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ベルリン市議選はドイツ連立政権に痛手

~ドイツやEUの政策運営にも影を落とす~

田中 理

要旨
  • ドイツのベルリン市議会選挙は、連邦政府を率いる社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党が何れも支持を落とした。なかでも連立政権内で独自色の発揮に苦しむFDPは、政権発足後の5つの州議会選挙のうち3つで議席獲得に必要な5%に届かず、残り2州でも得票率が半減している。こうしたFDPの党勢凋落は、連立内の不協和音を高めるとともに、ドイツやEUの政策運営にも影を落としかねない。伝統的に財政規律を重視するFDPは、リントナー党首が連立政権で財務相の要職にあり、拡張的な財政運営に待ったをかける可能性がある。

12日にドイツの首都ベルリン市(州に相当)で行われた議会選挙は、2021年の連邦議会選挙で野党に転落した保守政党・キリスト教民主同盟(CDU)が28.2%の票を獲得し、市議会の最大勢力となった一方、長年同市を率いてきた中道左派の社会民主党(SPD)の得票率が18.4%にとどまり、史上最低の結果に終わった(図)。連邦レベルでSPDと連立を組む緑の党(Grüne)が僅か100票余りの差で18.4%の同率で続き、同じく連立を組むリベラル政党・自由民主党(FDP)は議席獲得に必要な5%に届かず、議席を失った。今回の選挙は2021年9月の選挙で投票用紙や投票所の運営に様々な問題があったとし、裁判所が選挙の再実施を求めたもの。ベルリンでは昨年の大晦日に若者による大規模な暴動事件が発生し、逮捕者の多くがアフガニスタンやシリア出身者だったことから、移民・難民問題や治安強化が選挙戦の重要争点となっていた。市政を引き入る左派3党とFDPが支持を落とした一方、CDUが大幅に躍進、排外主義的な主張が目立つ右派政党・ドイツのための選択肢(AfD)が僅かに票を伸ばした。やり直し選挙で最大勢力となったCDUが政権発足に意欲をみせるが、議席を獲得した政党の中で同党が連立を組む可能性があるのはSPDと緑の党だろう。過去最低の得票率に沈んだSPDは、政権を明け渡すのではなく、緑の党と旧東ドイツの支配政党の源流を組む左翼党(Linke)との左派連立の続投を目指している。緑の党も選挙後に、CDUとの連立よりも、現在の連立の枠組み維持に意欲を示している。

今回の選挙結果は、連立内の不協和音や指導力発揮に苦しむショルツ政権にとっても痛手となる。連立を組むSPD、緑の党、FDPが揃って支持を落とし、2025年の連邦議会選挙で政権奪還を目指すCDUに支持を奪われた。なかでも連邦議会選挙後の党勢凋落が続くFDPは、昨年行われたニーダーザクセン州、ザールラント州の議会選挙で議席獲得に必要な5%に届かず、シューレスビヒ=ホルシュタイン州とノルトライン=ヴェストファーレン州でも得票率が約半減した。連邦レベルで左派2党の連立に加わったFDPは、リントナー党首が最重要閣僚ポストである財務相に就任するなど、政権発足当初は存在感を発揮したが、その後は失速している。新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻で財政拡張と政府主導の危機対応を余儀なくされ、小さな政府や財政規律重視の党本来の主張を政権運営に取り込めずに埋没している。ベルリン市議会選挙での敗北を受け、FDPのリントナー党首は、減税や規制緩和、不法移民対策の強化などを重視する姿勢を打ち出しており、党の右傾化が進む可能性がある。

こうしたFDPの党勢低迷は、連立内の不協和音をさらに深めるとともに、EUレベルの財政運営にも影響を及ぼす可能性がある。政治安定を重視するドイツですぐに連立が崩壊する可能性は低いが、政策停滞などにつながりやすい。年内に予定される選挙としては、5月にブレーメン特別市(州に相当)、10月にバイエルン州とヘッセン州の州議会選挙がある。世論調査によれば、FDPはブレーメンとバイエルンでも議席を獲得できない可能性がある。また、バイエルン州議会選挙は、CDUの姉妹政党で同州でのみ活動するキリスト教社会同盟(CSU)がどの程度の支持を獲得できるかにも注目が集まる。政権奪還を目指すCDUはメルツ元院内総務の党首就任後に支持を伸ばしており、同氏はバイエルン州首相も務めるゼーダーCSU党首とともに、2025年の連邦議会選挙に向けて、CDU・CSU統一会派の連邦首相候補争いを繰り広げることになるだろう。EUはコロナ禍とエネルギー危機時の時限措置として財政規律の適用を全面的に停止していたが、2024年からの規律再適用を前に、財政規律の見直しに着手している。EUの財政規律は複雑で透明性に欠け、見直しが必要との声が高まっていた。リントナー財務相は規律の厳格適用を求める可能性がある。また、EUの行政執行機関である欧州委員会は、エネルギー危機対応や物価高騰による生活支援、米国のインフレ抑制法(IRA)への対抗措置としての産業補助金の財源として、復興基金やEU予算の未利用財源を充てるとともに、中長期的には欧州ソブリン基金を創設することを提案している。こうした提案にもリントナー財務相が反対する可能性がある。

図表1
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以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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