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銀行不安でもECBは50bp利上げを決定

~利上げ判断と銀行不安を切り離す~

田中 理

要旨
  • 銀行不安が欧州に飛び火するなかで行われた3月のECB理事会では、前回会合で示唆した通り、50bpの利上げを決定した。金融市場のストレスなど不確実性が高まるなか、ECBは今回、次回理事会での利上げ幅を事前に約束する形のフォワード・ガイダンスを見直し、今後の経済・物価データなどに基づいて利上げの是非を判断する方針に切り替えた。新たなスタッフ見通しでは、資源価格の前提を引き下げたことで物価見通しが下方修正されたが、コア物価は予測期間を通じて2%を上回る。景気の上振れとインフレ圧力が続くなか、向こう数回の理事会でも利上げが継続される公算が大きい。5月の利上げ幅が50bpとなるか、25bpとなるかの判断は難しい。5月までに発表される2ヶ月分の物価統計、今後の銀行不安の展開が大きな判断材料となろう。

欧州にも銀行の経営不安の影が広がるなかで行われた3月のECB理事会は、前回会合のフォワード・ガイダンスで示唆した50bp利上げを実行するとともに、ユーロ圏の銀行システムが十分な資本と流動性を持ち、強靭であることを強調した。理事会直前に噴出した米銀2行の経営破綻とスイス大手行の経営不安を受け、ECBが利上げ幅の縮小や利上げ見送りを決断するとの見方も一部で浮上していたが、域内の大手行を監督する立場にあるECBが、物価の高止まりとインフレ圧力が継続するなかで事実上約束していた50bp利上げを見送れば、銀行の健全性が疑われる公表されていない事実を把握しているとの憶測を呼び、かえって金融市場の動揺を誘う可能性があった。ECBは「銀行部門の状況を注意深く監視し、必要に応じて流動性供給などの対応を行う政策ツールが揃っている」としながらも、「物価と金融安定の間にトレードオフがない」との認識を表明し、金融政策判断と銀行問題をひとまず切り離す方針を示唆した。そのうえで、次回会合での利上げ幅を事前に約束する「政策金利を安定的なペースで大幅に引き上げる」との従来のガイダンスを取り止め、今後の利上げ決定は、①新たに入手する経済や金融データを踏まえた物価見通しに対する評価、②基調的な物価の動態、③金融政策の伝達の強さ―に基づいて判断する方針を表明した。

銀行問題に端を発した金融市場のストレスなどの不確実性が高まるなか、ECBは理事会毎に次回会合での利上げ幅を事実上明言する最近のガイダンスを見直し、より純粋にデータ次第で利上げ幅や利上げの是非を判断するアプローチに切り替えた。最近のユーロ圏の経済指標は、冬場のガス危機回避や中国の経済活動再開で景気が予想以上に底堅く推移、資源価格の上昇一服でヘッドラインのインフレ率がピークアウトする一方、企業の価格転嫁や賃上げの動きが広がるなか、コア物価の高止まりが続いている。ラガルド総裁は、新たに発表したスタッフ見通しを参照しながら、「高すぎるインフレ率が長期化することが予想され、2%の物価目標を達成するにはまだすべきことが沢山ある」とし、今後の利上げ継続を示唆した。実際、新たなスタッフ見通しでは、原油・天然ガス価格の想定を引き下げたことで、ヘッドラインの物価見通しが下方修正され、変動が大きいエネルギーと食料を除いた米国型コア物価の見通しも僅かに下方修正されたものの、予測期間を通じて中期的な物価安定とする2%を上回る姿を描いている(図表1・2)。

景気の上振れとインフレ圧力の継続が予想されるなか、筆者はECBが向こう数回の理事会で利上げを継続するとの見方を維持する(図表3)。5月の利上げ幅が50bpとなるか、25bpに縮小されるかは難しい判断となりそうだ。50bp利上げを事前に約束するガイダンスを放棄したことと、当面は銀行不安が燻り続けるとみられ、25bpへの利上げ縮小の可能性が高まっている。だが、5月理事会までに発表される3月と4月の物価統計でコアの高止まりや予想以上の上振れが続いた場合や、銀行不安が早期に沈静化した場合には、理事会内のタカ派意見が再び高まろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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