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- 経済分析レポート(Trends)
- BOEが市場安定で英国債を時限購入
- 要旨
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- 英新政権の大型減税発表後の金融市場の動揺を受け、BOEは10月14日までの時限措置として、英国債を1営業日当たり50億ポンド購入すること、10月上旬に予定していた保有国際の市中売却の開始を同月末に延期することを発表した。市場の不安心理の増幅を食い止めることにひとまず成功したが、時限買い入れ終了後に国債需給は再び悪化する。政府が対応を誤れば、政策への信頼が損なわれ、中銀の独立性や通貨の信任が問われかねない。
トラス新政権の大型減税発表後の英国資産の全面的な売りを受け、財務省とBOEが26日に緊急声明を発表したが、金融市場では新政権の経済政策に対する不信感が渦巻いている。11月23日に中期財政計画を発表するとの政府の方針や11月3日の次回金融政策委員会(MPC)での政策対応を約束するBOEと、即時対応を求める金融市場との温度差は大きい。市場心理の改善には、BOEによる緊急利上げに加えて、政府の財政運営方針の転換が必要との見方が広がっている。国際通貨基金(IMF)は27日、英国政府に対して大型減税の見直しを求める異例の声明を発表した。だが、今のところ政府が方針転換に応じる様子は見られない。大手格付け会社ムーディーズは28日、財源を伴わない大型減税措置が「クレジット・ネガティブ」に相当すると警告を発している。
こうしたなか、市場の動揺封じ込めに動いたのはBOEだった。チーフエコノミストを務めるピル委員は28日、「重要な金融政策上の対応が必要である」と発言。BOEは同日、①国債利回りの急激な上昇を受け、市場安定に必要なだけ英国債を緊急に買い入れること、②先週のMPCで決定した、10月上旬に予定していた保有国債の売却(量的引き締め)開始を10月31日に延期することを発表した。BOEは声明で、「ここ数日、市場の価格変動がより大幅になっている」、「市場の機能不全が続いたり、さらに悪化する場合、英国の金融システムにとって重大なリスクになる」、「それにより、金融環境が正当化できないほど引き締まり、実体経済への資金フローが細る」ことを指摘。通常の市場環境を回復するため、28日から長期国債の時限買入れを開始し、市場安定に必要と判断される規模の買い入れを行う方針を示唆した。買い入れ額の目安は1営業日当たり50億ポンドとされ、総額650億ポンドを想定する。緊急買い入れは10月14日までの時限措置で、市場が落ち着きを取り戻した段階で、円滑で秩序立った形で国債保有を解消する。同時に、国債の売却開始を延期するが、年間800億ポンドの売却目標を維持する。
26日の声明で示唆した通り、BOEは次回MPCで最近の経済環境を包括的に評価し、中期的に2%の物価目標を持続的に達成するため、政策金利を躊躇なく変更する方針も表明し、インフレ警戒による利上げを継続する姿勢を示している。政府の経済政策の迷走により、市場安定化のための時限措置とは言え、BOEが資金供給と資金吸収を同時に行うことを迫られた。BOEの緊急買い入れの発表を受け、英国債利回りは大幅に低下している。市場の不安心理の増幅を食い止めることにひとまず成功した形だが、時限買い入れ終了後に国債需給は再び悪化する。それまでに政府が政策の信頼を回復できるかは予断を許さない。今回の市場動揺は、政権発足直後の政策迷走と金融・財政当局間の足並みの乱れを露呈し、今後の政策の信頼性にも影を落としかねない。また、金融システムの安定が目的としながらも、政府の大幅国債増発を中銀の資産買い入れで吸収することは、財政ファイナンスと受け止められかねない。トラス首相が保守党党首選を通じてBOE批判を繰り返してきたことと相俟って、中銀の独立性や通貨の信任が脅かされている。大型減税はトラス政権の目玉政策で、政府が減税方針を撤回するのは難しい。考えられる軌道修正としては、一部の減税見直しと歳出削減を組み合わせることだろうか。11月23日の中期財政計画と予算管理局(OBR)の財政見通し発表で、市場センチメントが改善するか、英国の金融市場を取り巻く不透明感は今後もしばらく続きそうだ。
田中 理
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