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2023.01.05
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パキスタン、外貨不足の深刻化を受けて外貨節約を目的に節電要請
~経済・政治情勢の一段の不透明化に加え、地政学リスクが高まる可能性にも要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- このところのパキスタン経済は、コロナ禍を受けて経済危機からの脱出がとん挫し、商品高によるインフレが国民生活に深刻な悪影響を与える状況が続く。政府と議会との対立を受けてカーン前首相は退任に追い込まれ、シャリフ首相が誕生する政権交代に発展した。シャリフ首相はIMFによる支援受け入れ再開への取り組みを進める一方、早期の議会解散・総選挙を求めるカーン氏への「圧力」を強める動きをみせてきた。
- しかし、未曾有の大洪水の発生が経済の立て直しに冷や水を浴びせる上、IMFも支援を保留し、国際社会からの支援も不充分な状況が続いており、外貨準備の減少に歯止めが掛からない状況が続く。政府は友好国からの緊急支援の受け入れに奔走するも目途が立たない状況が続くなか、インフレ率は高止まりするなど国民生活を取り巻く環境は厳しい展開が続いており、政権支持率の低迷に歯止めが掛からない状況にある。
- 外貨不足を受けて、政府は度々外貨節約を目的とする「奇策」を打ち出したが、今月には原油などの輸入抑制を目的に商業施設への営業時間短縮による節電要請を行った。しかし、現実にはこれに応じる動きはみられず、外貨不足の深刻化は避けられそうにない。一方、カーン氏は州レベルでシャリフ政権に揺さぶりを掛ける動きをみせるなど、経済・政治ともに不透明感が山積しており、地政学リスクが高まる可能性も予想される。
このところのパキスタン経済を巡っては、経済危機からの脱出を目指すもコロナ禍を受けてとん挫したことに加え、商品高による世界的なインフレの余波を受ける形で食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレが顕在化するなど、国民生活に深刻な影響が出る状況に見舞われてきた。このように国民の経済的困窮が深刻化する一方、政府はIMF(国際通貨基金)の支援受け入れと引き換えに緊縮財政を堅持したことで政府と議会との対立が深刻化し、昨年4月に議会下院でカーン前首相に対する不信任案が可決されて即日失職するとともに、その後にシャバズ・シャリフ氏が首相に就任するなど政権交代に発展した(注1)。ただし、カーン前首相の失職を受けて同氏に近い多数の議員が一斉に辞職したことで議会下院は4割弱の議席が空白となる異常事態となり、カーン氏は早期の議会解散、及び総選挙の実施を求めるデモを展開した。カーン氏を巡っては昨年8月、デモの際に行った演説で警察、及び司法当局を脅迫したことによる職務妨害を理由に、警察当局が反テロ法違反の容疑で同氏を起訴、逮捕する事態に発展し、支持者が抗議を活発化させるなど政情不安に発展する可能性が懸念された(注2)。イスラマバード高裁はカーン氏を不起訴処分とする判断を下したものの、その後に選挙管理委員会は首相在任中の寄贈品の売却に関する政府への報告義務違反を理由に議員資格のはく奪と公民権停止を決定するなど、シャリフ政権は依然国民からの人気が高いカーン氏を追い詰める姿勢を強めている。他方、シャリフ政権は外貨不足による経済危機回避を目的にIMFからの支援受け入れ再開に向けて歳出改革に舵を切ったほか、この動きに対応する形でIMFは9月に8.94億SDR(約11億ドル)規模の追加支援実施に加え、同国に対する拡大信用供与措置(EEF)の規模を1年延長するとともに支援規模を7.4億SDR(約9.4億ドル)拡充することを明らかにした。
しかし、昨年の雨季(モンスーン)の雨量は例年の3倍近く、同国南部のシンド州では5.7倍に達する記録的な状況となったことを受け、一時は全土の3分の1が冠水して多数の死者や被災者が発生するなど、経済の立て直しに冷や水を浴びせる事態となっている(注3)。洪水被害により多くのインフラが破壊されている上、冠水に伴い主要産業である農業は壊滅的な打撃を受けるなど経済立て直しの道のりは極めて険しいなか、国連などの国際機関や主要国が同国の支援に乗り出す動きをみせたものの、巨額の被災額(国連試算では少なくとも400億ドル)に対して充分な支援を受けられない状況が続いている。さらに、上述のようにIMFは同国に対する支援実施を決定したものの、大洪水を受けてその後は具体的な支援実施を保留する展開が続いており、同国政府は友好国からの緊急支援の受け入れに奔走する動きをみせている。ただし、洪水被害に伴い経済が疲弊するなかで外貨準備の減少に歯止めが掛からない状況が続いており、11月末時点における外貨準備高は57.79億ドルと月平均輸入額の1ヶ月分にも満たない水準となるなど、危機的状況に陥る懸念が一段と高まっている。他方、足下のインフレ率は頭打ちするも高止まりしている上、引き続き中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いており、国際金融市場では米ドル高に一服感が出るもルピー安圧力がくすぶるなかで輸入物価の押し上げを通じたインフレが続いている。こうした事態を受けて、同国政府はロシアから割引価格による原油輸入の受け入れを目指しているが、ロシアはG7(主要7ヶ国)とEU(欧州連合)、豪州が合意した価格上限を遵守する国に対して原油を売却しない方針を明らかにしており、現実的ではない。


外貨不足が深刻化するなか、同国政府は外貨を節約する観点から昨年6月に国民に対して紅茶の消費量を減らすよう要請する異例の動きをみせた。この背景には、同国は世界最大の紅茶輸入国であるなど国民生活に紅茶が欠かせないなか、2021年の紅茶輸入額は704億ルピー(当時の為替レートで約3.99億ドル)に達していることが挙げられる。ただし、紅茶の輸入額は輸入額全体に対して0.8%に満たない水準に留まることを勘案すれば、仮に消費抑制によって紅茶の輸入量が減少したとしても輸入全体に与える影響は極めて限定的とならざるを得ない。こうしたなか、同国政府は今月3日に外貨準備の節約を目的にショッピングモールをはじめとする市場に対して営業時間を午後8時半まで、飲食店に対しても営業時間を午後10時までとするなど節電を要請する動きをみせている。これ以外にもシャリフ首相は政府機関に対して3割の省エネを命じるなど、エネルギー資源の大宗を海外からの輸入に依存するなか、輸入の半分以上を占める原油などエネルギー資源の節約に動いた格好だが、経済の立て直しは一段と厳しくなることは避けられない。他方、現実には政府の要請後も多くの主要都市で大型商業施設が閉店時間を変更しない状況が続いている模様であり、政府の目論見は早くも外れるとともに、外貨不足が一段と深刻化することも予想される。こうしたなか、先月には全国の4州のうちカーン前首相が率いるPTI(パキスタン正義運動)などが州首相を担うなど与党を形成する2州(北西部のカイバル・パクトゥンクワ州と中部のパンジャブ州)が州議会の解散を発表するなど、議会下院の解散、及び総選挙の実施を拒否する展開が続くシャリフ政権に揺さぶりを掛ける動きをみせている。経済の低迷を受けてシャリフ政権の支持率は低迷する一方で国民の間ではカーン氏に対する人気が高まる動きがみられるなか、これらの2州ではPTIを中心とする陣営が勝利すると予想されており、これら2州の人口を併せると全人口の6割を上回ることを勘案すれば、この選挙結果は中央政界にも少なからず影響を与える可能性がある。その意味では、先行きの同国を巡っては経済、及び政治ともに見通しが立たない展開が続くと予想される一方、財政状況が厳しさを増すなかで中国が一段と接近する動きもみられるなど、隣国インドとの地域情勢や地政学リスクにも繋がることに留意する必要がある。
注1 2022年4月21日付レポート「パキスタン、シャリフ新政権発足も不安だらけの船出」
注2 2022年8月24日付レポート「パキスタン、経済も不安定ななかで正常の不安定化も不可避」
注3 2022年9月14日付レポート「パキスタン、IMF支援受け入れ再開も大洪水直撃で困難は深刻化」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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