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2022.09.15
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タイ憲法裁、プラユット首相の任期を巡る判断を今月30日に下す方針
~判断如何では政局混乱の可能性、市場は政局に慣れっこも政治・経済ともに不透明感が高まる懸念~
西濵 徹
- 要旨
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- タイでは2017年に制定された現行憲法の首相任期規定に注目が集まっている。プラユット政権は憲法公布時、ないし民政移管後の正式就任を起算時点と捉える一方、野党は軍事クーデター後の暫定首相就任時を起算時点と捉えてきた。野党は憲法裁に判断を求めたところ、憲法裁は先月プラユット首相の職務停止を決定した。さらに、憲法裁は今月30日に判断を下すことを明らかにした。憲法裁が規定に抵触しないと判断すればプラユット氏は留任し、来年5月までに迫る次期総選挙に向けて邁進すると予想される。他方、抵触すると判断すれば即失職して次期首相選出の動きが活発化するが、国軍が影響力維持を図れば、政局が大きく混乱する可能性もある。金融市場は政局混乱には慣れっこだが、米FRBなどのタカ派傾斜はバーツ安を招いている。インフレが顕在化するなかで中銀は一段の金融引き締めを迫られる可能性もあり、政治の季節が近付くなかで政治のみならず、経済を巡る状況にも不透明感が急速に高まると予想される。
タイでは、軍事政権下の2017年に制定された現行憲法における首相在任期間に関する規定(最長で通算8年)に注目が集まってきた。というのも、プラユット首相を巡っては、2014年の軍事クーデターを経て、その後に陸軍司令官であった同氏が当時のプミポン国王の任命により『暫定』首相に就任する形で軍事政権が誕生した。その後は2019年の総選挙(人民代表院選挙)を経て、プラユット氏が率いる親軍政党(パランプラチャーラット)を中心とする与党連立が多数派を形成し、同氏はあらためて『正式に』首相に就任した。こうした経緯から、プラユット政権は首相の在任期間について、2017年の現行憲法が公布された時点(2017年4月6日)、ないし民政移管後の正式就任時(2019年6月11日)を起点する判断を行ってきた。他方、野党は軍事クーデター後の暫定首相就任時(2014年8月24日)を首相在任期間の起点とみており、先月23日に就任から丸8年を迎えることを受けて、憲法裁判所に対して首相在任期間に関する判断を求めるとともに、結論が出るまで職務停止を求める請願書を提出した。その後は憲法裁による判断の行方に注目が集まったが、先月24日に野党が提出した請願書を受理するとともに、憲法裁としての判断を下すまでプラユット首相の職務を停止することを発表した(注1)。なお、憲法裁が首相任期に関する判断を下すことについては9名すべての裁判官が賛成したほか、プラユット氏の職務停止についても5名が賛成するなど、憲法裁自身が中立性を重視している様子がうかがえる。プラユット氏の職務停止を受けて、プラウィット副首相が暫定的に首相職を代行しているが、プラウィット氏も元陸軍司令官であり、軍歴上はプラユット氏の元上司であったほか、現在はパランプラチャーラットの党首を務めるなど事実上の軍政状態は維持されてきた。こうしたなか、憲法裁判所は14日にプラユット首相の任期を巡る裁判に関する判決を今月30日に下すことを明らかにした。プラユット氏は自らの意見を表明していないものの、憲法裁の決定を尊重するとの考えを示している。憲法裁が任期規定に抵触しないと判断すればプラユット氏が首相職に留任し、来年3月に議会下院の任期満了、来年5月までに次期総選挙の実施が迫るなか、今年11月に開催予定のAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議を議長として仕切り、その成功による政治基盤の強化を追い風に次期総選挙での党勢及び政権維持を目指すとみられる。他方、仮に憲法裁が任期規定に抵触すると判断した場合、プラユット氏は即時失職して内閣総辞職となる。その後は2019年の総選挙を経て各党が首相候補に登録した名簿のなかから議会上下院による首相指名選挙が行われるが、最大与党のパランプラチャーラットはプラユット氏のみを首相候補に登録したため、与党連立内において別の候補を推さざるを得ない。具体的には、与党連立内で第2党であるタイの誇り(プームチャイタイ)の党首であるアティヌン副首相兼保健相が有力候補になるとみられる。ただし、アティヌン氏自身は北東部を地盤とする有力政治家ではあるものの、大手建設会社の創業一族の出身であるなど国軍との関係は薄く、国軍が影響力を行使しにくい政治家を嫌う可能性も予想され、軍の意向を反映する形で首相候補を探る可能性も取り沙汰されている。そうなれば、首相職を代行しているプラウィット副首相が一転して次期首相候補の有力候補となることが考えられる。よって、憲法裁の判断は今後のタイ政局を大きく揺るがす可能性が高まると予想される。他方、前回総選挙では『反軍政』を謳う第3極(アナコットマイ)が躍進するも、民政移管後も事実上の軍政状態が続いていることに若年層を中心に反発が強まったほか、2020年に同党が解党命令を受けたことで民主化を求める動きが激化した。その後も一昨年来のコロナ禍対応を巡る政府の不手際に加え、ワチラロンコン国王がドイツで自主隔離していたことが明らかになり、民主化運動は王室批判に発展したため、仮に国軍が政治的影響力の維持に動けば反発が再燃することは避けられない。なお、国際金融市場はタイの政局混乱には『慣れっこ』でこれが材料視される可能性は低いものの、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜は新興国からの資金流出を招く懸念があるなか(注2)、バーツ相場は再び年初来安値をうかがうなど資金流出圧力に直面している。このところの幅広い商品高の動きを受けて足下のインフレ率は大幅に加速する動きが続いており、バーツ安による輸入物価の押し上げはインフレの一段の昂進を招く懸念がある。中銀は先月にコロナ禍後初の利上げに動くも、景気回復が道半ばの状況が続くなかで小幅利上げに留める対応を維持したが(注3)、先行きは物価及び為替安定を目的に大幅利上げを迫られる可能性も高まる。政治の季節が近付くなかで、政治のみならず経済を巡る状況に不透明感が高まる可能性は急速に高まっていると判断出来る。


注1 8月25日付レポート「タイ憲法裁、プラユット首相の職務停止決定で政局混乱の可能性」
注2 8月30日付レポート「FRBパウエル議長の言う「何らかの痛み」は新興国にどう影響する?」
注3 8月10日付レポート「タイ中銀、すべての政策委員が利上げ主張も小幅利上げに留まる」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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