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フランス年金改革、議会採決なしの強行突破へ

~大統領と国民の亀裂は修復不可能に~

田中 理

要旨
  • フランスのボルヌ首相は16日、政府の年金改革案の可決に必要な野党の協力が得られないと判断、議会採決なしに法案を成立する憲法49条3項の特例を用いる方針に切り替えた。野党勢は内閣不信任案でこれに対抗するが、野党間の勢力争いや解散・総選挙への警戒から、政権打倒や年金改革阻止で一枚岩になれない。内閣不信任案は否決され、政府の年金改革が成立する可能性が高い。ただ、多くの国民が反対する年金改革案を議会採決を得ずに強硬突破することは反発を招くことが必至で、抗議活動が一段と激化する恐れがある。

フランスではマクロン大統領が二期目の集大成とする年金改革案を巡って、労働組合や国民が激しい抗議活動を繰り広げており、交通網、ごみ収集、電力供給などにも一部で支障が出ている。昨年6月の国民議会(下院)選挙で、議会の過半数を失ったマクロン大統領の支持会派「アンサンブル」は、過去に年金支給開始年齢の引き上げを主張していた野党「共和党」に法案採決での協力を求めてきたが、国民の反発が高まるなか、十分な支持を取り付けることに失敗した。関連法案は上院を通過したものの、下院での法案可決に必要な賛成票が得られないと判断し、内政を司るボルヌ首相は16日、議会の採決なしに法案を成立する憲法49条3項の特例措置を使って、法案を成立させる方針に切り替えた。国民の7割余りが反対する年金改革案を議会採決をせずに成立させることは、さらなる抗議活動の激化を招く恐れがある。

昨年4月の大統領選でマクロン大統領と対峙したルペン氏の極右政党「国民連合」やメランション氏の左派連合「新人民連合環境・社会(NUPES)」など野党勢はこれに反発し、法案成立を阻止するため、24時間以内に内閣不信任案を提出することを示唆している。不信任案が否決されれば、2030年までに年金の支給開始年齢を64歳に引き上げ、満額支給に必要な払い込み期間を43年間に延長する期限を前倒しする政府の年金改革案が成立する。不信任案が可決された場合、内閣は総辞職し(大統領は留任)、政府の年金改革案も議会で否決されたと見做され、廃案となる。後者の場合、マクロン大統領は新たな首相を指名するか、国民議会を解散し、総選挙を行うかを決断する。

議会の過半数の議席を持たないボルヌ内閣は、就任以来、49条3項の利用を頻発してきた。今回で12回目の発動となり、歴代政権の中でも異例の多さだ。野党はその度に内閣不信任案を提出してきたが、野党間のライバル関係や早期の解散・総選挙への警戒など、野党勢の足並みの乱れによって内閣不信任を乗り切ってきた。共和党は極左・極右が主導する内閣不信任案の投票を棄権することを示唆しており、内閣不信任案は否決され、政府の年金改革案が成立する可能性が高い。ただ、与野党間の議会構成は拮抗しており、共和党の一部議員が不信任案に同調すれば、政府の年金改革案がお蔵入りとなる可能性も残る。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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