることを挙げている。事実、足下の不動産価格は中央値ベースでLVR規制が再導入される直前の水準まで低下している上、一昨年末を境とする調整局面に底打ち感が出るなど断続利上げによる悪影響が一巡しつつある様子がうかがえる。今後は市中銀行との協議を経て最終決定を行うとともに、中銀は来月公表予定の「金融安定化報告」において住宅価格の動向が金融システムに与えるリスクに関する最新評価を掲載するとしており、6月1日からの緩和実施に向けた動きが進むと見込まれる。こうした動きは、上述のようにインフレが依然として鎮静化にほど遠いなかで中銀が一段の利上げを実施する余地を生むと見込まれるものの、NZドルの対米ドル相場は中銀のタカ派姿勢も利上げ局面が終了間近にあるとの見方を反映して上値が抑えられる展開が続いており、当面は方向感の乏しい展開が続くことは避けられないであろう。



注1 2021年2月9日付レポート「ニュージーランド中銀、住宅バブル懸念に対応してローン規制厳格化」
注2 4月20日付レポート「ニュージーランド、インフレ鈍化も中銀目標は遥か遠く、追加利上げが意識される」
注3 3月16日付レポート「ニュージーランド景気は物価高と金利高が重なり3四半期ぶりのマイナス成長」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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