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ドイツはガス供給の非常警報を発令

~冬場のガス不足で高まる景気後退リスク~

田中 理

要旨
  • ロシアがドイツ向けのガス供給を絞るなか、供給不足の懸念が高まっているとして、ドイツ政府は23日、ガス供給の「非常警報」を発令した。ノルドストリーム1は来月に定期点検が計画されており、ロシアが何らかの理由をつけて、定期点検後も稼働を認めない恐れもある。このまま冬場のガス不足が深刻となれば、資源価格の更なる高騰が避けられない。ECBが利上げを強化し、景気をオーバーキルする恐れが高まる。欧州にスタグフレーションの影が忍び寄っている。

ロシアは6月中旬以降、北海経由のパイプライン「ノルドストリーム1」を通じたドイツ向けのガス供給を6割程度絞っている。ドイツ政府は23日、供給不足の懸念が高まっているとして、3段階の緊急調達計画の2段階目にあたる「非常警報」に引き上げた。エネルギー事業者に対して、価格調整などの措置を指示できるようになる。夏場はガス需要が比較的少ないため、すぐに供給不足に陥る懸念はないが、需要期に向けた備蓄積み増しが十分にできないことから、冬場のガス不足が懸念される。ドイツでは現在、最大備蓄容量の58%のガスを備蓄しており、これを冬場に向けて90%に引き上げる計画だが、その達成が危ぶまれる。ガス会社はパイプライン経由のガス調達の減少分を代替すべく、スポット市場での調達を余儀なくされている。政府が検討を進めるLNGの陸揚げ設備の建設には時間が掛かる。

ロシアの国営ガス会社ガスプロムは7月11日から、定期点検に伴いノルドストリーム1の稼働を一時中止することを計画している。10日余りの定期点検中は通常、ウクライナやポーランド経由のパイプラインの供給量を増やすが、前者はウクライナ紛争を理由に、後者は報復制裁の一環で欧州向けのガス供給が細っている。定期点検中に他のパイプライン経由のガス供給が増加しない恐れがある。さらに、ガスプロムが何らかの理由をつけて、定期点検後もパイプラインの稼働を認めないことも考えられる。こうした事態が起きれば、ドイツ政府は3段階目の「緊急事態」を発令し、ガスの配給制度を導入する可能性がある。

原油先物市況は、ブレント原油が現在の110ドル/バレル台をピークに、年末には100ドル割れ、来年春には95ドル割れすることを見込んでいる。ECBが6月に発表したスタッフ見通しも、こうした原油先物市況の動きを前提に、消費者物価が近くピークアウトすると考えている。だが、冬場の需要期のガス不足が現実のものとなれば、原油や天然ガス価格のさらなる高騰が避けられない。物価の一段の上振れや高止まりが続けば、7月の利上げ開始を明言しているECBは、利上げ幅の拡大や大幅利上げの継続が必要となる。昨日発表されたユーロ圏のPMIに急ブレーキが掛かるなど、足許で欧州景気に減速の兆しが広がっている。インフレ加速を警戒した利上げ強化によって、景気をオーバーキルする恐れが高まっている。欧州にスタグフレーションの影が忍び寄っている。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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