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2022.11.30
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タイ中銀、米ドル高一服も追い風に段階的且つ慎重な金融引き締めを継続
~景気の下振れリスクを警戒する一方、物価安定に向けた慎重な政策運営を志向する展開が続く模様~
西濵 徹
- 要旨
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- タイ経済を巡っては、国内外で不透明感が高まる動きにも拘らず底入れの動きが続いており、ようやくコロナ禍の影響を克服する動きが確認されている。ただし、商品高は生活必需品を中心とするインフレを招くなか、景気回復やバーツ安による輸入物価の押し上げも重なりインフレは高止まりする展開が続く。足下の国際金融市場では米ドル高一服によりバーツ相場は底打ちしているが、景気回復の動きがインフレ昂進を招く懸念がくすぶるなか、中銀は30日の定例会合において3会合連続で25bpの漸進利上げの継続を決定した。中銀は物価安定を重視する一方、景気への悪影響を警戒して段階的且つ慎重な金融引き締めを志向しており、金融市場における米ドル高一服の動きも重なり、先行きも漸進的な金融引き締めを維持するであろう。
タイ経済を巡っては、世界経済の減速懸念の高まりに加え、商品高による世界的なインフレは同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いている上、国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を反映して通貨バーツ安が進み、輸入物価の押し上げを通じて一段とインフレが昂進する事態となるなど、国内外双方で景気への不透明要因が山積する事態に直面してきた。こうした状況ながら今年7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+4.98%と4四半期連続のプラス成長で推移するなど景気は着実に底入れの動きを強めている上、実質GDPの規模もようやくコロナ禍前を上回る水準に回復するなど、その影響を克服している様子がうかがえる(注1)。世界経済の減速懸念を受けて財輸出は弱含みしているものの、感染一服を受けた国境再開やバーツ安も追い風に外国人観光客は底入れが進んでいるほか、物価高による実質購買力の下押し懸念にも拘らず雇用環境の改善も追い風に家計消費や企業部門の設備投資は堅調に推移するなど、内・外需双方で景気を押し上げる動きがみられる。なお、足下においては国際商品市況の底入れの動きに一服感が出ていることを反映してインフレ率は頭打ちする動きがみられるものの、景気の底入れが続いていることに加え、バーツ安による輸入物価の押し上げの動きを反映してコアインフレ率は加速の動きが続いており、インフレ率、コアインフレ率ともに中銀の定めるインフレ目標を上回る推移が続いている。こうした事態を受け、中銀は物価と為替の安定を目的に8月にコロナ禍後初となる利上げ実施を決定したほか(注2)、翌9月にも追加利上げを決定するなど金融引き締めに舵を切る動きをみせている(注3)。ただし、上述のように足下の実質GDPがようやくコロナ禍前を上回る水準を回復するなど景気回復の動きが周辺のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に比べて遅れるなか、中銀は物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせることを警戒して性急な金融引き締めには及び腰の対応をみせてきた。結果、『タカ派度合い』の違いを理由にバーツ相場に対する調整圧力が強まるとともにインフレは上振れするなど難しい対応を迫られた。なお、足下の国際金融市場においては米ドル高の動きに一服感が出ていることを受けて調整が続いたバーツ相場は底打ちしており、輸入物価の押し上げによるインフレ昂進の懸念が大きく後退していると捉えられる。しかし、上述のように足下のインフレ率は依然としてインフレ目標を大きく上回る推移が続いていることを受けて、中銀は30日に開催した定例会合において3会合連続の利上げ、且つ利上げ幅も25bpとして政策金利を1.25%とする決定を行っている。会合後に公表された声明文では、今回の決定も「全会一致」でなされるとともに、同国経済について「回復基調にある」とした上で「来年のインフレ率はこれまでの見通しに比べて上振れが見込まれるなかで金融政策の緩やかな正常化が適切」との認識を示した。その上で、先行きの経済成長率について「2022年は+3.2%、23年は+3.7%、24年は+3.9%と成長を続ける」との見通しを示し、その理由に「外国人観光客の増加による観光関連産業の押し上げや家計消費の底堅さ」を挙げる一方、「世界経済を巡る不確実性の高さやそれに伴う観光関連産業の下振れリスクを注視する必要がある」との認識を示した。また、物価動向については「2022年7-9月にピークアウトして23年には+3.0%、24年には+2.1%に低下する」との見方を示す一方、「エネルギー価格を巡るインフレリスクを引き続き注視する必要がある」との考えを示した。その上で、金融市場環境について「全体的に緩和状態が続いており、資金調達コストは上昇しているが、依然として与信及び資金調達は拡大が続いている」とした上で、バーツ相場について「非常に不安定な動きが続いており、その行方を注視する必要がある」との認識を示した。そして、先行きの政策運営について「長期的に持続可能な経済成長と整合的な水準まで段階的かつ慎重に正常化させる必要がある」とした上で「景気及び物価の見通しが現在の見通しから変化すれば正常化のペース及びタイミングを調整する用意がある」とこれまでの考えを改めて強調しており、足下のバーツ安圧力の後退はこうした中銀の姿勢にとって好都合なものと捉えられるなか、引き続き緩やかな金融引き締めを維持する可能性は高いと見込まれる。なお、中銀は同時に発表した最新の経済及び金融市場環境に関する報告書においても、先行きについて外需を中心とする景気下振れリスクを注視する姿勢をみせており、物価安定を目指す一方で景気への悪影響を最小化する観点で漸進的な金融引き締めを志向すると見込まれるなか、足下の金融市場環境はそうした姿勢を後押しすることに繋がるであろう。


注1 11月21日付レポート「タイ経済もようやくコロナ禍克服も、先行きは国内外で不透明要因が山積」
注2 8月10日付レポート「タイ中銀、すべての政策委員が利上げ主張も小幅利上げに留まる」
注3 9月28日付レポート「タイ中銀、バーツ急落に追加利上げで対抗も慎重姿勢は崩さない」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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