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- ハント新財務相はトラス政権の目玉政策である大型減税の大半を撤回するとともに、エネルギー料金の凍結期間を半年に短縮することを決定した。政府債務の膨張を食い止めるには、方針転換後も300~400億ポンドの追加の財政赤字削減が必要となる。月末に発表予定の中期財政計画に合わせて、増税や歳出削減策を発表するとみられる。来年4月にはエネルギー料金の凍結が終了し、消費者物価を大きく押し上げる。今回の減税見直しは、金融市場の動揺封じ込めとBOEの利上げ幅圧縮で景気を下支えする一方で、景気浮揚効果の縮小と物価の上振れを通じて景気を下押しする。トラス首相の辞任は時間の問題とみられるが、新たな後継党首選は国民不在の首相選出と映りかねない。
政策迷走による金融市場の動揺封じ込めを託された英国のハント新財務相は17日、トラス首相とクワーテング前財務相が決めた2026~27年までに総額450億ポンドの大型減税の大半を撤回するとともに、家計向けエネルギー料金の凍結期間を当初の2年間から半年間に短縮した。既に導入見送りを決めた所得税の最高税率引き下げと法人税率の凍結に加えて、所得税の基本税率引き下げなどを撤回することで、320億ポンドの財政赤字の圧縮が可能となる。また、こちらは一過性の影響となるが、エネルギー料金の凍結期間の短縮により、930億ポンドの財政圧縮要因となる。トラス減税で残るのは、国民保険料の引き上げ撤回と不動産取得税の引き下げのみで、新政権の目玉政策は大幅な軌道修正を余儀なくされる。大胆な方針転換でトラス首相のレームダック化は避けられず、当面はハント財務相が経済財政運営の舵取りを担うことになる。
英国の財政研究所(IFS)は、450億ポンドのトラス減税を実行したうえで、政府債務の膨張を食い止めるには、620億ポンドの財政赤字削減が必要と試算している。英国メディアによれば、政府の予算責任局(OBR)は同様に、720億ポンドの追加の財政赤字削減が必要と試算している。今回の方針転換で必要な財政赤字の削減額は300~400億ポンドに圧縮されるが、それでも政府債務の膨張が避けられない。10月31日に発表予定の中期財政計画に合わせて、ハント財務相は追加の増税や歳出削減策を公表する可能性が高い。エネルギー企業の超過利潤への課税や大規模な歳出削減が盛り込まれることが予想される。
10月以降、家計向けエネルギー料金を年間2500ポンドに凍結する措置は、当初の2年間から半年間に短縮され、来年4月に打ち切られる。現状程度のガス価格が続いた場合、凍結期間終了後のエネルギー料金は年間4000ポンド超に引き上げられる可能性がある。来年4月以降の消費者物価の大幅な上振れ要因となる。今回の減税見直しは、金融市場の動揺封じ込めとBOEの利上げ幅圧縮で景気を下支えする一方で、景気浮揚効果の縮小と物価の上振れを通じて景気を下押しする。方針転換を好感し、英国の長期国債利回りはやや低下したが、トラス・ショック以前に比べてなお高止まりしている。短期的には英国経済のマイナス成長転落は避けられそうにない。
就任から僅か1ヶ月余りでトラス首相は政権の統治能力を失った。辞任は時間の問題とみられるが、トラス首相選出時のような2ヶ月近くにわたって、保守党の後継党首の選出手続きを行えば、投票機会を持たない多くの有権者の反発を招く恐れがある。事実上の後継首相の選出手続きとなる保守党の党首選は、議員投票で2候補に絞り込んだ後、党員投票で新たな党首を選出する。後継首相を決める保守党員は、英国の有権者の0.3%程度に過ぎず、国民不在の首相選出と映りかねない。
田中 理
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