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2022.06.24
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トルコ中銀の「のれんに腕押し」でリラ相場は一段のじり安が不可避
~外交関係でリラ相場の暴落は免れるも、経済の体力は着実に低下するなど困難は増している~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の世界経済は先進国を中心にコロナ禍からの回復が続くなか、ウクライナ問題を受けた商品高によりインフレが顕在化している。米FRBなどはタカ派傾斜を強めるなど、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国を取り巻く環境は厳しさを増している。トルコは「双子の赤字」やインフレに直面する上、外貨準備高も過小であるなどファンダメンタルズは極めて脆弱である。ただし、インフレ昂進にも拘らず中銀は「金利の敵」を自認するエルドアン大統領の下で経済学の定石では考えられない政策を志向しており、23日の定例会合でも6会合連続で政策金利を据え置いている。ウクライナ問題を巡って仲介役を買う動きのほか、サウジとの関係改善に動くなど外交関係がリラ相場の暴落を招くリスクは低下しているが、政策運営の「危うさ」はじり安を招いている。ただし、経済の体力は着実に低下するなど、経済・外交両面での「瀬戸際」感は増している。
足下の世界経済は、欧米など先進国を中心にコロナ禍からの回復が続く一方、中国による『ゼロ・コロナ』戦略の余波を受ける形で中国経済との連動性が高い新興国景気は下振れするなど対照的な動きをみせているが、全体としては緩やかな拡大が続いている。世界経済の底入れに伴い原油をはじめとする国際商品市況は昨年以降底入れしてきたが、足下ではウクライナ情勢の悪化も重なり幅広く商品市況は上振れするなど、全世界的にインフレが顕在化している。こうした動きを受けて、米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする主要国中銀は軒並みタカ派傾斜を強めており、国際金融市場ではコロナ禍を経た全世界的な金融緩和に伴う『カネ余り』の手仕舞いが進んでいる。さらに、主要国中銀のタカ派傾斜による金利上昇は新興国へのマネーフローに変化を与えており、なかでも経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な新興国では資金流出圧力が高まりやすくなっている。トルコは慢性的に経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』を抱える上、足下の商品高を受けてインフレも昂進しているほか、外貨準備高も国際金融市場の動揺に対する耐性が極めて乏しい特徴がある。こうしたことから、トルコは2013年に米FRBのバーナンキ議長(当時)による量的緩和政策の縮小「示唆」発言をきっかけとする国際金融市場の動揺(テーパー・タントラム)に際して資金流出が集中した5ヶ国(フラジャイル・ファイブ)の一角となった経緯もある。他方、昨年以降のトルコではインフレの昂進にも拘らず、中銀は『金利の敵』を自認するエルドアン大統領の『圧力』に屈する形で断続的な利下げを実施する経済学の定石では考えられない政策運営に動いた。結果、金融市場では昨年末にかけて資金逃避の動きが活発化して通貨リラ相場は大きく調整し、政府はトルコ在住の国民のリラ建定期預金に対してハードカレンシーに対する価値を補償する実質的な米ドルペッグという『奇策』に動くなど(注1)、財政負担の増大リスクも増している。リラ相場は一旦落ち着きを取り戻す動きをみせたものの、インフレ率が一段と昂進の動きを強めているにも拘らず中銀は『どこ吹く風』の静観姿勢を維持する一方、上述のように米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜など外部環境の変化も重なり足下のリラ相場はじり安の動きをみせている。こうしたなか、中銀は23日に開催した定例の金融政策委員会においても6会合連続で政策金利である1週間物レポ金利を14.00%に据え置くなど、他国と真逆の対応を維持している。会合後に公表された声明文では、足下の物価上昇について「地政学リスクによるエネルギー価格の上昇、経済のファンダメンタルズに基づかない価格形成による一時的な影響によるもの」との見方を示すとともに、先行きについて「持続可能な物価及び金融安定化策の強化を受けてディスインフレプロセスが始まる」との従来からの見解を維持している。こうした対応は、足下のインフレ昂進を受けて家計及び企業ともにマインドが下振れするなど景気の足かせとなるなか(注2)、景気下支えを重視したものと捉えられるものの、その背後ではリラ安が進むとともに外貨準備高は一段と減少するなど同国経済の『体力』は着実に蝕まれている。なお、トルコはウクライナ問題の改善に向けてロシアとウクライナの『仲介役』を買って出ており、具体的な成果は上がっていないものの米国はこれを評価する動きをみせるほか、2018年に同国で発生したサウジアラビア人記者の殺害事件を巡って悪化した同国との関係改善に動くなど、外交関係がリラ相場の暴落を抑える一因になっているとみられる。他方、トルコ人実業家に対する国家転覆罪を理由とする終身刑判決のほか(注3)、北欧のフィンランド及びスウェーデンによるNATO(北大西洋条約機構)加盟に対する反対表明など揺さぶりを掛けている上(注4)、隣国シリアとの国境沿いでの軍事作戦展開など、欧米諸国などとの外交問題に発展し得る動きは枚挙に暇がない。ウクライナ問題を巡っては上述のようにトルコが『キープレイヤー』然とした動きをみせており、結果として欧米などもトルコが抱える問題に明確な姿勢を示すことが出来ない一因になっているとみられるものの、経済及び外交の両面での『瀬戸際』感はこれまで以上に増していると捉えられる。
注1 2021年12月21日付レポート「トルコ、リラ建預金の「実質的な米ドルペッグ」という奇策を発表」
注2 6月2日付レポート「トルコはプラス成長を維持も、この内容をどう評価したものだろう?」
注3 4月26日付レポート「トルコ、リラ建預金の「トルコ、実業家への終身刑判決で対外関係の悪化リスクが再燃」
注4 5月19 日付レポート「トルコはなぜ北欧2ヶ国のNATO加盟に反対するのか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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