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2022.10.17
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シンガポール通貨庁、底堅い景気が続くなかで5回連続の金融引き締め
~政府は財政引き締めの修正を迫られるなど、政策対応は困難さを増している~
西濵 徹
- 要旨
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- 14日、シンガポール通貨庁は金融政策の手段であるNEERの中央値の実勢方向へのシフト(引き上げ)を決定した。足下の世界経済は減速が懸念されるなど、都市国家である同国経済の足かせとなる懸念がある一方、世界的な物価高と米FRBなどのタカ派傾斜はインフレを招いている。こうしたなかで通貨庁は昨年10月以降計4回の金融引き締めに動いてきたが、足下のインフレ率は通貨SGドル安も追い風に大幅に加速している。他方、足下の景気は予想外に底堅い動きが続いているが、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念があるなか、物価と為替の安定に向けて一段の金融引き締めに舵を切った。政府は財政面でも引き締め方向に舵を切ったが、景気の不透明感が高まるなかで微修正を余儀なくされている。先行きも一段の金融引き締めが迫られる一方、財政政策も調整を余儀なくされるなど難しい対応が続くと予想される。
このところの世界経済を巡っては、中国による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国景気のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて世界経済の足かせとなっているほか、商品高による世界的なインフレを受けて米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀がタカ派傾斜を強めるなか、欧米など主要国では物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせるなど、全体的に景気減速が意識される状況に見舞われている。また、米FRBなど主要国中銀によるタカ派傾斜の動きは世界的なマネーフローに影響を与えており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出の動きが強まる事態を招いている。こうしたなか、世界有数の都市国家として世界経済、なかでも世界貿易の動向の影響を受けやすいシンガポール経済を巡っては、上述のように世界経済の減速が意識される状況は景気の足を引っ張ることが懸念される。ただし、7-9月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+6.25%と前期(同▲0.90%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じている上、コロナ禍の影響が及ぶ直前である2019年末時点と比較して+7.2%上回る水準となっている。世界経済の減速懸念に伴う世界貿易の縮小の動きは製造業の生産活動の足かせとなる一方、感染一巡による行動制限の緩和や国境再開などを追い風にサービス業は活況を呈して景気を押し上げており、同国経済はコロナ禍の影響を克服するとともに、景気は着実に底入れしている様子がうかがえる。他方、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜を受けた国際金融市場における米ドル高の動きはSGドル相場の調整を招いているものの、SGドルの対米ドル相場は先月末に対米ドル相場は一時コロナ禍直後以来の安値となるなど、周辺国に比べると経済のファンダメンタルズの堅牢さを理由に緩やかな調整に留まる。ただし、都市国家ゆえにほぼすべての財を海外からの輸入に依存する同国経済にとっては、商品高による世界的なインフレの影響を受けやすい上、通貨安は輸入物価を通じたインフレ昂進を招くことが懸念される。事実、足下のインフレ率は世界金融危機直前以来の高水準に加速しているほか、コアインフレ率もともに加速の動きを強めており、上述のように外需を取り巻く環境が厳しさを増している上、物価高は家計消費をはじめとする内需の足かせとなることが懸念される。なお、同国では当局(通貨庁)が通常半期(4月及び10月)ごとに開催する定例会合において金融政策の見直しを行うとともに、その調整手段は名目実効為替レート(NEER)の政策バンドの幅及び中央値、傾きを調整するという特殊な方法が採られている。昨年後半以降の原油などエネルギー資源価格の上振れによるインフレ対応を目的に、通貨庁は昨年10月にコロナ禍後初の金融引き締め(傾きの上方シフト)に動いたが、その後の想定外のインフレ昂進を受けて今年1月に緊急引き締め(傾きの上方シフト)を実施した(注1)。しかし、その後はウクライナ情勢の悪化による商品高を受けたインフレ昂進に対応して4月の定例会合でも追加引き締め(中央値の引き上げと傾きの上方シフト)を決定したほか(注2)、その後も米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜によるSGドル安を受けて7月にも緊急引き締め(中央値の引き上げ)に動くなど(注3)、緊急対応を迫られてきた。ただし、上述のように国内外で景気に対する不透明感が高まる一方、物価や為替を巡る不透明感が高まっていることを受けて、通貨庁は先週14日の定例会合において今次局面において5会合連続となる金融引き締め(中央値の引き上げ)を決定した。会合後に公表した声明文では、先行きの物価動向について「輸入インフレ圧力は依然大きく、ひっ迫した労働市場が賃金上昇を招くことでコアインフレ率は今後数四半期に亘って高止まりするであろう」との見方を示すとともに、世界経済を巡って「地政学リスクを含めたさらなるショックがインフレの上振れを招くほか、いくつかの主要国では景気後退に陥る可能性がある」とするなど、景気に対する不透明感が高まっていることを示唆する動きをみせた。その上で、今年通年の経済成長率は「+3~4%になる」と従来見通し(+3~5%)の上限を引き下げるとともに、来年は「潜在成長率を下回るペースに留まると予想される」とする一方、物価動向は「今年のインフレ率は+6%前後、コアインフレ率は+4%前後になる」と従来見通し(インフレ率は+5~6%、コアインフレ率は+3~4%)の上限近傍にシフトさせるとともに「来年はGST(財・サービス税)引き上げを勘案すればインフレ率は+5.5~6.5%、コアインフレ率も+3.5~4.5%になる(GST引き上げを除けばインフレ率は+4.5~5.5%、コアインフレ率も+2.5~3.5%)」との見通しを示した。今回の決定を巡っては、国内外で金利上昇が進むなど景気に冷や水を浴びせる懸念が高まるなかで調整手段をひとつ(中央値)に絞ったとみられるものの、先行きは4月の定例会合で中央値と傾きの調整に動いたことに加え、米FRBはタカ派傾斜を維持する可能性が高まっていることを勘案すれば(注4)、一段の引き締めを迫られるとみられる。他方、政府は今年度予算において、来年からのGSTの段階的引き上げに加え、再来年からの個人所得税及び不動産税引き上げのほか、炭素税の段階的引き上げなど財政面で引き締め傾斜を強める動きをみせるが、景気の不透明感が高まるなかで低所得者層や中小企業を対象とする景気対策の実施しており、14日にも総額15億SGドル(GDP比0.3%)の追加対策を公表するなど段階的な修正を余儀なくされている。コロナ禍を経て公的債務残高の拡大ペースが加速するなかで政府は早期の正常化を模索する動きをみせてきたものの、景気に対する不透明感が高まるなかでそのスケジュールは後ろ倒しを余儀なくされることも予想されるなど、難しい対応が続くであろう。




注1 1月25日付レポート「シンガポール通貨庁、定例会合を前に急遽一段の金融引き締めを決定」
注2 4月14日付レポート「シンガポール通貨庁、半年で3度目の引き締め決定、引き締めペースも強化」
注3 7月14日付レポート「シンガポール通貨庁、コロナ禍以降2回目の緊急引き締めを決定」
注4 8月30日付レポート「FRBパウエル議長の言う「何らかの痛み」は新興国にどう影響する?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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