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2023.01.17
欧州経済
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英国経済
国際的課題・国際問題
ブレグジットの置き土産
~北アイルランド国境問題の解決機運高まる~
田中 理
- 要旨
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英国のEU離脱後、英国の一部ながらEU規則が適用される北アイルランドでは、経済・政治上の混乱が発生。英国政府は北アイルランドの取り扱いを定めた議定書の見直しを求めてきたが、EU側はこれに難色を示し、協議が難航している。英国が一方的に議定書を修正する法案を提出し、これにEUが反発するなど、両者の関係悪化が鮮明となっている。
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英国でEU関係の改善を目指すスナク政権の誕生後、膠着していた議定書の見直し協議に前進の兆しが広がっている。9日に英国が管理する北アイルランドの貿易データへのEUのアクセスを認めることで暫定合意。16日に再開した協議では、議定書見直しの最終合意に向けた集中協議入りは見送られたが、政治合意が近いとの観測が高まっている。北アイルランド和平合意から25周年となる4月10日までの合意実現を目指している。
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合意が実現すれば、英EU間の貿易紛争のリスクが低下、英EU間の関係改善も期待できる。他方で、保守党内の強硬離脱派の反発を招き、5月の統一地方選挙の結果などと相俟って、スナク降ろしの動きが改めて活発化する恐れがある。
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2020年1月末に英国が欧州連合(EU)を正式に離脱した後も、北アイルランドの国境管理の在り方を巡って、英国とEU間の意見衝突が続いてきた。EU離脱後の英国がEU加盟国(アイルランド)と陸続きで国境を接する南北アイルランド間の約500キロの国境線には、かつての北アイルランド紛争の和平合意の趣旨に則り、いかなる物理的な国境管理施設も設置することができない。EU側はこのことが規制の抜け道や犯罪の温床となり、EUの一体性が保たれないことを懸念。離脱協議が難航する一因となったが、メイ首相から離脱協議を引き継いだジョンソン首相(当時)は、膠着する協議を打開するため、離脱後も英国の一部である北アイルランドにEU規則を適用し、北アイルランド(アイルランド島)とその他英国(イングランド、スコットランド、ウェールズがあるグレート・ブリテン島)の間で税関検査や食品安全検査を行うことを提案し、離脱後の北アイルランドに関する特別な取り決めを定めた「北アイルランド議定書」をEUとの間で交わした。
議定書の抱える問題点は、離脱後すぐに浮き彫りとなった。北アイルランドの業者が英国本土の業者から物品を購入する際に、EU規則に基づく追加の事務手続きや経費が掛かるようになり、一時は物不足が深刻化。英国から北アイルランドを事実上切り離す解決策に、英国との一体性を重視する北アイルランドのユニオニスト系住民が猛反発。暴動が発生したほか、北アイルランド議会でユニオニスト第一党の民主統一党(DUP)がアイルランド民族の一体性を重視するナショナリスト第1党のシン・フェイン党との共同自治政府への参加を拒否し、英国政府が北アイルランドを直轄管理する事態となっている。DUPは北アイルランド議定書の見直しが、共同政府に参加する条件としている。英国は議定書の全面的な見直しをEUに求めてきたが、EUは運営見直しに理解を示しているが、条約改正を伴う全面的な見直しには応じず、両者の間の協議は平行線を辿ってきた。業を煮やした英国政府は昨年6月、北アイルランド議定書を一方的に変更する法案を議会に提出した。EU側はこれに反発し、議定書の義務不履行手続きに着手、英国側が是正措置に応じない場合、欧州司法裁判所への提訴など更なる法的措置を辞さない構えを示唆している。
だが、ここにきて英EU間の協議が前進するとの機運が芽生えつつある。英国でEU強硬派のジョンソン・トラス政権が昨年相次いで倒れ、EUとの関係改善を目指すスナク政権の誕生後は、英EU間の協議はより友好的なムードで進むようになったとされる。1月9日には英国が管理する北アイルランドと英国本土間のリアルタイムの貿易データへのEUのアクセスを認めることで暫定合意した。これは北アイルランドの税関検査を簡素化するうえで、EU側が求めてきた措置だ。英国のクレバリー外相とEU側の交渉官を務めるセフコヴィッチ副委員長は16日、議定書の見直しに向けた協議を再開した。政治合意が近いとの観測も一部で浮上しているが、紛争処理時の欧州司法裁判所の関与などを巡って、双方の意見には依然として隔たりがあり、最終合意に向けた集中協議入りは見送られた。両者は4月10日の北アイルランド和平(ベルファスト)合意の25周年記念までの合意実現を目指している。アイルランドを家系のルーツに持ち、同地域の平和安定に関心を寄せる米国のバイデン大統領も、合意実現後の南北アイルランド訪問を希望しているとされる。
合意が実現すれば、英EU間の貿易紛争のリスクが低下するとともに、離脱後に冷え込んでいた英EU関係の改善が期待できる。他方で、合意内容次第では保守党内の強硬離脱派の反発を買うことになる。最大野党の労働党は、英EU間が議定書見直しで合意した場合、関連法案の議会審議で政府方針に協力する可能性を示唆している。合意の過程でのEU側への過大な譲歩、野党の協力による関連法案の議会可決、5月の統一地方選挙での保守党の大敗などが重なる場合、強硬離脱派によるスナク降ろしの動きが活発化する恐れがある。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

