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2022.07.26
アジア経済
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韓国景気は予想外の底堅さも、先行きには悪材料が山積
~家計消費の拡大は一時的、物価高と金利高の共存は家計、企業のマインドの足かせとなる懸念~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済は拡大が続く一方、ウクライナ問題を受けた供給懸念は商品高を招くなか、主要国中銀のタカ派傾斜も重なり国際金融市場を取り巻く状況は変化している。経済のファンダメンタルズの脆弱な新興国は資金流出に晒されやすく、韓国は経済、政治を巡る不透明感を受けて資金流出に直面する。中銀は断続的な利上げを実施しており、足下では物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。
- 年明け直後の韓国では感染再拡大が景気の重石となったが、3月半ばを境に感染動向は一巡するなどペントアップ・ディマンドが発現した結果、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+2.94%と底打ちしている。ただし、外需の低迷や金利高は企業部門の設備投資の足かせとなっているほか、在庫の積み上がりが成長率の押し上げ要因となる動きもみられる。足下では家計、企業ともにマインドが悪化しており、物価高と金利高の共存を嫌気する動きもみられ、景気は一旦底打ちするも先行きについては不透明感がくすぶっている。
- 当面の景気は中国景気の底打ち期待が外需の追い風となり得る一方、物価と為替の安定に向けた金融引き締めの影響は避けられない。他方、為替安定に向けた介入により外貨準備高は減少するなど体力は低下しており、不動産市況や家計債務の動向を含めて金融市場の行方にこれまで以上に注意が必要と言える。
足下の世界経済を巡っては、中国当局による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国経済への依存度が高い国々の足かせとなる動きが続く一方、欧米など主要国を中心にコロナ禍からの回復が続くなかで全体的には緩やかな拡大の動きを維持している。他方、ウクライナ問題を受けた欧米などの対ロ制裁強化による供給不安も重なり、足下では原油をはじめとするエネルギー資源のみならず、穀物など幅広く商品市況は上振れしており、世界的にインフレ圧力が強まる動きがみられる。こうした事態を受けて、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めており、国際金融市場においてはコロナ禍対応を目的とする全世界的な金融緩和を追い風とする『カネ余り』の手仕舞いが進んでいる。こうした金融市場を取り巻く環境の変化は世界的なマネーフローに影響を与えるとともに、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出を招く傾向がある。韓国については、1990年代末に発生したアジア通貨危機の影響が直撃したものの、その後はIMF(国際通貨基金)が主導した経済改革を追い風にここ数年の経常収支は黒字基調で推移するなど、当時とは状況が大きく異なる。他方、足下では最大の輸出相手である中国経済の減速懸念が外需の足かせになるとともに、北朝鮮を巡る地政学リスクもくすぶる上、5月に発足した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は早くも支持率が急落するなど、経済、政治の両面で不透明要因が山積している。そして、一昨年来のコロナ禍対応を理由に同国政府は財政出動による景気下支えに動くなど財政状況も悪化するなか、商品高による貿易収支の悪化を受けて経常収支の黒字幅は縮小している。また、足下のインフレ率は23年半ぶりの水準に加速するなど大きく上振れしており、経済のファンダメンタルズは悪化している。こうした悪材料の重なりも影響して国際金融市場においては資金流出圧力が強まっており、足下の通貨ウォン相場は調整の動きを強めて世界金融危機直後以来となる水準に低下するなど、輸入物価を通じてさらなるインフレの昂進を招くことが懸念される。なお、中銀はコロナ禍対応を目的とする金融緩和によるカネ余りの背後で首都ソウルを中心とする不動産市況の高騰とともに、家計部門の債務膨張を招くなど金融セクターを巡るリスクが高まっていることに対応して、昨年8月に2年9ヶ月ぶりの利上げに動くとともに、その後も断続的に利上げを決定するなど金融引き締めの動きを強めてきた。さらに、上述のようにインフレが一段と昂進していることを受けて、中銀は今月の定例会合において利上げ幅を50bpに拡大させるなど引き締め度合いを強めているものの(注1)、国際金融市場においては米FRBのタカ派傾斜を理由に米ドル高圧力が強まるなかで『タカ派度合い』の差がウォン相場の重石となる展開が続いている。中銀はコロナ禍以降だけで計6回、累計175bpもの利上げを実施しているものの、足下の同国は物価高に見舞われるなかで為替動向も不安定な状況が続いており、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。


なお、年明け直後の韓国においては、感染力の強いオミクロン株による新型コロナウイルスの感染再拡大の動きが広がるとともに、過去の波を大きく上回るペースで感染が急拡大したことから人の移動に下押し圧力が掛かるなど家計消費が鈍化する動きがみられた。さらに、中国景気の失速懸念が外需の足かせとなるなか、昨年後半以降の中銀による断続的な利上げ実施による金利負担の増大も重なり企業部門の設備投資意欲も後退するなど、内・外需双方に景気の足を引っ張る材料が山積する事態に直面した。しかし、韓国国内における新規陽性者数は3月中旬を境に頭打ちに転じるとともに、下振れした人の移動も4月以降は底入れの動きを強めるなど家計部門を取り巻く状況は改善している。さらに、中国当局はゼロ・コロナ戦略に拘泥する姿勢を変えていないものの、先月以降は最大都市の上海を対象とする都市封鎖(ロックダウン)は解除されるなど経済活動の正常化が進められるなど、外需を取り巻く状況も当面の最悪期を過ぎている。こうした動きを反映して、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+2.94%と前期(同+2.56%)から伸びが加速するなど、頭打ちの様相を強めてきた景気に底打ちしている様子がうかがえる。内訳をみると、感染拡大の一服を受けた人の移動の底入れの動きを反映したペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)の発現により家計消費が押し上げられる一方、企業部門の設備投資意欲は弱含む推移が続いているほか、金利上昇の動きを反映して家計部門を中心とする住宅需要も下振れするなど、固定資本投資は鈍化している。他方、中国経済の減速やサプライチェーンの混乱を反映して輸出は大きく下振れしている一方、家計消費の堅調な動きにも拘らず、企業部門の設備投資意欲の弱さや住宅投資の低迷は輸入の足かせとなる動きもみられる。また、在庫投資の成長率寄与度はプラス幅が拡大するなど、在庫の積み上がりが成長率の押し上げ要因となる動きも確認されており、先行きについては在庫調整圧力が生産活動の足かせとなることが懸念される。足下では製造業を中心とする企業マインドに下押し圧力が掛かる動きがみられる上、家計部門のマインドも急速に下振れしており、月次レベルでは景気を取り巻く状況が悪化しつつある様子がうかがえる。


当面の景気については、中国景気の回復期待が外需を押し上げることが期待される一方、企業マインドの悪化を反映して若年層を中心に雇用を取り巻く状況は厳しさを増しているなか、物価高と金利高の共存が家計消費の足かせとなることは避けられない。さらに、国際金融市場においては米FRBのタカ派傾斜を理由とする米ドル高がウォン相場の重石となる展開が続くと見込まれるなか、中銀は金融引き締めに加えて為替介入を通じてウォン相場の安定化を図る動きをみせている模様であり、その背後で昨年後半以降の外貨準備高は減少している。足下における外貨準備高の水準はIMFによる国際金融市場の動揺に対する耐性を示す適正水準評価(ARA)を巡って、適正水準をクリアするも下限近傍に低下するなど体力は着実に低下している。今後は中銀によるタカ派傾斜を受けて主要国がリセッション(景気後退)に陥ることが懸念されるなど、世界経済の下振れが意識されやすくなるなか、同国が危機的状況に陥るリスクは依然低いとみられるものの、一段と体力が低下すればそうした影響に晒されやすくなる可能性は高まる。不動産市況やその背後にある家計部門の過剰債務など、金融市場の動揺が強まることによる影響を注視する必要性はこれまで以上に高まっている。

注1 7月13日付レポート「韓国中銀、アジア通貨危機以降で初の大幅利上げに舵」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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