デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

さよならドラギ、ようこそメローニ

~今度のポピュリストは現実路線~

田中 理

要旨
  • イタリアでは22日、前月の総選挙で勝利した右派ポピュリスト政党・イタリアの同胞のメローニ党首が率いる連立政権が誕生した。注目の閣僚人事は、ドラギ前政権で産業相を務めた同盟の穏健派議員ジョルジェッティ氏が経済財務相に、欧州議会議長や欧州委員を歴任したフォルツァ・イタリアのタヤーニ氏が外相に就く。EUとの全面衝突を避け、国際社会や金融市場の信頼獲得を優先する意向だが、財政運営での何らかの譲歩を勝ち取ることができない場合や、政権の支持率が低下した際に、改めてEUとの向き合い方が問われよう。ECBが近く量的引き締めの検討を開始するとみられ、金利に一段の上昇圧力が及ぶ恐れがある。

9月25日に総選挙が行われたイタリアでは10月22日、最大政党に躍進した右派ポピュリスト政党・イタリアの同胞のジョルジャ・メローニ党首を首相とする右派の連立政権が誕生した。連立政権には、前回2018年の総選挙後に五つ星運動と連立政権で副首相を務めたマッテオ・サルビーニ党首が率いる右派ポピュリスト政党の同盟と、かつての政権与党でシルビオ・ベルルスコーニ元首相が率いるフォルツァ・イタリアが加わる。政権発足に向けた協議の間には、上院議長の選出や閣僚人事の割当などを巡って3党間の意見相違も表面化したが、最終的には政権発足を優先した。21日に3党党首が揃って、セルジオ・マッタレッラ大統領と面会し、メローニ氏を首相に3党で連立を発足する意向を伝えた。同大統領はメローニ氏に首相就任と組閣を命じた。22日に宣誓就任した新内閣は、今週中にも上下両院での信任投票に臨む。

注目の閣僚人事は、24閣僚のうち9閣僚をイタリアの同胞に、各5閣僚を同盟とフォルツァ・イタリアに、残りの5閣僚を非政治家(テクノクラート)に割り当てた。経済財政運営を担う経済財務相には、ドラギ前政権で産業相を務めた同盟のジャンカルロ・ジョルジェッティ氏が、外相兼副首相には欧州議会議長などを歴任したフォルツァ・イタリアのアントニオ・タヤーニ氏が、インフラ・運輸相兼副首相にはサルビーニ氏が、内相にはサルビーニの内相時代に主席補佐官を務めたマッテオ・ピアンテドージ氏が、産業相にはジャーナリスト出身でイタリアの同胞のアドルフォ・ウルゾ氏が、司法相には検察出身でイタリアの同胞のカルロ・ノルディオ氏が、国防相にはイタリアの同胞の共同設立者のグイド・クロゼット氏が就く。

新政権の財政運営を占う経済財務相候補には、イタリア出身のECBのパネッタ理事、経済学者、過去の政権で経済財務相を務めた人物などの名前が挙がったが、人選が難航した。ジョルジョッティ氏は同盟内の穏健派として知られ、産業・金融界と深いパイプを持ち、ドラギ前首相が率いた挙国一致政権でも閣僚に登用された。政治家の中ではEUや金融市場から好意的に受け止められる人物と言えよう。タヤーニ氏はベルルスコーニ元首相の側近で、欧州議会議長や欧州委員(EUの閣僚に相当)などを歴任し、EU政界でも広く知られた人物だ。ウクライナ支援とロシア制裁での欧米協調路線を見据えた人選と言える。ピアンテドージ氏はサルビーニ氏の内相時代に移民政策の策定を補佐した人物だが、どの政党にも所属していないテクノクラートだ。ウルゾ氏は前議会で国防委員会のトップを務め、外国資本による重要産業の買収防止をドラギ前政権や議会に進言した人物で、産業相としてもこうした政策を推し進めよう。司法相の人選を巡っては、ベルルスコーニ氏がメローニ氏を批判する走り書きがメディアでリークされ、一時はフォルツァ・イタリアが連立参加を見送るとの見方も浮上したが、両者は結局和解した。

同国史上初の女性首相となるメローニ氏は、第二次世界大戦時のファシスト指導者ベニート・ムッソリーニの側近や支持者が結党した政党に15歳で入党した経歴を持ち、かつてはEUに懐疑的な主張を繰り返してきた。だが、政権奪取を視野に今回の選挙戦では、極端な主張やEU批判を封印し、国際社会や金融市場の信頼獲得を優先している。そうした方針が連立内で今後も共有されていくかは不安も残る。最近も連立に参加するフォルツァ・イタリアを率いるベルルスコーニ元首相がロシアのウラジミール・プーチン大統領から誕生日の贈り物を受け取ったことがメディアでリークされた。また、新政権で副首相兼インフラ担当相に就くサルビーニ氏が率いる同盟は、ロシアの政権与党「統一ロシア」と協力協定を結び、親密な関係を築いてきた。メローニ氏は対ロシアでの欧米協調や親NATOの方針に賛同することが政権参加の条件とするが、連立政権内の不協和音をどう封じ込めるか、難しい課題を抱える。財政運営を巡っても、まずはEUとの全面衝突を避ける意向だが、同時に減税や物価高対策による国民生活の改善に期待して右派会派に投票した有権者を裏切る訳にはいかない。財政運営での何らかの譲歩を勝ち取ることができない場合や、政権の支持率が低下した際に、改めてEUとの向き合い方が問われよう。

新政権の現実路線が金利の上昇抑制に働いているが、財政運営を巡る不透明感が完全には払拭されないうえ、ECBの積極利上げ姿勢への転換もあり、イタリアの10年物国債利回りは6月半ばの緊急理事会開催時を上回り、4%台後半で高止まりしている。ECBは過去の資産買い入れや満期償還時の再投資を通じてイタリア国債を重点的に買い入れてきた。ECB関係者の間からも、量的緩和を通じて購入した資産の売却(量的引き締め:QT)に関する発言が増えており、近い将来に本格的な検討が開始される可能性が浮上している。今は3月末で新規の買い入れを終了したパンデミック緊急資産買い入れ(PEPP)の柔軟性をフルに活用することで、ファンダメンタルズを反映しない国債利回りの上昇を抑制する方針だが、将来のQT開始後は買い支えの力が弱まり、金利に一段の上昇圧力が及ぶ恐れがある。

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ