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2022.09.26
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イタリアで右派ポピュリスト政権が誕生へ
~EUとの全面衝突は?閣僚人事に注目~
田中 理
- 要旨
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- イタリアでは25日の総選挙で極右とも称されるイタリアの同胞が勝利し、同盟とフォルツァ・イタリアとともに右派の連立政権を発足する。次期首相就任が有力なメローニ氏は、過去に過激な発言を繰り返してきたが、最近では政権奪取を視野に、EUの財政規律を遵守する方針や対ロシアでの米欧との協調姿勢を強調するなど、EUに懐疑的な主張を封印している。次期政権がEUとの全面対立を望んでいるかを判断する試金石として、経済財務相や外相などの閣僚人事に注目が集まる。選挙公約を実現しようとすると、財政運営を巡ってEUとの対立は避けられない。次期政権の現実姿勢が早速試されることになる。
イタリアのコロナ危機克服と政治危機回避を託されたマリオ・ドラギ首相が早期退陣に追い込まれ、同国と欧州の今後を占うイタリアの議会選挙が9月25日に行われた。出口調査によれば、主要政党で唯一ドラギ首相の挙国一致政権に参加していない右派ポピュリスト政党「イタリアの同胞」、前回2018年の総選挙後にポピュリスト政権に参加した右派ポピュリスト政党「同盟」、シルビオ・ベルルスコーニ元首相が率いる中道右派の「フォルツァ・イタリア」など、統一会派を組む右派政党が合計で41~45%程度の支持を集め、定数400の下院で240議席程度、定数200の上院で120議席程度を獲得した模様(図表1)。定数の約3分の1の議席が小選挙区で、残りの約3分の2の議席が比例代表で行われる総選挙は、統一会派を結成した右派に有利に働いた。対する左派勢は、かつての政権与党で中道左派の「民主党」と少数左派政党が25.5~29.5%程度、前回選挙で勝利した左派系ポピュリストの「五つ星運動」が13.5~17.5%程度、新興の中道左派政党「アジオン」と民主党出身のマッテオ・レンツィ元首相が率いる中道左派政党「イタリア・ビバ」の統一会派が6.5~8.5%程度を獲得した模様だが、統一会派の結成に失敗したことが響いた。
今後のスケジュールと政権発足に向けた流れを確認しておくと、投開票から20日以内(10月14日まで)に新議会を招集し、上下院議長を任命する(図表2)。その間、国家元首である大統領は、主要政党の党首と会談し、上下両院で過半数を確保できる連立の組み合わせを模索し、政権発足と組閣を命じる。過去の総選挙では投開票から政権発足までに平均で45日程度を要しており、新議会の招集日程と兼ね合わせると、10月下旬頃に新政権が発足する可能性が高い。総選挙後の政権発足には、上下両院での過半数の信任が必要となる。総選挙での統一会派と選挙後の政権発足の組み合わせが一致する必要は必ずしもないが、出口調査に基づく議席予想に基づけば、イタリアの同胞が単独政権を発足することや、2党のみで連立政権を発足することはできない。右派勢は会派内で最大の支持を集めた政党が首相を輩出することで合意しており、イタリアの同胞のジョルジア・メローニ党首が次期首相に就任し、同盟とフォルツァ・イタリアの3党が中心となる右派政権が誕生する公算が大きい。
次期首相就任が濃厚なメローニ氏が旗揚げしたイタリアの同胞は、第二次世界大戦時のファシスト指導者ベニート・ムッソリーニの側近や支持者が結成したナショナリスト政党である「イタリア社会運動」の流れを汲み、メローニ氏自身も過去に過激な発言を繰り返していた。反ドラギ政権を貫くことで世論の支持を集めたこともあり、今後の政権運営に不安が残るのも事実だ。だが、メローニ氏は現実主義者としての一面も持ち、最近では政権奪取を視野に、EUの財政規律を遵守する方針や対ロシアでの米欧との協調姿勢を強調するなど、EUに懐疑的な主張を封印している。メローニ氏は2008~11年の第四次ベルルスコーニ政権でイタリア史上最年少の閣僚(青年相)に就いた経験を持ち、欧州議会では、EU離脱前の英国の「保守党」が所属し、ポーランドの「法と正義」が所属する保守会派「欧州保守改革グループ(ECR)」の代表を務める。連立に加わる同盟も前回選挙後に政権入りし、フォルツァ・イタリアは長年政権を率いた中道右派の代表的な政党だ。2018年の前回選挙後に誕生したポピュリスト政権と異なり、一定の政権運営での経験値を持つ。
イタリアはEUがコロナ危機からの復興資金を加盟国に提供する復興基金の最大の受益国だ。今後も追加拠出を受け取るには、復興計画で約束した定性・定量目標の達成が必要となる(図表3)。また、財政運営や経済運営を巡ってEUと全面対立すれば、既に上昇が顕著なイタリアの国債利回りに一段の上昇圧力が及び、金融市場からの厳しい圧力に晒される(図表4)。まずはEUとの全面衝突を回避し、必要な要求をしていく方針と考えられる。出口調査に基づく右派会派の議席予想では、国民投票なしで憲法改正を伴う法案の成立が可能な上下両院の3分の2以上の議席には届かなかった模様だ。極端な政策を遂行する議会基盤の完全掌握に至らなかったことも、今後の政権運営の歯止めとなりそうだ。ウクライナ支援では対ロ強硬姿勢を採るメローニ氏に対して、ロシアの与党「統一ロシア」と協力関係を結ぶ同盟のマッテオ・サルビーニ党首は対ロ制裁に消極姿勢を示すほか、首相時代からロシアのプーチン大統領と友好的な関係を構築していたフォルツァ・イタリアのベルルスコーニ党首は、最近もウクライナ侵攻を巡ってロシアを代弁するかの発言を行って物議を醸した。次期政権が財政運営や対ロシア政策を巡ってEUとの全面対決を望んでいるかどうかを判断する試金石となりそうなのが、政権発足に向けて進められる閣僚人事だ。ベルルスコーニ政権で経済財務相を務めたジュリオ・トレモンティ氏(現在はイタリアの同胞に所属)の再任や、欧州議会議長などを歴任したアントニオ・タイヤーニ氏(フォルツァ・イタリアに所属)の外相就任があれば、政権がEUとの全面衝突を望んでいないとみることができよう。
次期政権が財政運営を巡ってEUとの全面衝突を回避するためには、選挙戦での公約を大幅に修正する必要がある。サクロ・クオーレ・カトリック大学付属のイタリア財政の研究機関は、イタリアの同胞や同盟が主張するフラット税導入、税・社会保険料負担の軽減、エネルギー料金の負担軽減、子育て世帯支援、年金改革、固定資産税の軽減を進めれば、イタリアの財政収支は最低でもGDP比で6.3%、最大で同9.3%悪化すると試算している(図表5)。政権発足後に来年度予算の策定に着手するが、10月15日の欧州委員会への提出期限は間に合わない。それ自体が問題視されることは恐らくないが、イタリア議会は12月末までに欧州委員会の勧告内容を踏まえた予算を成立させる必要がある。EUとの意見相違をどう乗り越えるか、次期政権の現実姿勢が早速試される。





田中 理
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